2019/6/13

憲法九条改“正”に賛成票を投じる児童を増やすのに大きく“貢献”する小4社会科教科書  ]Vこども危機
  《紙の爆弾より》
 ◆ 憲法9条を学ぶより先に・・・
   自衛隊を「役立つ」と教化する小4社会科教科書

取材・文 永野厚男

 二〇二〇年四月から使用される小学校社会科教科書(今夏、全国の教育委員会で採択)のうち、自民党が一二年の改憲案以降ターゲットにしている、自衛隊・天皇・君が代・神話・愛国心の五つの問題は、政府見解や特定の施策の教え込み(indoctrination)が多い。
 リベラルな意見はほとんど載せず、改定教育基本法第一四条の政治的中立性に違反し、同党や防衛省の広報誌のようになっている。4年生の自衛隊記述に絞り、その危険性を紹介、分析する。

 ◆ 小4で自衛隊の肯定的教化を強制
 現在の公立の小中高校等の教科書を巡る制度は、まず執筆・編集は二〇〇六年十二月、第一次安倍政権が”国を愛する態度”を盛る等、改定した教育基本法と、


 文部科学省が”官報告示”するため「大綱的基準として法的拘束力あり」とする学習指導要領(以下、指導要領)との両方に、即して記述するよう、雁字搦(がんじがら)めになっている。

 各教科書会社(以下、出版社)が文科省に、申請図書(表紙が真っ白で、社名を書かず受理番号だけなので、白表紙(しろひょうしぽん)本という)を提出し、同省が約一年かけ検定し、修正するべきだとする箇所に検定意見を付け、出版社が修正し同省が是とすれば合格となり、その翌年度の早い時期に出版社は必要部数を印刷し(これを見本本という)全国の教委や学校等に郵送。
 全国の教委は検定合格した見本本の中から、各教科・科目ごとに一社のものを採択し、次の年度から児童・生徒が使用する。
 このように四年ごとに執筆・編集、検定、採択、使用というサイクルになっている。
 ただし、前回の一三年度検定を経た小学校教科書は一五年四月から使用しているが、文科省が小中の指導要領を一七年三月に改訂したため、サイクルが一年ずれ、文科省は今年三月二十六日、検定結果を同省記者クラブ記者にだけ”公表”した(一般公開はニカ月後)。

 社会科の指導要領は○八年改訂まで、自衛隊の軍事(防衛)面は、中学3年(十四・十五歳)で憲法第九条との関係を含め、初めて学ぶよう規定していた。
 小学校社会科の指導要領は、「3年で市区町村→4年で都道府県→5年で国土の様子と国民生活等→6年で日本の歴史や国の政治の働き等」と、発達段階に配慮し教える構造になっていたからだ。

 しかし文科省は、一七年三月三十一日改訂した、小学校指導要領4年(九・十歳)社会の「自然災害から人々を守る活動」で、県庁・市役所とともに「国の機関」として自衛隊を明示し、「取り上げる」よう求めた
 前述の通り、まだ都道府県を学ぶ段階で突如、自衛隊を教え込むのは、発達段階への配慮を欠く。しかも、憲法九条との関係を考えさせないままの教え込みなので、政治的中立性を欠き、偏向教育と言わざるを得ない。

 一方、指導要領の6年生の「内容」の「日中戦争や我が国に関わる第二次世界大戦、日本国憲法の制定」の指導については、「内容の取扱い」で、「指導に当たっては、児童の発達の段階を考慮すること」と明記しており、戦争の悲惨さや九条の意義に触れさせたくない意図が垣間見られる。

 ところで、日本には災害派遣の専門部隊が消防・警察以外にはないため、世論調査では自衛隊の災害派遣を多くの人が評価しているが、軍事面(武力行使、すなわち戦争をする防衛出動と、六〇年安保闘争の時、民衆に銃を向けようとしていた治安出動)については賛否両論がある。

