2020/9/23

書評:彦坂諦『クオ・ヴァディス ある愛国少年の転生』(柘植書房新社)  \増田の部屋
皆様
 こんばんは。増田です。これはBCCで送信しています。重複、ご容赦を!

 本日はまた酷暑がぶり返してしまいましたが、明日からは秋らしくなりそうで、いよいよ「読書の秋」!です。
 彦坂諦さんの新刊『クオ・ヴァディス ある愛国少年の転生』(柘植書房新社)は、少々高価ではありますが、でも、とても考えさせられるものがあります。
 添付、お読みいただければ嬉しいです。
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 ◆ 彦坂諦『クオ・ヴァディス ある愛国少年の転生』(柘植書房新社)
   を読みながら「ひろしまタイムライン」を考えました


 この本は1933年生まれの彦坂さんが、「大日本帝国」という尊大な名前の国家の1945年敗戦前後の日記を読み返しながら、当時から74年経った2020年現在において「純粋培養された『少国民』=愛国少年」だった当時の自分に語りかける、という形式をとっている。


 彼は当時、父親の仕事の関係で旅順にいたが、敗戦による支配の逆転によって、一家はソ連占領軍から大連に追いやられ、難民となった。
 そこで、彼は失業した父の細々とした収入だけでは食べていけない一家の長男として「朝と夕方は豆腐売り、放課後は立売り」をした。そこでは、中国人の少年たちに「豆腐のバケツに石をたたきこまれて、商品の豆腐が崩れて売り物にならなくなった」というようなイジメに何度も遭った。しかし、彼は学校にも懸命に通った。

 ソ連占領軍政も中国人による大連市政府も「民族教育を尊重するという政策のおかげで」「敗戦国となった日本の小学校と中学校にはそのまま授業を再開するよう命じた」という。
 彼は言う「よくもまあ、つい先日まで抑圧者として君臨していた君たち日本人に独自の民族教育を赦したものだ。かりにこのとき日本人と中国人との立場が入れかわっていたとしたら、日本人がこれほどの度量を示しえただろうか?日本『内地』における朝鮮人民族学校の戦後史から見れば、答えはおのずからあきらかではないか。」…まさに!

 今なお、日本国家は朝鮮学校だけは、無償化や国庫補助から除外している。これを差別と言わずして、何を差別と言うか? そして「この憲法及び法律にのみ拘束される」はずの裁判官たちまで、この差別を「差別ではない」と強弁する厚顔無恥国家にまで落ちぶれている我が日本国…。

 一番、考えさせられたのは、「1945 ひろしまタイムライン」問題とのあまりの落差である。
 NHK広島によると、これは「日本が戦争していた1945(昭和20)年に、もしSNSがあったらどんなことをつぶいやいていたのかな? 1945年の広島で書かれた3人の市民の日記をてがかりに 2020年の広島で暮らすメンバーがじっくり想像 3人の日々のあれこれを自分の言葉でつぶやきます。 1945年の日付に合わせて毎日発信」するツイートである。
https://www.nhk.or.jp/hiroshima/hibaku75/timeline/

 「70余年前に書かれた日記を基に現在を考える」という発想は彦坂さんと同じである。しかし、後者には大問題があった。
 「投稿のもととなる日記の主は、広島で被爆した3人の市民。その中で唯一健在なのが広島市南区の新井俊一郎さん(88)」で、彼をモデルにしたのが「シュン@ひろしまタイムライン」というアカウントである。
(朝日デジタル https://digital.asahi.com/articles/ASN956TL5N91PITB01J.html?pn=9
「シュン」の日記主、NHKに不信感 認識に食い違い             2020年9月6日 7時00分)

 その「1945年6月16日と8月20日」のツイートは以下のようなものだった。
「6月16日 朝鮮人の奴らは『この戦争はすぐに終わるヨ』『日本は負けるヨ』と平気で言い放つ。思わずかっとなり、怒りに任せて言い返そうとしたが、多勢に無勢。しかも相手が朝鮮人では返す言葉が見つからない。奥歯を噛みしめた。」

「8月20日 朝鮮人だ!! 大阪駅で戦勝国となった朝鮮人の群衆が、列車に乗り込んでくる!

