2020/8/3

メディア労働団体がコロナ禍の今為すべきこと  ]平和
  =たんぽぽ舎です。【TMM:No3996】「メディア改革」連載第38回=
 ◆ 新聞労連の「ジャーナリズム改革」提言の限界
   権力の一部のメディア 資本の側に「要望」する愚かさ

浅野健一(元同志社大学大学院教授、アカデミックジャーナリスト)

◎ 黒川弘務前東京高検検事長の賭けマージャン事件で賭博・贈収賄容疑の被疑者になっている産経新聞の大竹直樹、河合龍一両記者と朝日新聞の大島大輔記者は7月10日、東京地検の田淵大輔検事によって不起訴(起訴猶予)処分となったが、4人を告発した「税金の私物化に反対する市民の会」48人は16日、東京検察審査会に起訴を求める申立てを行った。

 黒川事件は、東京地裁・高裁内にある司法記者クラブの記者による検察ナンバー2に対する違法な接待であり、全国のキシャクラブで行われている官報癒着の氷山の一角だ。


 私が1970年代に所属していた警視庁上野署、千葉県警の記者クラブ(記者室)にも、マージャン台、花札があり、賭けごとが行われていた。数年前に見た国土交通省の記者クラブにも、立派な娯楽コーナーにマージャン台があった。

◎ 共同通信の後輩の記者の話では1980年代後半、最初の赴任地の水戸では、県警記者クラブで各社のキャップクラスと警察幹部がクラブの隅にある雀卓でマージャンをしていたという。交通部長(のちに刑事部長)、捜査二課長がいた。
 元・朝日新聞記者も、1990年ごろだと、どこの記者クラブ室も、記者同士の賭麻雀は日常化していたと言う。
 黒川氏の場合も、記者同士の賭マージャンに引っ張り込んだと見るのが自然だろう、と見ている。

◎ 検察が不起訴にした背景には、政府高官や捜査幹部との賭けマージャン、新聞社の借り上げハイヤーでの送迎などのキシャクラブ記者の旧態依然の取材方法を肯定する大谷昭宏、池上彰、高田昌幸、田島泰彦、服部孝章各氏らの援護射撃がある。
 テレビタレント化した元大手メディア記者と御用学者(法学、メディア学など)は、新聞界で今も続く取材対象者への「抱き付き取材」「夜討ち朝駆け取材」を止めるなと大号令を掛けている。

◎ 「取材対象者に物品、金銭を渡してはならない」という報道界全体の取材・報道に関わる倫理基準、ガイドラインを早急に作るべきだ。
 北欧、英米、オセアニア諸国などのメディア界の実践を学ぶべきだ。
 米国では取材対象者との間で許されるのは、マックのコーヒー・紅茶一杯で、チーズケーキがつくとアウトだ。昔、評論家上坂冬子氏からSEIKOの約2万円の腕時計を受け取った米大統領補佐官は即辞任になった。

◎ 今、報道現場の労働者が黒川事件の再発を防ぐために具体的な改革を実践すべき時だ。ところが、日本新聞労働組合連合(新聞労連)などメディア労働団体の動きは鈍い
 新聞労連は5月26日、黒川事件について「ジャーナリズムの使命や精神に反するもので許しがたい」と批判する声明を出したが、何の実行力もない。
 新聞労連のHPで、南彰委員長(朝日新聞政治部記者)名で出された声明全文を読んで、がっかりした。事態はあまりに深刻だという危機感がない。声明にはキシャクラブの「キ」の字も出てこない。

◎ 黒川氏と記者たちの常習賭博を見聞きしていた仲間の記者は、週刊文春が報道するまで全く問題にせず、社会に伝えなかった。誰も犯罪、報道倫理違反と感じなかったのだ。キシャクラブの常駐記者の多くは新聞労連に加盟する労組のメンバーである。
 声明はまず、「新聞記者は清濁合わせ呑む取材を重ねてきました。特に、捜査当局を担当する記者は、ごく少数の関係者が握る情報を引き出すために、『取材先に食い込む』努力を続けています」と書いている。その後に、「捜査関係者と並走する」という表現がある。
 「並走」などと呼べるような対等な関係ではなく、「ペンを持ったお巡りさん」として、捜査官にまるで御用聞きのように追走(隷従)しているのが実態だ。

 また、声明は、「当局との距離感を保ちながら、市民の疑問にこたえられる取材・報道のあり方」をさぐり、「事実を報じるためにあらゆる取材方法を駆使する記者に敬意を表し、安易な取材規制に反対する」と強調。最後に、「各報道機関の幹部に、体質の改善に向けた具体的な取り組みを強く求めます」と書いている。

◎ 事件事故や政治取材で、保つべき当局との距離感とは、具体的にどういう「距離」なのか。「清濁併せ呑む取材」や「あらゆる取材方法を駆使する」ことが間違えている。
 「賭けマージャン」は「濁」「あらゆる取材方法」には含まれるということか。「安易でない」取材規制は何か意味不明だ。

◎ 新聞労連は、北村肇委員長時代に欧州報道評議会調査団(私は顧問として参加、約40人)を派遣、画期的な「新聞人の良心宣言」(1997年)につながった。
 新聞労連の運動方針から、報道評議会などの提言が消えてまもなく20年になる。南委員長らには、1984年から約15年の労連における新聞研究活動の記録を読み返し、どう改革すべきかを考えてほしい。
 新聞労連の南委員長らは7月10日付で、「ジャーナリズム信頼回復のための6つの提言」を日本新聞協会に加盟する新聞・通信・放送129社の編集局長・報道局長に送付した。提言も精神論に終始している。これでは何も変わらないと思うので、私は賛同しない。

 南氏ら発起人は、「取材者・研究者の立場から、取材現場の経験ならびに内外の研究で得た知見をもとに提言をとりまとめた」として賛同人を集めている。
 賛同者は400人を超え、「勇気ある」現役記者が多数含まれていると評価する文化人がいるが、私を解雇を旗振した同志社大学の小黒純教授(元毎日新聞・共同通信記者)や、昭和天皇の死去で「崩御」を強行使用した責任者の丸山重威・元共同通信記者らの名前が入っている。

◎ キシャクラブ問題で、「上から目線で偉そうに言うな」とネット上で私を罵倒した日比野敏陽(京都新聞東京編集部長、元新聞労連委員長)が発起人の一人だ。
 発起人と賛同者たちに問いたい。検察が賭博罪成立を認めた記者3人の「実名報道」をどう思うか。キシャクラブ制度に全く触れず、犯罪報道の転換も言わない「運動」で何かが変わるというのか。

◎ 共同通信で、徹底的に人事で差別を受けている中嶋啓明記者は「提言は、キシャクラブ廃止、匿名報道主義への転換、メディア責任制度の確立という具体的な提言を伴った1985年以来の人権と報道・連絡会の主張を隠ぺい、無視し、若手記者だけではなく、メディアの現状に危惧を抱く報道被害者を含む人民の目を、人報連が提起してきた改革の方向性から逸らさせるものにしかならない」と指摘している。
 人報連のHP: http://www.jca.apc.org/~jimporen/

◎ 新聞労連は報道機関の幹部など外に「要望」するだけでなく、人民の期待に反した取材報道をしていない全組合員に対し、権力との癒着をやめ、キシャクラブ廃止運動の先頭に立てと指導するべきだ。
 メディア労働団体は、キシャクラブ制度を維持派の共犯者である現実をまず認識し、人民に奉仕するジャーナリズムを創成するために、メディア界における革命運動を始めてほしい。


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