2019/6/15

「100年安心」それとも「100年不安」?年金の不安要素を“可視化”してくれた「金融庁の報告書」  ]U格差社会
 6月3日に公表された「人生100年時代を年金だけで乗り切るのは不可能、老後資金として2,000万円が必要」とする金融庁の報告書が大きな議論を呼んでいます。
 これまで政府が喧伝し続けてきた「年金は100年安心」という文言は偽りだったのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、「安心なのは年金制度の維持であり国民の生活ではない」と看破するとともに、報告書の選挙への影響を恐れ慌てふためく政権の姿に苦言を呈しています。

 ◆ バレた年金「100年不安」。
   金融庁の報告書が白日の下に晒した真実
(まぐまぐ!ニュース!)
by 新恭(あらたきょう)『国家権力&メディア一刀両断』

 ◆ 「100年不安の年金」報告書に安倍自民は大混乱
 将来への不安がつきない日本社会。老後破産、長生き地獄、漂流老人…すべて他人事ではない。いまは豊かで幸せでも、時とともに人の運命などどう変わるかわからない。


 多くの人が知っている。「100年安心」の年金改革も、70歳まで受給を繰り下げれば年金額が42%増えるという魅惑の囁きも、額面通りに受け取れないことを。
 これら、危機的状況にある年金制度を長持ちさせるための苦肉の策は、年ごとの負担増で苦しくなる庶民の生活に、陰鬱な影を落とすことはあっても、希望の光をもたらしはしない。
 そして、これからも年金カットが粛々と実行されていくのだろう。

 その不安要素を、具体的数字を示して“可視化”してくれたのが、年金行政をつかさどる厚労省ではなく、麻生太郎大臣の諮問機関「金融審議会市場ワーキング・グループ」の報告書であった。

 ※ 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(PDF)


 市場ワーキンググループの目的は、いかにして、総額1,000兆円に迫る国民の預金・現金を、金融マーケットへの投資に振り向けるかだ。

 報告書では、厚生労働省資料として、夫65歳以上、妻60歳以上の無職夫婦世帯をモデルとする家計収支のグラフを示し、次のような試算をしてみせた。

 実収入が年金など20万9,198円、実支出が26万3,718円として、毎月の不足額の平均は約5万円。
 「あと20〜30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円〜2,000万円になる」。

 年金だけでは人生100年時代を乗り切れないので、持っているお金を投資にあてるなどして資産を増やす「自助」をはかりなさい、というのである。

 投資の促進をめざす提言は、はからずも、「100年安心」と言ってきた政府の年金改革が、いかに欺瞞に満ちているかを示すものとなった。

 「100年安心」、それとも「100年不安」
 どちらが本当か。厚労省、金融庁と担当部署は違っても、安倍首相のもとの同じ政府である。
 報告書の内容を知った記者クラブの面々が、金融担当でもある麻生大臣のコメントを求めて集まったのは当然のことだ。すると、大臣は得々として麻生節を唸りはじめた。
「オレが生まれたころの平均寿命はいくつだったか知ってるか?47だ。戦後は53になって、このあいだまで81とか言ってたのが、100だってんだろ」

「そうすると、人生設計を考えるときに100まで生きる前提で退職金って計算してみたことあるか?普通の人はないよ、たぶん。オレ、ないと思うね」

「いきなり100って言われて、あと20年間ゴルフ続けられるのか、そんな体力ねえとか、金がねえなとか、そういったようなことを今のうちから考えておかないかんのですよと」
 長く生きるにはカネがかかる。当たり前のことだ。だから「100年安心」の年金制度とPRし続けてきたのではなかったか。

 ◆ 報告書に慌てふためく安倍官邸

 国民がそんな甘言を鵜呑みにせず、財布の紐を締めて節約につとめてきたために、長い消費不況を抜け出せないでいるのだが、誰も心の片隅では、国を信じたい気持ちがないわけではない。

 それを、「長生きしたいなら2,000万円自分でつくれ」と、大金持ちの副総理に上から目線で言われると、ちょっと待ってくれと言いたくなる。
 毎年のように年金保険料をあげられても黙って従ってきた国民を愚弄するのはいい加減にしてもらいたい。

 長期不況と貧富格差の拡大、少子化対策の無策。その責任を負うべきは誰なのか。どこに2,000万円のカネを蓄えたり、投資にあてる余裕があるというのか。それが、多くの国民の実感であろう。