 自衛隊員募集のダイレクトメールやポスターに防衛省が絶対に書かない、以下の@〜Bの事実をしっかりと伝えれば、「憲法違反の軍隊であり、反対」と思う人が多数派になれるのではないか(特に万一、憲法改悪になれば戦場に行かされる危険性の高い若い世代においては)。
 一般の公務員で、”職場放棄”した者が出たり、家族が”職場放棄”を教唆(きょうさ)・幇助(ほうじょ)しても、本人への懲戒処分(戒告〜免職)発令がせいぜいであり、刑事罰を科し刑務所送りにするなどという超シビアな組織は、自衛隊以外の職種にはないからだ。

 @自衛隊法第七六条の「防衛出動命令」は、安倍政権が戦争法(安保法)制定で、同法第三条「自衛隊の任務」に、集団的自衛権行使を加えたため、首相は隊員らに、個別的自衛権(いわゆる専守防衛)以外の海外での武力行使、すなわち戦場への参戦も、命じることができるようになってしまった。集団的自衛権を行使する事態は、殺し殺される修羅場である(PKO法改悪で盛り込んだ”駆け付け警護”も)。

 A同法第一二三条はこの「防衛出動命令」下、隊員本人については「職務の場所(注、戦場を含む)につかない者」「上官の職務上の命令に反抗し、又はこれに服従しない(注、撃てと命じられても撃たない等)者」、隊員以外ではこういう「行為の遂行を教唆し、若しくは逃亡等の幇助をした者」(注、「戦場に行かないで!」と強く引き止めた家族や恋人・友人等が想定される)は、ともに「七年以下の懲役又は禁錮に処する」と規定している。

 B一九八三(昭和五+八)年三月十日の参院予算委員会で黒柳明議員(公明。以下、当時)が、「自衛隊幹部が年度防衛警備計画(”年防”とも言う。治安出動で武器を使用し鎮圧する対象)に、(当時の)社会・共産・公明など複数の政党名を明記していた、議会制民主主義のかず根幹を脅かす事案」を追及し、谷川和穂(かずお)・防衛庁長官に「複数の政党名が出ている」と確認させている。
 六〇年安保闘争当時、岸信介(のぶすけ)首相が謀んだ、民衆に銃を向ける治安出動はこの通り、つい三六年前、自衛隊が組織として計画していたのだ(岸氏の謀みは、赤城宗徳(むねのり)防衛庁長官が「自衛隊が国民の敵になりかねない」と反対し、幸い発令には至らなかった)。
 なお、自衛隊法第一二〇条は「治安出動命令」下、隊員本人や家族・恋人・友人等がAの行為をした場合、「五年以下の懲役又は禁鋼に処する」と規定している。

 ◆ 繰り返して自衛隊を刷り込み

 小学校社会科教科書の作成・発行は光村図書が撤退し、今回検定申請し合格したのは、東京書籍(以下、東書)・教育出版(教出)・日本文教出版(日文)の三つの出版社に寡占化。
 一五年四月から二〇年三月まで五年間使用中の現行小4教科書は三社とも、自衛隊記述ゼロだが、改訂指導要領を受けた見本本は五〜九箇所に大幅増。かつ、前述した他職種とは違う超シビアな軍隊だという事実は一切、記述しない。
 以下、三社の小4の記述(見本本)を紹介する。

 ◇ 東京書籍
 東書は計五回、自衛隊に言及している(以下、傍点は筆者)。
 「地震からくらしを守る」の七九頁で、本文の「県や国からもけいさつや消防、自衛隊が出動するのですね」という記述の上に、「伊豆半島沖地震直後に出動した自衛隊(注、迷彩服ではないが、鉄帽着用)」のキャプション付き写真を掲載している。

 続けて「『地震が起きる前と後」『だれが』『どのような』に着目しましょう」という女性教員の発問に、「市役所の人」に言及する女児とともに、男児が「けいさつや消防、自衛隊などが協力しているのではないかな」と回答するイラスト入りの問答を載せている。
 九六頁の「風水害からくらしを守る」でも、一五年に茨城県常総市を襲った豪雨時、ヘリで民家から住民を救う「自衛隊による救助の様子」のキャプション付き写真を掲載している。
 さらに九八頁の「火山災害からくらしを守る」でも、一四年の長野県の御嶽山(おんたけさん)噴火についての話し合い活動で、「消防やけいさつ、自衛隊が出動し、協力して救助活動をしたと聞きました」という女児の言葉を、イラスト入りで載せている。

