2018/9/22

「女性の活躍」なる看板のメッキが剥がれている状態、正攻法の人権推進と平等の観点からの政策を  ]U格差社会
 ◆ 安倍政権が進める「女性の活躍」
   社会進出とケア責任の押しつけは両立しない
(教科書ネット)
打越さく良(うちこしさくら・弁護士)

 ◆ 「女性の活躍」は「経済再生」に向けた「3本の矢」の1つ

 医科大学の不正入試問題。前財務次官のセクハラについて断固たる姿勢を示そうとしなかった麻生財務大臣。それやこれや、「女性の活躍」なる看板のメッキが剥がれている気がしてならない。
 政権は、キラキラフレーズを使わなくていいから、差別解消、セクハラなどの人権侵害の防止を徹底すべきなのだ。
 憲法にある、性別による差別の禁止や両性の本質的平等という、個人の尊厳という憲法の究極の価値に立ち戻るべきなのだ。
 本質的な言葉は忌避され、平等ではなく「均等」、さらに「男女共同参画」といった曖昧な言葉が使われ、第二次安倍政権下では、「活躍」「輝く」といったキラキラフレーズで一層ごまかされている。


 そんなフレーズのもと、思いつきとしか言いようがない政策がなされる。
 たとえば、「すべての女性が輝く社会づくり本部」(14年10月発足)は、当時の有村治子女性活躍担当大臣の肝煎りで「日本トイレ大賞」がぶちあげられた。性別にかかわらず排泄するのだが。さすがに1回で終わったようではある。

 安倍政権がなぜ女性女性とやたら言うのかと言えば、人口減少に見舞われる日本が経済力を維持していくために、女性も動員せねばならないからだ。
 そもそも「女性の活躍」は、「経済再生」に向けた「3本の矢」のひとつ、「経済成長につなげるための成長戦略」の一端として打ち出された。経済成長には女性の活用をとの海外からの指摘に呼応したものなのである(1)。

 ◆ 更なる長時間労働を促しかねない

 もっとも、結果的に女性個人のためにもなるならいいのだが、どうもそうはならない。
 女性の活躍推進法(2015年成立)は、女性活躍政策の目玉であるが、主眼は、就業率の上昇。労働人口の減少を背景に、女性の就業率は上がる。
 働く女性の55.8%が非正規労働であり、非正規労働者の賃金水準が正規労働者の約4割程度ということからして(平成29年国民生活基礎調査)、待遇の改善こそ望まれる。

 また、内閣府の調査によれば、女性が第一子出産前後の就業継続率は未だ5割弱。男性の長時間労働が当たり前でワンオペ育児の負担が女性にかかる状況が背景にある。
 改善には、男女間わず長時間労働を是正しなければならない。
 しかし、7月に成立した「働き方関連法」の高度プロフェッショナル制度は、更なる長時間労働を促しかねない。

 プログ「保育園落ちた日本死ね!!!」につき、2016年2月、安倍首相は「匿名である以上、実際に本当であるかを、私は確かめようがない」と突き放した。
 冷淡さに愕然とした女性たちは、「保育園落ちたの私だ」というプラカードを掲げて国会前に立ち、1週間で2万7682人分の署名を集め、政府に届けた。
 しかし、現在もなお待機児童は減っていない。保育士の待遇改善などが望まれる。

 ◆ 「活躍」は女性に家庭責任を課したいサイン

 安倍政権の「活躍」は多様な選択を尊重するものではなく、女性に対し家庭責任を課したいというサインも発している。
 「三世代同居」を優遇(2)するべく、そのためのリフォームを減税の対象とする税法改正が2016年になされた。これは、中立的で公平たるべき税制の原則を曲げてしまったものである(3)。
 三世代といった「縦の血族の共同体」への郷愁は、自民党改憲案(2012年公表)の24条にもうかがえ、ここでは紙数が足りず詳述しないが(4)、「単位」としての家族を強調することに、戦前家族が国家の権力機構の末端に位置づけられたことを想起する。
 復古的な傾向のみならず、自己責任を強調し、家族にケアを押し付け、福祉を切り捨てるネオリベラリズムな志向とも合致する。
 さらに、「自然」な単位としての家族ではないと、ひとり親家庭やゲイやレズビアンカップル等を除外することも予想される(来年度中学の道徳教科書に登場する家族は三世代ばかり…)。
 18年度の生活保護費見直し(母子加算を平均2割カット)は、ひとり親を切り捨てようとしている。

