2019/6/21

小学校教科書検定について【談話】子どもと教科書全国ネット21  ]Vこども危機
2019年4月4日
◎ 新学習指導要領のもとでの小学校教科書などについて
子どもと教科書全国ネット21事務局長 鈴木敏夫
102−0072東京都千代田区飯田橋2−6−1小宮山ビル201電話03-3265-7606

 文部科学省は2020年度からつかわれる小学校教科書の検定結果を3月26日に公表した。
 2年前に導入された「特別の教科道徳」を含め11教科164点の教科書が、全教科合わせて2658件の検定意見が付き、修正を受け入れ全点が合格した。
 教科化された外国語(英語)は7社(計15冊)が申請し、同様に合格した。

 1.全般的な問題
 今回の小学校教科書は、2006年の教育基本法の「全面改正」、関連した学校教育法の「改正」を受け、その内容を全面的に反映した新学習指導要領「改正」された教科用図書検定基準にそって検定を受けたものである。


 新学習指導要領は、「資質・能力」規定で貫かれており、「何ができるようになるのか」という観点から、「何を理解しているか、何ができるか(知識・技能)」、「理解していること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」の学力内容決め、「どのように学ぶか(主体的・対話的で深い学び「アクティブ・ラーニング[AL]」)との学び方まで定め、さらに「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」として学んだものをどのような方向で生かすのかといういわば道徳的目標まで規定している。
 その結果

 @外国語(英語〉の教科化などに加え、各教科の学習内容が増加し、教員や子どもの負担が増大している

 小学校6年間で使う教科書の平均のページ数は、現行より10%増え、英語科を入れると前回より14%増である。記録が残る1998年度以降最多で、その時と比べ約18倍とされている。
 また外国語の教科化だけでなく、新たに「プログラミング教育」が必修化され、算数、理科などで取り扱われている。

 小学校教員の30%が過労死ラインをこえていることを文科省が認めていながら、道徳の教科化と相侯って教員の負担はさらに増大している。
 内容の増大は、子どもにとっても大きな負担となる。このような中では、やむなく詰め込み授業となり、子どもの理解は置き去りにされる恐れがある。看過できない問題である。

 Aまた「主体的・対話的で深い学び」が強調され、授業方法でアクティブ・ラーニング(AL)が押しつけられている

 全教科164点中、地図を除いて、162点でALが盛り込まれている。子ども同士の対話や討論グループワークなどが頻繁に出てきて、授業はより高度にならざるを得なくなっている。
 これを補うかのように板書例や授業の進め方などのガイドラインを掲載する教科書が目立っている
 子どのもの学び方や論議する手順、考える視点などを決まった形で誘導することによって、果たして本当の意味での「主体的・対話的で深い学び」となるのだろうか。またすぺての子どもが理解できる内容の学習となるかも心配である。


 2.個別の教科の問題について

 (1)社会科


 光村図書出版(シェアO.4%)が撤退し、東京書籍(「東書」)、教育出版(「教出」)、日本文教出版(「日文」)の3社となった。

 @頷土問題では政府見解を詳しく書き込ませている

 北方領土だけでなく、竹島、尖閣諸島についても、単なる「日本の領土」ではなく「固有の領土」とされ、さらに尖閣諸島について「領土問題は存在しません」と書き込まされているものもある。
 尖閣諸島は「国としての適切な管理」を行い、韓国に対しては竹島について「抗議を続けています」などとも記述することで「検定合格」となっている。

 小学生に「領土」と「固有の領土」の違いを教える必要があるのだろうか、1905年に島根県に編入された(のに)「日本の固有の領土」となると「児童にとって理解しがたい」(「検定用語」:このような場合に使われる)のではないか。
 「固有の領土」であるはずの北方領土での政府説明の後退をみると、政権のご都合主義で領土問題を書かせ、子どもに、中国、韓国、ロシアの主張やその根拠を明らかにさせないで、「主体的・対話的で深い学び」になるのだろうか。

 なお、教出5年で「国にとって領土はとても大事だけれど、となりの国々とはなかよくしていきたいね」と述べる子どものイラストが該当記述の側面にある。
 領土問題では、いたずらに排外主義的なナショナリズムをあおるのではなく、冷静で事実に基づく合理的な判断が出来るようにすることである。
 竹島の問題は、日本の植民地支配の問題が絡んでおり、日本政府が植民地支配についての誤りをキチンと認め、話し合いのテーブルに双方が着くことが大事である。
 尖閣諸島の問題でも「領土問題は存在しない」などではなく道理ある説明を行い、軍事力による対決・解決ではなく、平和的な外交努力が求められている。