 なお東書は、ご丁寧にも『教科書編修趣意書』(採択前に、全国の教育委員会や学校に、自社の教科書をPRする一〇頁建ての文書。文科省HPで見られる)でも、わざわざ「自衛隊の扱い」の項を設け、「『自然災害からくらしを守る』で、自衛隊の災害派遣について写真と本文で記述しました」と宣伝している。

 ◇ 教育出版
 教出は計九回も、自衛隊に言及している。
 まず「地震にそなえるまちづくり」の八六頁に「市の防災会議には、市長、消防の人、警察の人、県の係の人、国土交通省など国の担当者、自衛隊の人など、40人以上の関係者が集まります」という「市役所の山本さんの話」を掲載。
 続いて、八七頁の「地震や津波から住民を守るしくみ」と題するイラスト入りの図の中の「救出する人」の枠に、上から「自衛隊(注、迷彩服・鉄帽)、警察の人、消防の人」の順で、イラスト入りで描く(警察・消防は手ぶらだが、自衛隊だけは右手にスコップを持っている。タイトル部)。
 その右横の「関係機関の役割」の自衛隊の項は「ひがいが大きいとき、県の求めにより出動する。けが人や病人を病院へ運ぶ。食料や水をひさい地へ運ぶ」と説明。

 選択の「水害にそなえるまちづくり」の一〇一頁・一〇四頁は、「消防、警察、県の担当者、国土交通省の人」だけ記述しているが、一〇二頁は〇四年七月十三日に発災した新潟県三条市の豪雨水害で、「消防や自衛隊の人はボートに乗って、救助を待つ人のもとへ向かいました」という「水防学習館の村上さんの話」を掲載。
 続く一〇五頁は八七頁と同様、「救出する人」の枠の一番上に、右手にスコップを持つ自衛隊(注、迷彩服・鉄帽)のイラスト入りの「水害から住民を守るしくみ」と題する図を載せている。

 選択の「火山の噴火にそなえて」の一一三頁は、上中央に「自衛隊ひなん者の輸送やたき出し、給水など」、/の右に「胆振(いぶり)総合振興局自衛隊への出動の要求など」と書いた、「有珠山(うすざん)火山防災協議会と、関係機関の役割」という図を掲載。
 そしてその下に、「2017年には、市とまわりの3町の住民は、国土交通省、警察署、気象台、自衛隊など10をこえる関係機関とともに、合同でひなん訓練を行いました」という「北海道伊達(だて)市役所の人の話」を載せている。
 最後に、選択の「雪の災害にそなえて」の一一五頁には、左下に「自衛隊雪のひがいにあった住民の救助、食料や水の輸送など」と書いた、「雪の災害が発生した場合に協力するしくみ」と題する、秋田市災害対策本部の図を載せている。

 ◇ 日本文教出版
 日文は計七回、自衛隊に言及している。
 まず、「自然災害から人々を守る活動」の七一頁で、「伊豆大島でおきた土砂災害のときの自衛隊の活動」の写真(迷彩服・鉄帽)を載せた。
 続く七三頁では「流される家」の写真を掲げ、「1974年9月1日…台風のえいきょうで、多摩川の水位が急げきに上がり…狛江市では、19戸の家が流されました。3日後には建設省(当時)や自衛隊などの取り組みで、こう水はおさまりました」と記述。
 その横に「キーワード自衛隊 国の役所の一つである防衛省に所属している、日本の国や国民を守る組織。陸・海・空の三つからなり、全国におよそ23万人の隊員がいます」と記述。まるで自民党や防衛省の広報誌のようだ。
 前記Bで詳述した”年防”の事案等から、軍事力をバックにした自衛隊は、日本の国家体制(皇室や首相ら閣僚、保守系議員、官僚や財界人の幹部ら)を守る組織であり、国民(民衆)を守る組織でないことは、明白なのに……。