 選択的夫婦別姓についての政権の態度も取り上げたい。
 世界で法律上同姓しか認めない国は日本だけである。未だに96%弱の夫婦で女性が改姓している事態なのに、選択的夫婦別姓を導入しないのは、不合理である。
 しかし、「夫婦同姓はわが国の伝統」という右派の支持を意識した安倍政権は決して民法改正案を提出しない。
 庶民が氏を名乗ったのは、明治に入ってからに過ぎず、それも当初は夫婦別氏がデフォルト(標準)だったのだが…。
 ともかく、憲法や女性差別撤廃条約に則し、選択的夫婦別姓を実現すべきなのだ。

 ◆ 女性の自己決定は「勝手なこと」なのか

 「少子化対策」の旗印のもと、安倍首相は2015年9月、アベノミクス「第ニステージ」として一億総活躍社会を掲げ、第二の矢のターゲットは、「希望出生率1.8の実現」であるとした。
 数値目標の達成には、保育所など環境整備が必要であるのに、少子化社会対策大綱(15年閣議決定)では、「学校教育段階から妊娠・出産等に関する医学的・科学的に正しい知識」を教育することを盛り込んだ。以後、とにかく早く産めよ育てよと「正しくない知識」まで教育している(5)。
 若年での妊娠出産を奨励する「ライフプラン教育」の試みも全国で既に始まっている(6)。一方で、妊娠や出産に関する自己決定には一顧だにされていない(7)。

 6月26日、二階自民党幹事長「子どもを産まないほうが幸せじゃないかと勝手なことを考える人がいる」と発言した。女性の自己決定は、少子化による国力の衰退を憂う国家としては、「勝手なこと」なのだ。
 女性の社会進出と、ケア責任の押しつけは、両立しない。自己責任やら「家族の絆」を強調しても、無理なものは無理。
 正攻法の人権推進と平等の観点からの政策が必要と気づくときである。

 【註】
 (1)三浦まり「女性政策『女性活躍』という名前の生きづらさ」中野晃一編『徹底検証安倍政治』(岩波書店、2016年、175頁ないし176頁)の指摘。
 (2)「二世帯住宅」という言葉が従前から使われていたにもかかわらず、縦の流れを強調するこのような用語を突如使用されるようになった。
 (3)堀内京子「税制で優遇される「家族の絆」」塚田穂高編著『徹底検証日本の右傾化』筑摩書房、2017年、同「税制と教育をつなぐもの」早川タダノリ編著『まぼろしの「日本的家族」』青弓社、2018年、参照。
 (4)中里見博他著『右派はなぜ家族に介入したがるのか』(大月書店、2018年)等参照。24条改憲の先取りとも思われる「家庭教育支援法案」を取り上げた拙稿も収められている。
 (5) 2015年文科省が作成した高校保健副教材の「妊娠しやすさ」が22歳をピークに急に下がるグラフが改変された誤ったものであるとして、訂正される事態となった(西山千恵子・柘植あつみ『文科省/高校「妊活」教材の嘘』論創社、2017年、参照)。
 (6)斉藤正美「バックラッシュと官製婚活の連続性」早川タダノリ編著・前掲書、参照。
 (7)リプロダクティブライツの視点を盛り込み、性暴力や性犯罪抑止をめぐる文章もあった中学校教材は、2000年代初め自民党右派議員らによる「過激」「行き過ぎ」といったバックラッシュを前に一部自治体が回収する事態となった(斉藤前掲論文)。

『子どもと教科書全国ネット21ニュース 121号』(2018.8)


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