 A「憲法改正」問題がはじめてとりあげられた

 教育出版が「憲法改正の論議」を囲み記事でとりあげ、改正論と改正反対論を載せている。
 一見公平のようだが、「日本国憲法が公布されて長い年月がたち、その間に世の中は変化し続けています」と導入で述べ、さらに改正の手続きまで触れているのは、改正への誘導になるおそれがある。
 また東書は、「新聞記事を読もう」の中で、内閣改造に絡み「改憲論議を呼びかけ」の記事をさりげなく載せている。
 このように、改憲への道筋が少しずつ引かれようとしている。

 B自衛隊の記述が増加している

 学習指導要領の4年生で、「自然災害から人々を守る活動」で「我が国の平和と安全を守ることを任務とする自衛隊など国の関係機関」として「自衛隊」だけを明示し、「取り上げること」としている。
 こうして、4年生から自衛隊の災害派遣などの記述が増えている。自衛隊の憲法への明記の動きのなかで、自衛隊について慣れ親しませようとする政権の意図が色濃くでている。

 Cその他

 ・6年生の社会科の構成が、学習指導要領で従来と違い憲法をまなぶ政治が先になり、歴史が後にされたが、憲法の平和主義などを理解するには、憲法制定の歴史的経緯を学んだ上で学習するのが望ましい。

 ・東書6年には「戦争と朝鮮の人々」との囲み記事がある。朝鮮人、中国人の「強制連行」や「創氏改名」、日本軍の兵士として人として徴兵されたことが述べられている。また南京事件も濃淡があるが3社すぺてが取り上げている。

 ・歴史の記述では、高校の教科書では研究を反映し変わっている記述がまだ小学校では残っている。聖徳太子(厩戸王)が天皇中心の中央主権体制を構想し、その理想が中大兄皇子らによる大化の改新で実現したとのストーリが基調となっている。


 (2)「特別の教科道徳」

 2年前と同じ8社が検定申請し、合格した。廣済堂あかつき(「廣済堂」」)、日本文教出版(「日文」)、学校図書(「学図」)には前回同様別冊がある。

 1)各社の内容

 @前回の検定で「図書全体」が「学習指導要領に示す内容(伝統と文化の尊重、国を愛する態度)に照らして、扱いが不適切」として話題になった東京書籍(「東書」)1年の「パン屋→お菓子屋」(「にちようぴのさんぽみち」)、学習研究社(「学研」)1年の「アスレチック→和楽器店」や、違う徳目での東書4年の「消防団のおじさん→おじいさん」はいずれも姿を消した。
 マスコミなどが批判的にとりあげ、市民などに疑問がひろがったことを考慮したと思われる。

 A前回同様、こどもに自己評価を求めているが、子どもの内心の評価につながりかねない
 ・学図別冊「こころのパレット」は「うそやごまかしをしないで、あかるい気もちですごすことができたら、一つ色をぬりましょう」があった。今回、そこに「気づきがあった」「ふかくかんがえた」「これからを見つめた」などが加わり、記述欄もできた。
 ・東書1年は記述式の自己評価に加えて、自分の気持ちを顔のマークを塗りつぶす欄が加わった。
 ・他方で、結論を決め付けるのをやめたものもある。教育出版(「教出」)1年の「かぼちゃのつる」で「かぼちゃはわがままでいけないよね」がなくなった。

 B教出2年の「れいぎ正しいあいさつ」(「つぎのうち、れいぎ正しいあいさつはどのあいさつでしょうか」)は「気もちのよいあいさつ」シリーズ「3 あいさつ」という読み物に差し替えられた。
 こどもに「先語後礼」の型にはまった挨拶を押し付けることに批判があったものである。
 他方で、光文書院(「光文」)5年の「日本の心とかたち真・行・草」(「おじぎのしかた」)は残っている。

 C同じく教出2年、「大切な国旗と国歌」関連資料は削除された。君が代の意味をゆがめる「国旗(日の丸)のいみ、国歌(きみがよ)のいみ」、国歌がながれたら、みんなでいっしょに歌います」と歌うことを強要しかねない記述がある「国歌や国旗を大切にする気もちのあらわし方」などがあった。

 Dまた特定の政治家を持ち上げ、政治的中立や検定基準に抵触しているのではないかとの批判があった教出5年の「下町ボブスレー」(安倍首相が登場)は削除され、同じく「一人のために…」の東大阪市長の写真は差し替えられた。