 次に、選択の「地震による災害」の「阪神・淡路大震災」の八九頁では「消防しょやけいさつしょをはじめ、多くの人が救助やライフラインの復旧にあたりました。自衛隊は、救助とともに、たき出しや給水、トイレの設置、物資の輸送、がれきのかたづけなどをおこないました」と記載。
 続く「復旧から復興へ」の九一頁では「大きな災害がおこった直後には、消防や自衛隊などによる救助活動(公助)が、じゅうぶんにできるとはかぎりません。家族や近所の人たちの協力によって救助される人もいることでしょう(共助)。やはり、自分の命は自分で守ること(自助)がたいせつです。…もちろん、市(区)町村や都道府県、国、けいさつ、消防、自衛隊などばかりでなく、地いきに住んでいる人々の協力も必要になります」と記述している。
 最後に、選択の「雪による災害(雪害)」の「はるとさんたちは、雪害がおこったときの対さくについて、県庁や市役所に聞きました。そして、わ」かったことをカードにまとめました」という課題設定に対する、一〇一頁の「れんさんのカード」は、「山でなだれがおきたときは、けいさつと協力して、自衛隊の人たちも、救助に向かいます」となっている。

 ◆ 九条改憲の未来の賛成票を増やす教科書会社

 以上の通り、三社とも指導要領に忠実に、「自衛隊」という語をひたすら繰り返し、軍事面の危険性には一切触れず、「役立つ組織だ」と教え込むだけ
 改訂版の『小学校指導要領解説社会編』(一七年六月公表。以下、『解説』。法的には文科省発行の参考資料に過ぎないのに、近年若手教員の研修会等では机上に置く者が多く、学校現場ではバイブルと化している)は、四年生の段階から、「自衛隊」は「わが国の平和と安全を守ることを任務とする」と明記。
 前述の通り、憲法第九条との関係を含め自衛隊の軍事(防衛)面は、中3で初めて学んでいたのを、「自然災害」に限定するよう装い、五歳も前倒しした小4の指導要領改訂に便乗し、軍事面まで肯定的に教化するよう主張する『解説』のこの記述は、政治的中立性を欠き、偏向教育である。
 だが、前掲の日文七三頁の「キーワード」記述は、指導要領どころか『解説』にもベッタリであり、軍事力で「国を守る」必要な組織だとまで、児童らに刷り込んでいるのだ。

 十八歳選挙権となった現在、安倍晋三首相が謀む憲法九条改”正”の国民投票が万一、政治日程に上った将来、賛成票を投じる児童を増やすのに、三社、特に日文七三頁は大きく“貢献”してしまっている、といえる。
 今回の自衛隊記述大幅増は、発達段階を無視し、保守系政治家の顔色を伺い、政治的思惑から小4の指導要領に初めて「自衛隊」を盛り、児童に教え込ませようと強制している一部文部官僚が元凶であるのは、言うまでもない。

 しかし、三社の執筆者・編集者の責任は大だ。なぜなら、文科省が公表した三社の『申請図書修正表』を見ると、「自衛隊」記述に関し、文科省が検定意見を付け、修正させたり、加筆させたりした箇所はゼロだからだ。
 つまり三社とも、執筆者・編集者が検定に合格しようと、”自主的”に「自衛隊」記述を多くしたのである。
 七月の参院選等で、立憲野党のリベラル派議員を増やし、衆参両院で改定教育基本法を元に戻すとともに、冒頭の指導要領(『解説』含む)の自衛隊等五つの国家主義色の濃い問題記述を抜本的に改めさせ、学校現場に周知する、地道な取組みが急務だ。
 まずは皆で声を上げ、立憲野党の参院選マニフェストにこうした政策を明記させよう。

 ※永野厚男(ながのあつお) 文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。

『紙の爆弾』(2019年7月号)



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