 報告書をめぐる報道にあわてふためいたのは安倍官邸だ。選挙が迫っているというのに、またしても年金問題の火の粉が降りかかってきた。一刻も早く払いのけねばならない。

 菅官房長官が6月7日の記者会見で、「誤解や不安を招く表現であり、不適切だった」とさっそく釈明したのは、危機感のあらわれだった。

 12年前の参院選に敗れて退陣につながった「消えた年金」問題の悪夢がいまだに安倍首相を脅かしているのだろうか、6月10日の参議院決算委員会で久しぶりに答弁に立った安倍首相はなんと、年金への信頼がますます強固になっていると主張した。
蓮舫議員 「100年安心がウソだったと国民は怒っている」

安倍首相 「年金100年安心はウソではない。今年度においてはマクロ経済スライドも発動された。それでもなおかつ年金受給額は0.1%の増額改定となった。積立金も6年間で44兆円の運用益が出ており、公的年金への信頼性はより強固になったと考えている」
 安倍首相がマクロ経済スライドなる用語を使いながら説明する「100年安心」とは何か。日本年金機構のサイトに以下の説明がある。
平成16年(2004年)の年金制度改正によって導入された、賃金・物価による改定率を調整して、緩やかに年金の給付水準を調整する仕組みです。具体的には、賃金・物価による改定率がプラスの場合、当該改定率から、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出した「スライド調整率」を差し引くことによって、年金の給付水準を調整します。
 これでは何のことかよく分からない。要するに、保険料を負担する現役の人たちが減り、受給する高齢者が増えるのに、賃金・物価の上昇に比例して受給額を上げるのではお金が足りなくなるので、実質的に受給額が下がっていくよう調整するということである。その制度改正が04年に行われた。

 つまりこれは、年金制度を持続させるための仕組みである。

 ◆ やはり嘘だった年金「100年安心」

 そしてさらなる受給額抑制策を導入したのが2016年に成立した年金改革法だ。物価上昇より賃金上昇が下まわる場合、賃金変動に合わせて受給額を調整するのがミソである。これにより、物価に関わりなく現役世代の賃金が下がれば、年金受給額も減少することになった。

 現役世代が払う年金保険料は2017年まで段階的に引き上げ報酬月額の18.3%で固定されている。もらえる年金はモデル世帯で現役世代の手取り収入の50%を確保することになっている。

 これをもって、自公両党は「100年安心プラン」と称してきたが、実質賃金は、安倍政権が誕生した2012年以降、インフレ誘導政策もあって顕著に下がり続け、これにともなって、実質的な年金受給額も落ちている。

 その傾向は今後も続くと見られるからこそ、「金融審議会市場ワーキング・グループ」の報告書に次のような記述があるのであろう。
公的年金の水準については、今後調整されていくことが見込まれているとともに、税・保険料の負担も年々増加しており、少子高齢化を踏まえると、今後もこの傾向は一層強まることが見込まれる。
 年金の水準は下がっていくと見込まれるから、「自助」が必要というのだ。

 安倍首相が蓮舫議員に反論した「100年安心はウソではない」の本当の意味は、年金制度の維持についての安心であって、年金があれば安心して国民が暮らしていけるということではない。
 それを、ごちゃまぜにして「安心」という言葉でごまかすから、ウソだったと言わざるをえないのである。

 21人で構成される金融審議会市場ワーキング・グループの大半は投資や金融を専門とする企業人や大学教授らだ。
 年金不安を利用して投資に誘導する目的は明らかであるにせよ、年金の水準が低下していくのは、二度の“年金改革”に埋め込まれた仕組みから見通せるわけで、そこにさほどウソはないだろう。

 選挙を前に痛いところをつかれた自民党の萩生田光一幹事長代行は記者会見で「不安や誤解を広げるだけの報告書であり、評価に値しない」と述べ、林幹雄幹事長代理が国会内で金融庁幹部に撤回を要求したという。

 麻生大臣も今になって、せっかく長い議論の末にまとまった報告書の受け取り拒否を決めた。
 「世間に著しい不安や誤解を与えており、これまでの政府の政策スタンスとも異なる」というのが、その理由だとか。

 あの麻生節はどこへ行ったのか。政策への信念はまるでなく、選挙への影響を恐れ、あわてふためいて態度を変える姿はまことに見苦しい。

 ※ 新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧
 記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。

『まぐまぐ!ニュース!』(2019.06.14)
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