2019/10/1

小学校6年社会科教科書の“日の丸・君が代”記述の分析  X日の丸・君が代関連ニュース
 ◆ 小6社会科教科書
   文科省により雁字搦め“国旗・国歌”の洗脳教育
(『紙の爆弾』)
取材・文 永野厚男

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"国歌"強制の狙いは権力への「忠誠の誓い」? 日本文教出版236頁から

 前号では小中高校等の教育課程編成や、教科書の執筆を、特に政治問題において雁字搦(がんじがら)めに縛る、学習指導要領(以下、指導要領)の音楽科における“君が代”強制の変遷を詳述した。
 本稿では今夏、全国の教育委員会が採択を終えた小学校6年社会科教科書の“日の丸・君が代”記述を分析する。

 ◆ 指導要領・社会科での“君が代”強制


 一七年三月三十一日改訂の小学校指導要領は、6年社会の国際編の「内容」(傍線は筆者)の最初に、「我が国と経済や文化などの面でつながりが深い国の人々の生活は、多様であることを理解するとともに、スポーツや文化などを通して他国と交流し、異なる文化や習慣を尊重し合うことが大切であることを理解すること」と規定。
 だがこの後の「内容の取扱い」では「我が国の国旗と国歌の意義を理解し、これを尊重する態度を養うとともに、諸外国の国旗と国歌も同様に尊重する態度を養うよう配慮すること」と記述した。

 そして文科省が「大綱的基準として法的拘束力あり」とする学習指導要領とは異なり、同省著作の参考資料に過ぎないのに、教科書の編集者らはバイブルのように縛られている『小学校学習指導要領解説 社会編』(一七年六月二十一日公表。以下『解説』。頁数は同省HP掲載のもの)の一三二頁は、次のように主張している。
 〈国旗と国歌の指導については、国際社会においては、国旗と国歌が重んじられていることに気付かせるとともに、我が国の国旗と国歌の意義を理解させ、それらを尊重する態度を養うことが大切である。また、諸外国の国旗と国歌についても同様にこれを尊重する態度を養い、国際社会に生きる日本人としての自覚と資質を育成することが大切である。国旗と国歌の意義については、第3学年及び第4学年、第5学年における国旗にかかわる指導の上に立って、次のような事柄について理解できるようにする必要がある。
 @国旗と国歌はいずれの国ももっていること。 A国旗と国歌はいずれの国でもその国の象徴として大切にされており、互いに尊重し合うことが必要であること。 B我が国の国旗と国歌は、それぞれの歴史を背景に、長年の慣行により、「日章旗」が国旗であり、「君が代」が国歌であることが広く国民の認識として定着していることを踏まえて、法律によって定められていること。 C我が国の国歌「君が代」は、日本国憲法の下においては、日本国民の総意に基づき天皇を日本国及び日本国民統合の象徴とする我が国の末永い繁栄と平和を祈念した歌であること。
 また、国歌「君が代」については、音楽科における指導との関連を重視するとともに、入学式や卒業式などにおける国旗や国歌の指導などとも関連付けながら指導することが大切である。〉
 ◆ 文科省『解説』に見える国家主義の洗脳

 以上、引用した『解説』傍線部の最初の方、「国旗と国歌尊重」(あるいは「重んじられている」とか「意義(がある)」)という価値観の強制は、憲法第一九条・二〇条の禁じる「国家権力による個々人の思想・良心・信教の自由の侵害」に当たる。
 また、日の丸はともかくとして、“君が代”が「国歌である」と「国民の認識」が「定着している」というのは、大きな誤りだ。

 『解説』自らが「天皇を…象徴とする我が国」と意味付けしている通り、「君」とは天皇の意である。
 学校の主人公である児童・生徒に全く関係のない天皇を讃える歌だから、卒業式等で「起立・斉唱強制反対」の意見が少なからず出てくるし、都教委による東京都の公立学校の“君が代”不起立等教職員に対する不当処分撤回訴訟でも、「君が代は価値中立的な歌ではない」というのが争点の一つになってきたのだ。

 さらに『解説』が、外国の「国旗と国歌」についても「互いに尊重し合うことが必要である」と主張しているのに対しては、「沖縄等米軍基地の軍人の引き起こす性暴力や墜落事故の被害者や遺族に『米国の国旗・国歌を尊重しなさい』とか、拉致被害者の家族に『北朝鮮の国旗・国歌を尊重しなさい』とは、人間として言えないでしょう」と反論せざるを得ない。