 E「ありがとうがいっぱい」「学校だいすき」など、決まりきった心情を一方的に押しつける内容は、そのままである。

 F廣済堂5年「権利と義務」「身近にある法やきまり」「義務をはたさず権利ばかりを主張したらどうなる」など、権利と義務を対置させ、結果的に法の順守を押しつける内容も変わらない。

 G非科学的と指摘した教出1年「たのしかったハイキング」もそのままである。木の幹に耳をあてると「水がながれているみたいだよ」や廣済堂3年「百羽のつる」もそのまま残っている。

 H一方で、光村5年にあった「子どもの権利条約」日文5年、光文5年にも、光村6年にあった「世界人権宣言」日文6年、学図6年にも登場している。

 I「白旗の少女」(東書6年)、「羽ばたけおりつる」(光文6年)など、平和教材として使えるものはそのまま残った。

 2)検定について

 看過できないのは、検定の問題である
 @検定意見は、2年前の244件から149件と減ったが、前回の検定で問題になった具体的な修正個所を指示しないで「図書の内容全体」について「学習指導要領に示す内容に照らして扱いが不適切」という指示が、今回も起きている(日文1、3年、学研3年、東書4年、学図3、5年、光村5年の7件)。

 今回は各社とも部分的な文言の修正※で通過させているが、こうした検定手法は教科書編集側が教科書調査官への「付度」を助長させる構造をつくりだすことが危惧される。

 ※例えば、日文1年「かぞくについておもっていること」は、学習指導要領の「家族愛…」の扱いが不十分として「だいすきなかぞくのためにがんばっていること」として検定合格している。

 A「特定の商品の宣伝になるおそれがある」「特定の営利企業の宣伝になるおそれがある」として重箱の隅をつつくような写真の修正を求めている(学図3・4年など)一方で、山葉寅楠、豊田喜一郎、松下幸之助、石橋正二郎といった大企業の創業者の成功談は「商品」まで登場させて教材化している(教出4、5、6年)問題もある。

 B裏表紙に載っていた「必ずすぺてのページを使わなければいけないというものではありません」(日文1〜6年)という記述については、すべて「教科書ではないかのように誤解する」との理由で削除を求められ、受け入れ無くなった。
 これは教科書をすべてそのとおり使わなければいけないという指示であり、文科省自身が語ってきた「『児童生徒は、教科書に記述されている内容をすべて学習しなければならない』、従来型の教科書観については、『個々の児童生徒の理解の程度に応じて指導を充実する』…といった観点から、教科書に対する考え方を転換していくことも求められる」(「教科書の改善について(通知)」2009年3月)という教科書観とも矛盾するものである。


 (3)外国語(英語)の教科化

 @従来は文法や単語の理解など知識・技能に偏っていたとして、3年から「外国語活動」「聞くこと」「話すこと」が中心)を前倒しで実施し、5年から「読むこと」「書くこと」も追加され「教科」になった。こうしてコミュニケーション能力をつけ、グローバル社会で活躍する人材の育成の出発点としようとしている。

 A3年生から週1コマ(45分)増えて、4年生以上は中学校と同じ、年1015時間(週29時間)の授業となり、現在の中学生がまなぶ英単語の約半数の600〜700語を学ぶこととなる。子どもの負担は大変である。英語嫌いを早期につくりだす恐れもある。

 B英語学習の早期化については、諸外国の例を見ても、専門の免許を持つ教員の養成が必須とされている。今回英語の授業は担任がALTなどの援助を受けておこなうとしている。
 しかし日本の現状は英語の免許をもった小学校教員(現在約5%)の本格養成はこれからで、英語の専科教員を2018年度に1000名、2019年度に新たに1000名配置し、本格実施の2020年度には2000名を追加して4000名にするとしているが、それでは全然足りない(公立小学校数、約2万文科省文部科学統計2018年版)。
 このように条件整備がされないままでの性急な教科化で、まともな外国語教育ができるのか危惧される。その上教科なので、一人ひとりの評価もつけることが求められる。教員の負担も今以上に重くなることが予想される。

 Cまた「英語を早くから学ぶことがいいとも言えない」などの教育関係者の批判もある。週に2時間では、とても授業をこなせないので、塾通いをする子どもとそれができない子どもの格差を生みだすことになりかねない。

 以上、焦点となる教科について、述べてきたが、他の教科でも大いに問題があることが類推される。
 その根底には、安倍政権がトップダウンで教育内容や指導法まで押し付け、カリキュラム・マネージメントで現場の管理職が教職員を統制し、その実行をせまる今日の教育をめぐる構造がある。
 教育の自由、教職員の自立性と専門性を生かして、子どもの立場に立った教育を保護者、教職員、市民の協力で、取り戻すことを訴えるものである。


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