『俺たちは戦勝国民だ! 敗戦国は出て行け!』 圧倒的な威力と迫力。怒鳴りながら超満員の列車の窓という窓を叩き割っていく そして、なんと座っていた先客を放り出し、割れた窓から仲間の全員がなだれ込んできた!
あまりのやるせなさに、涙が止まらない。負けた復員兵は同じ日本人を突き飛ばし、戦勝国民の一団は乗客を窓から放り投げた 誰も抵抗出来ない。悔しい…!」
 この「シュン@ひろしまタイムライン」は5人の広島の高校生が書いている、ということである…もちろん、NHKの大の大人の担当者が「これでO.K」と許可したのであり、責任はNHKにある…。もしも彦坂さんの当時の日記を基に現在の高校生がSNSでつぶやいたら、ここの「朝鮮人」が「中国人」に変わっただけで、同じような内容になるのではないか、という自信がある。

 実は新井俊一郎さんの当時の日記には「朝鮮人の奴ら」などという記述は無かった。だから新井さんは自分の「日記の偽造である」と、こうしたツイートに怒っていらっしゃる(前掲 朝日)。

 この新井さんの原典に当たられた電脳塵芥さんのブログ記事「『シュン@ひろしまタイムライン』についての朝鮮人記述と実際の『日記』との比較」…たいへん、良く調べてあり、教えられるとことが多い…には次のようにある。
https://nou-yunyun.hatenablog.com/entry/2020/09/07/133121
「ツイートにある様に『朝鮮人の【奴ら】』という蔑視と取れる表現はありませんし、出典元の『何だか言い出しにくかったし、何よりも反論すべき根拠に乏しかったことも事実です』というどこか弱弱しさを感じる記述が『奥歯をかみしめた』の様に強い反感感情を抱いていると取れる表現に変化しているのは本人からすれば偽造と捉えられても仕方ないレベルの変更と言えます。」
 また8月20日のツイートについて原典(2009年…原稿執筆は2008年…の新井さんの回想記)の記述は以下だった。
「とつぜん戦勝国となった第三国人の一団が、圧倒的な威力と迫力で超満員の鈍行列車に割り込んできたのです。怒号とともに窓という窓をたたき割って数人が乗り込み、その場に座っていた先客を放り出したのち、仲間の全員が破った窓から雪崩込んできたのです。」
「戦勝国民となった一団は威圧的な暴力集団と化して逃げまどう乗客を列車から放り出したのです。あまりの凄まじさに誰一人として抵抗できず、やりたい放題の乱暴狼藉ぶりに耐えるしかない情けなさに、涙が流れて止まりませんでした。」
 原典には「乗客を窓から放り投げた」という記述は無いので、これは現在の広島の高校生が、少し、大袈裟に話を盛ったのだろう。
これは「大日本帝国による侵略と植民地支配の加害の不法・不当・凄まじさ」について全く学ぶ機会が無く、彦坂さんのように、万歳事件に参加して殺された祖父を持つ金韓民(キム ハンミン)に友として心ゆるされてその事実を告げられ衝撃を受けるというような機会も全く無く、元祖ヘイトスピーカーの桜井誠が都知事選で18万票も得るという現在の日本社会の状況で、現在の高校生たちが無意識のうちにヘイトスピーチに慣れ染まってしまい、こうした「朝鮮人の奴ら」というつぶやきが自然に生まれてしまった結果だろう。

 彦坂さんは書いている。
 「なのに、この落差…「『大日本帝国』という名の国家が朝鮮についてなにをやっていたかについて正確な知識をもたず、もとうとしなかった」日本人と、歴史的真実を知っている朝鮮の人々の落差…について、日本人すなわち民族的に日本民族に属するひとびとの大多数は、いまなお、何も知らず、知らねばならないのだということすら理解せぬまま、『大日本帝国』支配階級の直系の子孫でありこの日本列島を乗っとって支配している現政権のまきちらすデマをまに受けているのだ。」

