2020/4/9

「インクルーシブ教育」の世田谷区立桜丘中学の西郷孝彦校長も卒業  ]Vこども危機
 ◆ 校則廃止の世田谷区立中学
   全入学者の半数近くが「越境」
(女性セブン)


 東京で観測史上最も早く桜が開花して5日、桜並木の坂道をのぼった先にある東京・世田谷区立桜丘中学校では、新型コロナウイルスの影響で規模は縮小されながら、無事、卒業式が行われた。
 この日卒業を迎えたのは3年生184人。そしてもう1人、2010年より校長を務め、教員生活を終える西郷孝彦さん(65才)だ。
 西郷さんが校長として在籍した10年の間に、どの学校にもあたり前にあるものが、この学校では少しずつなくなっていった。

 まず、授業の始めと終わりを告げるチャイムが鳴らない。授業中に昼寝をしていても叱られないし、教員が強い口調で話すこともない。
 校則はなく、登校時間も服装も髪形も自由で、タブレットやスマートフォンを使用してもかまわない。
 教室に入りづらい生徒は、授業中に廊下に出て自学してもいい。
 これらは闇雲に廃止されたわけではない。


 「インクルーシブ教育」の観点から、“すべての生徒が3年間楽しく過ごせる学校にする”ために、試行錯誤の末になくしてきたのだ。
 「インクルーシブ教育」という言葉は、昨今、急速に教育現場で広まってきた。
 障害のある子どもが、普通学級で教育を受けることを指すと誤解されがちだが、そうではない。障害がある子どもも、そうでない子どもも、「ともに学ぶ」ことを意味していると、教育評論家の尾木直樹さんは言う。

 「インクルーシブ教育とは、子ども一人ひとりの個性や特徴を認め、多様性を受け入れるというもの。子どもが100人いたら、100人の能力を伸ばそうという考え方です。
 習熟度の低い子に合わせていると、ほかの子が適切な指導を受けられなくなるとか、学習が深まらないとか、以前はそんな意見が出た時期もありますが、それは誤解です。
 実際、きちんとインクルーシブ教育を行っている現場では、むしろ子どもたちの学力も伸びています

 この世には、誰ひとり同じ人間はいない。
 しかし、これまでの学校教育は、生徒をひとつの型に押し込め、そこからはみ出した子どもたちを、「不良」や「落ちこぼれ」とレッテルを貼って排除してきた。現代ではそれを「不登校児」などと呼び方を変えただけだと、尾木さんは続ける。
 「インクルーシブ教育が正しく実践されている桜丘中学校では、どんな子にも居場所がありました。発達障害や知的障害、不登校や帰国子女など、“困難を抱えている生徒”だけに居場所があるのではありません。勉強が好きな子にも、ギターが好きな子にも、部活をがんばっている子にも、そしてもちろん、普通といわれる子たちにも、桜丘中学校は大切な居場所になっています」


 ◆ 5割近くが越境入学を希望

 こうした桜丘中学校の革新的な取り組みについて、本誌・女性セブンが初めて紹介したのは、1年前の2019年3月14日号のこと。
 その後も数回にわたって特集してきたが、その反響は回を追うごとに大きくなり、同校の人気も高まっていった。

 2019年度には、区域外から桜丘中学校に越境入学を申し出る家庭が、全入学者数の5割に迫った。それが意味することを、考える必要があるだろう。
 一方で、多くのメディアで取り上げられるようになると同時に、厳しい意見もまた、多く寄せられたと西郷さんは言う。

 《学校はルールを学ばせるところだ。社会に出たら規則を守れない人間になる》
 《実社会では理不尽なことが多い。いま自由を許したら、将来やっていけなくなる》

 批判的な意見を伝えてきた人のほぼすべてが、同校の保護者ではなく、記事を読んで義憤に駆られた人たちだった。

 「自分の受けてきた教育が正しいという先入観があるのか、または本校のような学校に自分も通いたかったという嫉妬なのかもしれません」(西郷さん)

