2019/12/13

「表現の自由」国連特別報告者が東京新聞・望月記者への圧力問題で日本政府に通知書  Z国際人権
 ◆ <東京新聞・望月記者への圧力>国連特別報告者が政府に通知書
   首相官邸との攻防とは 藤田早苗
(アジアプレス・ネットワーク)
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東京新聞の望月衣塑子記者と筆者。2018年12月東京にて(筆者提供)

 今年2月、東京新聞の特定記者の質問行為について、首相官邸が2018年12月28日に内閣記者会と東京新聞に申し入れ手紙を送っていたことが明らかになった。その手紙は、その記者の質問行為を「事実誤認」「度重なる問題行為」と断定し、「官房長官記者会見の意義が損なわれることを懸念」して「このような問題意識の共有をお願い申し上げる」と官邸報道室長名で送られた。

 それに対して、「これは明らかに政府から報道への圧力だ」と、新聞労連や研究者と弁護士のグループが強く抗議する声明を発表した。また3月にはその記者への質問制限が国民の知る権利を奪っているとして、官邸前でデモも行われ600人が参加した。


 この官邸からの申し入れ手紙について、「表現の自由に関する国連特別報告者」のデビッド・ケイ氏は7月に日本政府に通知書を送り、さらなる情報を求めた

 【関連動画を見る】 デビッド・ケイ国連特別報告者「メディアの独立性について」


 そして、その問い合わせに対して日本政府が約2か月後に回答してケイ氏の通知書と共に公開された。
 ケイ氏の政府への問い合わせは、国際人権基準から見たジャーナリストの役割に関する政府の義務などについても説明されたものであった。ここではそれらの内容や背景について紹介したい。

 ◆ 官邸からの申し入れ手紙とその背景

 12月28日付の上村秀紀総理大臣官邸報道室長から内閣記者会への手紙は、12月26日の官房長官記者会見での東京新聞の特定記者による質問について事実誤認などがあった、として次のように述べている。
「当該記者については、東京新聞側に対し、これまで累次にわたり、事実に基づかない質問は厳に慎んでいただくようにお願いして」きた。それにもかかわらず「再び事実に反する質問が行われたことは極めて遺憾」である。官房長官会見はインターネットなどでも配信されており、そこでのやり取りは国内外で直ちに閲覧可能なので、「正確でない質問に起因するやり取り」が行われると事実誤認を拡散させ、会見の意義を損なわれることを懸念する。そのため「正確な事実を踏まえた質問」をするように。
 同種の申し入れ手紙は東京新聞にも送られている。
 周知のようにこの「東京新聞の当該記者」とは望月衣塑子記者のことだ。そして「事実誤認に基づく質問」というのは、望月記者が12月26日の会見で、米軍普天間基地の名護市辺野古への移設工事について質問し「埋め立て現場ではいま、赤土が広がっております」「埋め立てが適法に進んでいるか確認ができておりません」と述べたことについてである。

 赤土について首相官邸側は「汚濁防止措置を講じており事実誤認」と反論したが、異論も出ている。ネットのニュースによれば2月6日国民民主党の山井和則国対委員長代行は、上村官邸報道室長らに対するヒヤリングを行った直後に、記者団に対して埋め立て現場の写真を示しながら「これはどうみても赤土。これを事実誤認だと言われると、記者も質問しづらくなるのではないか」と言ったという。

こ の官邸の内閣記者会に対する申し入れについて、2月5日に新聞労連が、2月19日には研究者と弁護士、メディア関係者など専門家のグループが、それぞれ「自由で批判的な質問をする記者の会見からの排除」であり、「記者の質問の権利を制限し、国民の「知る権利」を狭める」として抗議声明を発表している。

 専門家グループは、赤土の問題は政府と野党の認識が鋭く対立しているのに、政府の一方的認識を前提として、質問者から寄せられた赤土が広がっているという事実認識を「事実誤認」と断定して説明を免れ、質問を抑圧することは取材の自由、報道の自由への侵害である、と346人の賛同者の名前で抗議した。(1)

 また新聞労連は次のように抗議した。記者会見において様々な角度から質問をぶつけ、為政者の見解を問いただすことは記者としての責務であり、こうした営みを通じて、国民の「知る権利」は保障されている。政府との間に圧倒的な情報量の差があるなか、国民を代表する記者が事実関係を一つも間違えることなく質問することは不可能。官邸の意に沿わない記者を排除するような今回の申し入れは、明らかに記者の質問の権利を制限し、国民の「知る権利」を狭めるもので、決して容認することはできない。(2)

 ◆ 特別報告者の日本政府への通知書

 国連特別報告者は47の理事国からなる人権理事会から任命され、44のテーマと12か国について専門家が任命されている。表現の自由などのテーマ別の特別報告者は、毎年2,3か国を選んで公式調査訪問を行い、人権理事会に報告する。ケイ氏は2016年に日本の公式調査訪問を行い、3年後の2019年6月にはフォローアップ報告書を発表している。

