2019/9/21

かんぽ生命、会社ぐるみの不正営業の実態。社内風土  ]U格差社会
 ◆ かんぽ生命 現場社員が不正販売を告発
   のしかかるノルマとパワハラ
(労働情報)
北健一・(team rodo joho)

 底なしの不正営業発覚で、かんぽ生命の信頼が崩壊の淵に立たされている。かんぽ生命は1916年に創設、全国の郵便局を通じて販売され、被保険者数は約2800万人、人口の2割にも及ぶ。
 その不正営業が西日本新聞などの報道で発覚
 当初は、内容確認の書類に署名を取っていることを根拠に「不適切な販売ではない」とかんぽ生命は強弁していたが、持ちこたえられなくなり、7月31日、日本郵便・かんぽ生命・ゆうちょ銀行の親会社(持ち株会社)である日本郵政の長門正貢(まさつぐ)社長が謝罪会見に追い込まれた。

 ◆ 2つの不正パターン
 発覚した不適切営業はおもに二つある。


 一つは、既存の契約から新しい契約に乗り換えてもらう時、4ヵ月以上間を空けること。そのかんに何かあっても補償が受けられないことや、健康上の理由で新しい契約に入れない、入ったはいいが健康告知違反を理由に保険金が支払われないなどの問題が起きる。

 もう一つは既存の契約を打ち切り新しい契約に替わるとき、すぐに打ち切らないで半年以上、二重契約にしておくことだ。加入者は半年間、保険金を余計に払わされた。
 日本郵政の発表によれば、前者は約2万2千件、後者は約7万件、その他も含め不適切な疑いがある契約は14〜18年度の5年間で合計約18万3千件という(13ページの表参照)。

 ◆ 本社方針が不徹底?

 7月31日の会見で日本郵政・長門社長は「郵便局に対するお客様の信頼を裏切り断腸の思いです。深くお詫び申し上げます」と頭を下げ、こう続けた。
 「お客様本位の業務運営にこれまで取り組んできましたが、その徹底が十分ではなかったと真摯に反省しています。今後はお客様第一の真の実現に向け、オール郵政で、全力で取り組んでまいります」
 本社はお客様本位をめざしていたがその方針が徹底せず、現場の一部で問題が起きたとでも言いたげだ。
 近畿地方の郵便局で集配を担当する社員も「最近の朝礼で、『一部の社員が問題を起こしましたが』と言った管理者がいました。そんな認識なんです」と明かす。
 そんな認識の頂点に立つ長門氏は会見で「行うべき職責をしっかり果たすことが経営者としての責任の取り方であると考えています」と辞任も否定してみせた。

 かんぽ不正販売は「現場の問題」なのか。まったく違うと言い切るのが、自らはゆうちょ銀行の業務に携わっている郵政産業労働者ユニオン(郵政ユニオン)の家門和宏副委員長だ。
 「国営時代から、貯金や保険の外務には手当が付いたので、『やればやるだけカネになる』と勤務に励むなか、違法、悪質なことをして成績をあげる者も一部にはいました。当局はそれを『優績者』(成績がいい者)と持ち上げ、発覚するとトカゲのしっぽ切りで済ませてきました。今回の事態はまったく異質な問題で、会社ぐるみの不正なのです

 ◆ 営業の中心は「乗換」

 会社ぐるみの不正の実態を見る前に、かんぽ販売の実際についてふれておこう。
 かんぽの販売の主力は日本郵便の担当社員約1万8千人だ。その販売は、10局ほどの郵便局を束ねるブロック(地区)に営業本部長がいて、局ごとに金融渉外部長、課長、課長代理、主任、社員という体制になっている。
 「上の人は2年ほどで他の郵便局に異動していくので、その間に成績を上げようとします。成績を上げると、少し上の局に移れるのです」(日本郵便社員)

 郵便局には、窓口でかんぽを扱う社員と外回りで契約を取ってくる社員とがいる。後者、金融渉外を長く担当してきた中村一雄さん(仮名)が、不正の背景をこう説明する。
 「そもそも、営業にうかがう対象はすべて既存客です。契約者のリストから電話をし、アポが取れたお宅に行くのですから。若者はお金がないので、勢い地域の高齢者宅にうかがうことが多くなります。契約を増やすと月々の払込額も増えるので、もう増やせないとなれば『乗換』をお勧めすることになります