 尾木さんも言う。
 「“桜丘のやり方では、社会に出てからやっていけない”と言う人たちがいますが、本来は、子どもたちが、社会や企業にどう適応するのかではなく、学んだものをどう生かせるような社会を作るのか。つまり、主客が逆なのです。
 みんなが幸せを感じながら毎日楽しく仕事ができる職場を作る。それがひいては社会のためになるし、平和な世界にもつながっていく。そういうアイディアを生み出す力なり、考える力を磨くのが、本来の学校のあり方です。社会のために学校があるのではありません

 だが、同じ世田谷区に住む保護者の中にも、外から桜丘中学校を見て否定する人がいる。近隣の中学校では、「うちの子は自立していないから、桜丘中のような自由な学校に通わせると、楽な方に流されてしまう。だから厳しく管理してほしい」と申し入れた保護者がいたそうだ。隣接する公立中学校でも、保護者会で「うちの中学校は、桜丘みたいにはしないでください」と訴えた保護者もいた。

 桜丘中学校に通う生徒の親は、「本当は学級崩壊しているんだって?」などと気の毒がられることがあったという。


 ◆ 子どもに影響され「私だって何かできる」と前向きに

 誤解を払拭し、実際はどんな取り組みがなされているのか知ってもらおうと、昨年11月30日に、保護者の有志が発案して、講演会『桜丘中学校ミライへのバトン 〜選びたくなる、公立学校とは?〜』を開催した。
 登壇したのは校長の西郷さんのほか、同校の理念に共感する尾木さんと麻布学園理事長の吉原毅さんの3人。
 事前に充分な告知ができなかったにもかかわらず、約1000人の申し込みがあり、キャンセル待ちも出た。

 講演は出席者の多くから肯定的に受け止められ、ネットニュースや新聞、雑誌でも大きく報じられたりもした。この講演会の内容は『「過干渉」をやめたら子どもは伸びる』というタイトルで一冊の新書として4月2日に発売される予定だ。

 会場で配布したアンケートには、参加者の8割もが回答をした。
 子育て世代の切実な悩みや学校生活に戸惑う子どもたちの声は、読んでいて胸が熱くなるものばかりだった。
 このことは、後に世田谷区議会でも取り上げられ、桜丘中学校の取り組みを、区域全体に広げていこうという意見も交わされるまでになった。

 講演会の主催者の1人である保護者の橋本陽子さんは、桜丘中学校に子どもが3年間通ったことで、多くの学びがあったと話す。

 「なんの変哲もない公立中学校が、西郷校長“子どもの主体性を何より大切にする”という信念をきっかけに、生徒も、先生も、保護者も、そして地域までもが少しずつ変わっていきました」
 橋本さんはその様子を、「まるで池に投げ込まれた小さな石が、波紋を広げていくようだった」と語る。いつの間にか学校全体に、校長の投げた“一石”の影響が行き渡っていた。そうやって、大きく変わった、と。
 「桜丘中学校が本当にすごいのは“自分だって何かできるのではないか?”と思わせてくれる学校の雰囲気そのものだと思っています。私たちも感化され、いち保護者がこのようなイベントを開催できたのかもしれません」(橋本さん)

 この講演会に司会・進行を行うファシリテーターとして登壇した、教育ジャーナリストでもある世田谷区長の保坂展人さんは言う。
 「西郷校長は、赴任当時から、何も意気込んで学校改革を始めたわけではありません。生徒が声を上げ、理不尽だと思うことを、教員と力を合わせて10年かけて少しずつ改革してきたわけです。西郷校長のトップダウンで改革したわけではないところに、意義があるのではないでしょうか」

 桜丘中学校と似た校風を持つ私立学校に、麻布学園がある。中学・高校からなる男子校御三家の1つで「自由闊達・自主自立」を旨とし、学校生活のあらゆる局面で生徒に判断がゆだねられている。そして、その校風こそが生徒の心を成長させているのだと理事長の吉原さんが話す。
 「麻布学園も桜丘中学校と同じく、校則はありません。私が入学した中学1年生の頃には“本当に自由にしていいんだ”と驚いたものです。“学校から信頼されている”という気持ちが、自分たちの責任感や自主性を育んだのだと実感しています」

『女性セブン』(2020年4月9日号)
https://www.news-postseven.com/archives/20200328_1550862.html


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