 ところで、引用した社会の『解説』の最後の方が、“君が代”教化で「関連を重視する」と主張する音楽の指導要領は、前号で述べた通り、「指導計画の作成と内容の取扱い」の項で、〈国歌「君が代」は、いずれの学年においても歌えるよう指導すること〉と規定。
 この音楽の『解説』一一九頁〜一二〇頁の洗脳ぶりは、以下に引用する通り、凄(すさ)まじい。
 〈児童が、将来国際社会において尊敬され、信頼される日本人として成長するためには、国歌を尊重する態度を養うようにすることが大切である。小学校音楽科においては、国歌「君が代」は、いずれの学年においても歌えるよう指導することとし、国歌「君が代」の指導の趣旨を明確にしている。音楽科としては、このような意味から、国歌「君が代」をいずれの学年においても指導し、入学式や卒業式等、必要なときには、児童がいつでも歌えるようにしておかなければならない。そのためには、各学年の目標や内容と関連させ、児童の発達の段階に即して、いずれの学年においても適切な指導を行うような指導計画を作成する必要がある。
 指導に当たっては、低学年では上級生が歌うのを聴いたり、楽器の演奏やCD等による演奏を聴いたりしながら親しみをもつようにし、みんなと一緒に歌えるようにすること、中学年では歌詞や楽譜を見て覚えて歌えるようにすること、高学年では国歌の大切さを理解するとともに、歌詞や旋律を正しく歌えるようにすることが大切である。
 国歌の指導に当たっては、国歌「君が代」は、日本国憲法の下において、日本国民の総意に基づき天皇を日本国及び日本国民統合の象徴とする我が国の末永い繁栄と平和を祈念した歌であることを理解できるようにする必要がある。〉
 「児童の発達の段階に即して」という語句は、“国”という概念を学習しない低学年・中学年は「歌えなくてもいいよ」という配慮を求めるのではない。
 「必要なときには、児童がいつでも歌えるようにしておかなければならない」という文科省の強く執着する方向に児童を誘導するために、低学年であっても、国家主義色の濃い“君が代”を、意味が分からなくても、“上手”に歌う上級生を真似し、「親しみをも」ち、「みんなと一緒に歌えるように」なりなさい、という意味なのだ。
 だから、七回用いている“指導”という語は、すべて強制といえる。

 幼稚園や保育所で意味のわかる普通の歌を、力一杯歌ってきた健気(けなげ)さ・無邪気さを利用し、低学年から“君が代”を強制する文科省の手口は汚い。

 社会の『解説』がもう一つ、「関連を重視する」と主張する特別活動(学校行事等を規定)の『解説』一五九頁も、「日本人としての自覚を養い、国を愛する心を育てる」という国家主義思想の教化を掲げ、卒業式等、普段と違う「厳粛」な、つまり緊張した雰囲気の場を利用し、児童への「国家…への所属感」「国旗と国歌尊重」という特定の価値観の教化を謀んでいる。
 なお『解説』にある通り、社会では三年生〜五年生にも国旗の記述があるが、幸い”国歌”はないので、今回の分析では省略する。

 ◆ 各社の“日の丸・君が代”記述

 二〇年四月使用開始の社会科教科書は、東京書籍(以下、東書)・教育出版(教出)・日本文教出版(日文)の三社。
 文科省公表の修正表を見ると、“日の丸・君が代”記述で同省が検定意見を付けた形跡はないので、以下の引用中、政府・政権政党寄りのものは、教科書会社が指導要領や『解説』に忠実だったり、自己規制したりした、ということになる(傍線は筆者)。