 かんぽ生命の営業では、もっぱら既存客に営業をかけている。既存客は、もうかんぽに入っている。契約を増やすには限度があるから、契約の乗換が営業の中心になるというわけだ。
 「古い契約を切って新しい契約に乗り換える時、3ヵ月以上間を空けないと新しい契約とみなされず、成績も手当も半分になってしまいます。そこで3ヵ月空ける者が出てくる。古い契約と新しい契約を半年以上重複させるのも、同じ事情です」
 営業の中心は乗換なのに、新規契約に偏重した評価と手当

 その矛盾の下、乗換を新規に見せかける手口が広がった。
 顧客ニーズから乖離した、裏技ともいえる手口を広げたのはインストラクターたちだ。

 ◆ 裏技はこうして伝授

 インストラクターは、支社に帰属し、自分は個人ノルマを課されず募集キット(契約に必要な一式)も持っていない。郵便局の渉外担当と同行してお客様と話す。その際、話すのはもっぱらインストラクターで、いわば「生きた見本」となる。
 渉外担当はそれを見て、「すぐれた営業」を実地で学び、局に持ち帰る。裏技は、そうして広まったと、事情を知る日本郵便社員は口をそろえる。

 給与に占める歩合制手当の割合は、中央値(多い順に並べ真ん中にくる人の値)で25%ほどとされるが、「ガンガン営業して、手当が年1000万円近い猛者もいた。そうした人がインストラクターに引き上げられ、問題の手法も広めたのです」と家門副委員長は言う。
 歩合給で営業社員を頑張らせるのは、多くの企業に共通する手法ではある。
 「年間目標の半分を超えることを、かんぽでは『赤道突破』といいます。赤道突破になると、局でしゃぶしゃぶの店などに繰り出します。かんぽ生命がその費用を持ってくれたこともありました」と中村さんは話す。

 ◆ 4月に数字が降りて

 だが、金融渉外担当の社員らが不正営業に大規模に手を染めていった原因は、そうした「アメ」だけではない。過剰なノルマとそれを強いる「ムチ」にこそ、より大きな原因があった。

 過剰なノルマが天から降ってくるのは4月のこと。
 「まず、局に目標がきます。すると『担当社員で頭割りしたらいくらになります』と部長が言います。その後、前年度の実績と局の平均の兼ね合いを考え各自が『自主目標』を出し、上司とすり合わせて決めるのです」(中村さん)
 いわば「目標は自分で決めた」という建前なのだが、「低い目標で済ませられるような空気はありません。いったん目標が決まったら、月初の販売会議で『今月はいくら』と個人ごとに示され、それが週ごとに分けられ、毎日毎日数字に追われます
 かんぽのノルマは過大だったから達成が難しかった。

 ノルマが未達で成績が悪い社員は、年10回近く開かれる「スキルアップ研修」に呼びつけられる。
 会場はブロック内の大きな郵便局の会議室。「なぜ目標を達成できなかったか、次回どう挽回するか、会場の前で発表させられるのですが、後方には営業本部長やかんぽ生命社員、各局の部長らが並び、発表している時、叱責するのです」と、自身も研修に呼びつけられた経験を持つ中村さんは証言する。
 「発表」の時間が終わると、社員1人に部長らが2〜3人付き、「そんなんでできるか」「あなたが管理者だったら、こんな社員雇うか」などと責め立てる
 「君は会社に何を貢献するんだ」とか「お前の子がアホなのは、お前が成績をあげないからだ」と叱責された社員もいる。
 「実務スキルを高める研修ではなく、人格否定の懲罰研修なんです。郵政ユニオンは、団交で何度も改善を求めましたが、会社は応じませんでした」と家門副委員長は怒る。

 人格を否定する罵倒は業務上適正な指導をこえた違法なパワハラにあたる。
 研修で責め立てられてメンタルヘルス不調になり休職した社員や退職に追い込まれた社員も少なくない。
 「2017年度まで、1人休むとその分、局の営業目標が下がっていた。だから『できない人』を伸ばすより、休ませるか辞めてもらった方が、局としての目標達成に手っ取り早い」と中村さんは話す。
 18年、NHKがクローズアップ現代でかんぽ不正営業を特集し、その後、「一人休んだら目標が減る」運用は廃止された。だが、それは小手先対応に過ぎなかった。