 加えて特別報告者は、人権侵害に関する情報を被害者の支援者などから「通報(communication)」として受ける。
 そして、通報に基づいて調査を行うことになった場合、通報対象となった人権侵害について関係する政府に通知書を送付し、情報提供を求めたり、対応策を講じるよう要請したりすることがある。また、通報をきっかけに、関係する政府に対して勧告が出されることもある。

 ケイ氏はこれまで、沖縄の辺野古埋め立てに反対し名護市辺野古の新基地建設などに対する抗議活動を巡って威力業務妨害などの罪に問われ逮捕された山城博治氏の拘束(2016年)と、安倍首相と暴力団との疑惑を追うジャーナリスト山岡俊介氏が新宿の階段から14段転げ落ちた事件(2018年)に関する通報を取り上げて、日本政府に通知書を送っている。

 山岡氏の件はメディア関係者の中でもあまり取り上げられていないようだが、国境なき記者団は日本政府に対する声明を発表している。
 政府に不都合な情報を調査し報道するジャーナリストが狙われるケースは世界でも増加しており、国際的にもユネスコと国連が「ジャーナリストの安全」について長年イニチアチブを取って活動している。その一環としてケイ氏はこの件を重く見て、政府に問い合わせをしているのであり、国内でももっと注目されるべきだろう。(続く)

 (1)「官邸による取材・報道の自由侵害に抗議する緊急声明」
http://npj-net.lolipop.jp/pdf/2019/190219kinkyuseimei,sandonin.pdf

(2)新聞労連「首相官邸の質問制限に抗議する」
http://www.shinbunroren.or.jp/seimei/20190205.html

『Yahoo!ニュース - アジアプレス・ネットワーク』(2019年11月19日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191119-00010000-asiap-soci&pos=2


 ◆ <東京新聞・望月記者への圧力>国連特別報告者が政府に通知書 (2)
   首相官邸との攻防と政府回答のばかげた内容


 山城氏や山岡氏の件に続き、ケイ氏は望月記者の件に関して首相官邸から東京新聞と官邸記者クラブに送られた申し入れ手紙の影響を重く見て「自由権規約19条の表現と意見の自由の保護を確実にするために、貴国政府があらゆる必要な措置を取ることを強く求める」として、記者の役割や情報への権利に与える影響に強い懸念を表明する次のような通知書を送っている。
 「記者に特定の質問を避けるよう要求することは、報道機関とその記者を萎縮させるメッセージを送ることになり、政府の持つ情報を求めて、その情報を一般市民に向けて発信する『パブリックウォッチドッグ』(監視役)として知られる彼らの役割を弱めることになる。…(中略)内閣官房からのそのような干渉は望月氏が記者の任務を果たす上での妨害になることを懸念する。また私は、特に政府にとってセンシティブだとみなされるような問題を記者が調査している時に、この文書が彼らの仕事を妨害する危険性があり、よって政府の問題に関する一般市民の情報への権利に影響を与えることを懸念する」
 加えて、報道機関や記者の社会における役割と、政府の義務を次のように強調している。
 「報道機関や記者は、社会における情報や考えが自由に伝えられるようにする重要な役割を担っている。その役割を十分に果たせるよう、特に役人から情報を得ようとする場合、妨害、抵抗、敵意などなしに、報道機関や記者が公共の利益に関わる情報を求めることができる環境を確保する義務が政府にある
 また「調査報道を行う記者やその他の専門家に対するいかなる形の脅しや威嚇も行わないことを公に表明するよう当局に要請」した2016年の公式訪問後の勧告についても言及している。

 最後に「日本における報道の自由の長期的発展と役割を確実にするために、政府、記者そして報道機関には、慣行や政策に関して改めうる点がある。これらの点に関する法律と慣行について、貴国政府との対話を始める機会があれば、私は歓迎する」(3)と締めくくっている。