 ◆ 東京書籍
 東書は一〇〇頁から始まる「世界の未来と日本の役割」の単元の最後の一頁を「国旗と国歌」にあてている。
 @ニューヨークの国連本部前に「毎日加盟国の国旗が掲げられます」、五輪の「開会式で選手たちが自国の国旗を先頭に行進し、閉会式でも国旗を中心に人の輪ができる」等と記述。
 そして「世界の国々は、それぞれの国旗と国歌をもっており、国民のまとまりの『しるし』として大切にしています。また、国どうしの交際では、おたがいの国の国旗と国歌に敬意を表し、友好を深めるために役立てています。/日本では、明治時代から使われ、慣れ親しまれてきた日の丸(日章旗)と君が代を、それぞれ国旗、国歌とすることが法律で定められています」と続ける。
 Aさらに、「世界の国々の中には、言葉や習慣、宗教などのちがう民族がいっしょになってつくっている国もあり、国旗や国歌は、民族どうしの結びつきの『しるし』となっています」等と記述。
 B「オリンピックでかかげられる各国の国旗(韓国、2018年)」の写真に、「表彰式では、入賞した選手の国の国旗をかかげたり、国歌を演奏したりします」のキャプション。
 C「太平洋を横断する咸臨(かんりん)丸(1860年)」の写真に、「外国の港に入る船は、自分の国の国旗をかかげます。幕末に、太平洋を横断した江戸幕府の軍艦咸臨丸も日の丸をかかげていました」などと説明。
 D君が代の楽譜(今の形になる前の楽譜)の写真に、「国歌は、明治時代になって、外国との交際のうえで必要になり、つくられました。君が代は…明治の半ばすぎから、小学校の儀式などを通じて広められました。君が代には、日本の国の末永い繁栄と平和を願う気持ちがこめられています」と説明。
 E最後に「国旗と国歌」と題し、「世界の国々は、いずれも国旗や国歌をもっており、それぞれの国の人々の願いがこめられています。おたがいの国
旗や国歌を尊重し、大切にあつかうことは、世界共通のルールです」と記述。
 ◆ 教育出版
 教出は二三二〜二三三頁以降「世界の中の日本」の大単元の始め、一頁と三分の一分を国旗・国歌に当てる。
 @世界のどの国にも、国旗や国歌があります。国旗と国歌には、その国を築いてきた人々の理想や文化、
ほこりなどがこめられており、その国を象徴するものとして、大切にされています。/日本の日章旗(日の丸)は、江戸時代の末、外国の船との区別をはっきりさせるため、幕府が日本船の船印として決めたものです。明治政府も、日本の商船旗と定め、やがて国旗としてあつかわれるようになりました。/君が代は、平安時代につくられた和歌をもとにして明治時代に今日のような旋律がつけられました。/君が代には、日本の国がいつまでも繁栄し続け、平和であることを願う気持ちがこめられています。/日の丸と君が代は、1999(平成11)年に、それぞれ日本の国旗、国歌として法律で定められました。/それぞれの国の歴史や人々の思いがこめられた国旗や国歌に対しては、たがいに尊重し合い、敬意をはらってあつかうことが大切です。
 Aオリンピック・パラリンピック関連写真を五枚も掲載。各国の国旗写真には「オリンピックでかかげられる国旗。表彰式では多くの場合、入賞した選手の国の国旗がかかげられ、国歌が演奏されます」のキャプション。
 B咸臨丸の写真を掲載。
 ◆ 日本文教出版
 日文は二三〇頁から始まる「世界のなかの日本とわたしたち」の大単元の中で、計二頁以上も“国旗・国歌”にあてている。
 @まず「つながりの深い国々のくらし」の単元の二三六頁で、米国の「子どもたちのようす」を問う女児への「キャサリン先生」の説明を載せる。「勉強がはじまる前に『忠誠の誓い』があります。…そこで、民族などのち
がう人々の心を一つにしようと、国旗に向かって誓うのです」と記述。さら
に、児童が星条旗に向かい胸に手を当てる写真を載せる。“国防の義務”を書く中学校の育鵬(いくほう)社“教科書”張りだ。
 A「スポーツによる国際交流」の項の二五〇頁〜二五一頁で、“国旗・国歌”に触れる。「オリンピックの表しょう式では、競技に優勝した選手の国の国旗をあげ、国歌を演奏して、選手の健とうをたたえます。どの国でも、国旗や国歌は、その国の文化や歴史をあらわし、独立国のしるしとしてたいせつにあつかわれます。独立国がたがいに尊重し合うことと同じように、その象徴である国旗・国歌を尊重し合うことがたいせつです」と記述。二五一頁の「日章旗(日の丸)と君が代」と題する学習資料(コラム)で、東書と同様の解説に加え、「日の丸と君が代は、長年にわたって、日本の国旗・国歌として慣れ親しまれてきました」と記述。その横に、日の丸が真ん中の「オリンピックの表しょう式(2016年、ブラジル)」の写真も掲載。
 B二六六頁〜二六七頁の「わたしたちの学びを生かそう」の「オリンピック・パラリンピックと世界の国々」で、一頁を使い“国旗・国歌”の記述。ここではまず、「リオデジャネイロオリンピック女子レスリングで優勝し、日の丸をかかげる伊調馨(いちょうかおり)選手」と「64年の東京オリンピック開会式での参加国の国旗」の二枚の写真を掲載。そして「リオデジャネイロオリンピックの日本選手の姿を見て、…感動したゆいさん」が「一番最初に調べたことは世界の国旗についてです。国旗には、その国の歴史や国の理想などが表されていることも多く、それぞれの国にとってなくてはならないものです。一人一人の選手も国の代表として参加し、国旗をたいせつにする気持ちが強いこともわかりました。オリンピック・パラリンピックでも、参加する国に敬意を表すために国旗を大切にしています」等と記述。「国旗を知ることはその国を理解する第一歩世界の国旗のスペシャリスト吹浦忠正(ふきうらただまさ)さんの話」につなげる。
 Cさらに、男児・女児四人のキャラクターのイラストに「…国旗や国歌をたいせつにすることは、その国を理解する第一歩だと思ったよ」という吹き出しの言葉を載せ、ダメ押ししている。
 三社の記述の問題点をまとめよう。東書は、同じ内容を繰り返しており、文科省著作の『解説』の通り、政府・政権政党の“国旗・国歌”に関する施策や見解を、児童に刷り込もうとしている。
 九九年二月検定合格の東書教科書は、被害国の人々には「侵略した国の国旗や国歌を、すなおに尊重できない感情が残ります」という記述もあった。だが今は教出の傍線部等、『解説』通りの記述が多く、“国旗・国歌”に関しては各社横並びであり、創意工夫がなく、政府・政権政党の施策や見解を刷り込むだけ

 “国旗・国歌”に異常な執念を燃やす日文の「忠誠の誓い」は、個人より国家を優先する子ども作りにつながる。
 九条改悪をさせないために、教育現場では改悪指導要領の下でもできる限りの生命・人権尊重教育が望まれるし、私たちは政権を変え、指導要領と『解説』を改めさせるよう努めたい。

 ※ 永野厚男(ながのあつお)
 文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。

鹿砦社『紙の爆弾』(2019年10月号)



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