 7月31日の記者会見では、パワハラも問題になった。西日本新聞の記者が訊いた。
 「営業現場で成績が低迷している社員を恫喝したり、パワハラみたいなことが起きていたと聞いているが、こうした実態について今後の調査でちゃんと把握していくのか、再発防止をどう進めるのか」
 かんぽ生命の植平光彦社長は「募集人(渉外社員)がどういうマネジメント、環境下にあったかについても、情報を得たら、日本郵便の改革にも反映させていく連携をとりたい」と一応は答えたが、日本郵便の横山邦男社長はこう言った。
 「社内にもパワハラ通報窓口があるし、私にも直接(現場から)手紙がくる。担当のラインで調査し、一つひとつ是正していっているし、今後も進める」
 まるで、一部の管理者が個人的にパワハラをしたケースもある、といった他人事意識なのだ。支社が実施してきた研修がパワハラそのものだったのに。

 ◆ 風は上から下に吹く

 日本郵政は今年4月4日、保有していたかんぽ生命株式の一部を売り出した。その際、かんぽ販売不正を開示しなかったことが、大きな問題になっている。
 郵政民営化委員会の岩田一政委員長は、「不祥事案は速やかに公表すべきだった。透明性が極めて重要だった」と記者会見で述べ、日本取引所グループの清田瞭最高経営責任者(CEO)も、「適切な情報開示がなかった」と苦言を呈した。
 不正販売を伏せて1株2375円で売り出されたかんぽ生命の株価は、不正発覚で下落を続け、8月19日の終値は1558円。投資家や証券市場関係者の反発は当然だ。
 それに対し長門氏は「4月の売り出し時点ではまったくの白。(かんぽ生命株を)騙して売ったといわれるのは、冗談じゃないと申し上げたい」と強く反駁してみせた。
 長門氏自身は、本当に知らなかったのかもしれない。だが、かんぽ生命も日本郵便も、会社としては不正を認識していた。だからこそ2017年度には募集品質改善の対策本部を立ち上げ、同年10月には総合対策をまとめている。

 西日本新聞(8月5日付)によると、かんぽ生命の募集管理統括部長や営業推進部長らが出席した「募集品質支店Web会議」では保険料二重払いや無保険の実態が詳しく共有され、顧客からの苦情で17年4月〜19年1月、1097件で保険料を全額返金している。
 これほどの問題を、部長レベルで把握し対策会議も重ねていたのに、経営陣には上がらず(7月まで)取締役会では一切議論されない、風通しの絶望的な悪さ。「この会社では、いつも、風は上から下に吹く」といった中堅社員の言葉が思い出される。

 ◆ 郵政ユニオンが申し入れ

 せめて顧客の被害回復は真摯に進めて欲しいものだが、そこにも疑問符がつく。
 本誌が入手した「お客さまへの対応要領」と題する日本郵便の内部文書には、「この商品は不適切な募集や乗換契約により加入したものなのか」という質問に、こう答えろと指示している。
 「かんぽのご契約の際には、必要な情報提供をした上で、お客さまのご意向を確認し、ご理解をいただいてお申込みいただいております。ご不安やご疑問を感じておられるお客さまには、ご不明な点をしっかりご説明させていただきます」
 この期に及んで、契約は適正だったという「ご説明」を不審を抱くお客さまに押し付けよという「対応要領」。現場社員の苦渋が目に浮かぶ。

 中村さんは「上の人はきちんと責任を取るべきでしょう。それと(パワハラ)研修はなくしてほしいですね」と語った。
 7月31日、郵政ユニオンは日本郵政・日本郵便・かんぽ生命の3社に全容解明と顧客の不利益是正、成績至上主義の社内風土払拭とノルマ体制見直しなどを求める申し入れ書を提出した。
 この申し入れに真摯に応えるかどうかも、改革が進むかどうかを占う試金石である。

『労働情報』(2019年9月)


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