 ◆ 日本政府の回答

 ケイ氏からの問い合わせに対し、約2か月後に日本政府は次のような回答を送っている。
 「記者会見の内容は首相官邸ウェブサイト上に載るだけでなく、他のメディアによってライブストリームで流される。…(中略)官房長官と記者団とのやり取りは、会見の終了次第、国内でも海外でもウェブ上で閲覧できる。従って、そのやり取りが、誤認に基づく質問によるものであると、国内外で幅広く誤解を生じ、多くの人が間違った認識を持つことになる。そういう場合は、記者会見の重要性が損なわれる。」「上記のような理由で、東京新聞の特定の記者が会見中に事実誤認に基づいた質問をした場合、会見中に事実誤認に基づく質問は避けるよう東京新聞社に協力を要請した。そして東京新聞社からは、今後はその記者が事実に基づき、要領を得た質問をするように指示するという回答を何度も受けてきた。それにもかかわらず、2018年12月26日の会見でその記者が事実誤認に基づく質問をしたので、2018年12月28日の文書で、官邸記者クラブに所属する報道機関に上記の懸念を伝えた。」(4)
 この日本政府の回答について、日本外国特派員協会の報道企画委員会委員長で上智大学の非常勤講師も務めるデビッド・マックニール氏に感想を聞いたところ、次のようなコメントをもらった。
 「全くばかげている。政府が『誤った情報』が会見で拡散されるのを恐れるために、ジャーナリストが罰せられたり非難されたりするのを政府が要求できるという考えは全く説得力がない。デスクや上司に連絡する理由として考えられるのは、記者が意図的に混乱させるようなことをした場合だけだ」「例えばイギリスの記者会見や、日本でも外国人特派員協会の記者会見を見たら、ジャーナリストは様々な質問をする。奇抜な質問や変な質問もあるし、中には「事実誤認に基づく質問」もある」「誰が質問できるか、というのを決めるのは日本政府じゃない。それは専門の報道機関の仕事。そして、まだ望月記者が読者と編集者の信頼を得ているなら、彼女は自由に質問し続けられるべきだ。」
 マックニール氏の言うように、イギリスで政治家への記者会見やインタビューを見ていると、記者はかなり突っ込んだ質問をしている。ここでは望月記者程度の「しつこさ」は特別なことではなく、それ以上に噛みついている記者は多数いる。政治家には耳の痛い質問も少なくない。
 そして政治家もそれから逃げたりしない。逃げずに記者会見やインタビューにきちんと対応するのか、またどのように対応するのか、ということはその政治家を評価する重要な指針の一つと考えられている。これに関連して、イギリスの政治家のメディアに対する見解も紹介しておきたい。


 ◆ 英国外務大臣のメディアに対する見解

 世界では暗殺などによるジャーナリストの犠牲者が、近年特に増えている。そのような現状を憂い、今年イギリス政府がイニシアチブを取って5年間のグローバルキャンペーンを立ち上げ、7月にはカナダ政府と共催の大きな会議がロンドンで二日間にわたって行われた。
 そこには、デビッド・ケイ氏などの多くの専門家と100か国の政府の代表、加えて世界中から1500人のジャーナリスト、活動家、研究者などが参加した。筆者もこれに参加したのだが、その全体集会のスピーチで、このキャンペーンの発起人であるジェレミー・ハント英国外務大臣(当時)が次のように言ったのが印象的であった。
 「メディアが自分について書いているのを読むのは必ずしも好きではない。(中略)そしてもちろん、新聞は間違うこともある。ジャーナリストは誇張や行きすぎた表現をしたいと思う誘惑にもあう。(中略)しかし、我々政治家が十分に賢明なら、ジャーナリストを我々の“批判もする友達(Critical Friends )”としてとらえることができる。メディアは我々が望もうとも、望まなくとも、ありのままの現実を提供して我々が聞かなければいけないことを教えてくれる。」
 政治家が良い政治をしていくためにはメディアの監視は欠かせない、と彼は明言した。記者と政治家は対等の地位にあるのがわかる。しかし、このような政治家の態度もメディアとの関係も、今の日本には残念ながら見受けられない。

 また、メディア側にも課題は多い。例えば官房長官の記者会見を巡っては、望月記者の質問中に司会役の報道室長が「簡潔にお願いします」などと数秒おきに質疑を妨げている問題もある。その場にいる他社の記者はその問題をどうとらえているのだろうか。
 ネパール出身の法律家の友人にこの質問妨害の件を話したら、彼女は笑いながら「そういうことがネパールでおきたら、他の記者もみんな退室して抗議するだろう」と言っていた。

 記者が会社の枠を超えてともに抗議する連帯は、米国でもホワイトハウスが、ドナルド・トランプ大統領と舌戦を繰り広げた民放CNNのジム・アコスタ記者の記者証を取り上げられ時、論調がCNNと大きく異なるFox Newsを含むメディア10社も一緒になって抗議したケースでも見受けられた。
 しかし、そういう連帯が日本ではほとんど見られない。

 デビッド・ケイ氏が「日本のメディアは圧力に対して連帯する横のつながりが弱い」、と強調していた通りである。またケイ氏も言うように「日本における報道の自由の長期的発展と役割を確実にするために、政府、記者そして報道機関には、慣行や政策に関して改めうる点がある」のであり、政府もメディアもその改善に取り組むべきだ。

 (3)デビッド・ケイ氏から日本政府への通知書
   英語原文 
https://spcommreports.ohchr.org/TMResultsBase/DownLoadPublicCommunicationFile?gId=24689
   和訳全文 https://bit.ly/2rIcO5B
http://www.nagoya.ombudsman.jp/himitsu/190709.pdf

 (4)日本政府からの回答
   英語原文 https://spcommreports.ohchr.org/TMResultsBase/DownLoadFile?gId=34856
   和訳全文 https://bit.ly/2rIcO5B
http://www.nagoya.ombudsman.jp/himitsu/190709.pdf


『Yahoo!ニュース - アジアプレス・ネットワーク』(2019年11月20日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191119-00010000-asiap-soci&pos=2

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