 このNHK「ひろしまオンライン」の「朝鮮人ヘイト」問題は、こうして出現すべくして出現したのである。そしてNHKは居直った。
 「今後は、被爆体験の継承というプロジェクト本来の目的を的確に果たしていくため、必要に応じて注釈をつける、出典を明らかにするなどの対応を取り、配慮に欠けたり、誤解が生じたりすることがないように努めます。」

 誤解した方が悪い!? …そして「差別を助長するものだから、このツイートは削除すべきだ」という多くの削除要求にもかかわらず、未だに、NHK広島は、このツイートを削除していない…

 私の一番の興味関心は「当時、同じ『国家の敗戦』という体験をした人たちが、なぜ、彦坂さんのように『大日本帝国による侵略と植民地支配の不法・不当さを知ろうとしないのか、その加害の凄まじい結果は、それを命じた日本支配層ではなくて、巻き込まれざるを得なかったド庶民が舐めさせられたにもかかわらず、日本支配層の責任を追及しないのか」ということである。

 回答を彦坂さんは「お国のために、『陛下の御為に』、16歳で志願して海軍特別少年兵となり、乗艦武蔵がレイテ沖で撃沈されたため、海中に投げ出され、重油を腹いっぱい飲まされた渡辺清」を例にとって書いている。
 「敗戦後、このように真摯に自己を省みることができたのは、あのとき真摯にわが身を時代にかかわらせた者たちだけであって、そのほかの大部分のひとびとは、どのような時代とも、そこそこにしか、かかわらず、ただ身をかがめて、時代の風をやり過ごしていたにすぎなかったのであろう

 私の両親も、もう二人とも亡くなったが、そういう「ただ身をかがめて、時代の風をやり過ごしていたにすぎなかった」「大部分のひとびと」の中にいた。
 父(1921〜2013年)は戦争には行ったが…中尉だったとか…「運が良くて戦闘が終わった場所ばかりにいって、最後は伊豆で温泉に入りながら、米軍の本土上陸に備えているうちに戦争が終わったげな。」と、思春期以降、父と口をきくのはイヤだった私に母が言っていた。父とは戦争の話はついに一度もしなかった。

 私の学生時代だったと思うが、母(1927〜2020)が何かの話の折に「『なぁに、今に神風が吹いて勝つけーねー』と、みんな言うとったが吹かんかった。女学校行っても毎日、芋掘りばっかりやっとったから、お母ちゃんはバカなんだ」と言ったことがあり、私は、たぶん…いや絶対(笑)…小馬鹿にしたように「戦争が終わった後、そんなに自分をバカにしてしまった昭和天皇の責任を追及しようとは思わんかったんかね?」と言った。
 すると母は怒った。「そがーなこと、誰が考えるかね? 毎日、食べるものをどうしようか、そればっかりだったがね

 彦坂さんは書いている。
「いまこの国にくらしている日本人と呼ばれるひとびとのうちに、いったいどれほどに、今世紀の前半にこの国が深くかかわったもろもろのできごとにまつわる、まさに歴史的民族的とでもいうべき記憶が生きつづけているのか。

つごうがわるいことはつぎつぎに忘れ、私たちは孜々として働いてきた。孜々として働いて、世界じゅうからそねまれるようなカネモチ・ニッポンを築きあげた。すべてが超スピードで過去になっていき、その過去の記憶などいまではよみがえらせるすべもない。いや、忘れるに足る記憶など私たちはもともともったことがないのではないか?

ひとつひとつの体験が私たちの生になんらかの意味を持つものとなったときに、はじめて、それは私の経験になる。そうでなければ、それは、はじめから体験されなかったにひとしいだろう。そのような個々の人間の経験に根ざさないかぎり、そして、一つの歴史的民族的経験と言いうるようなものは、おそらく、成立しえないのだ。半世紀ほど前にあれほど大きな犠牲をはらい他の諸民族にもはらわせながら、どうやら、私たちは、民族全体としてはなにひとつ経験しなかったらしい。私たちは、ただ、もろもろのできごとのなかを通りすぎただけなのだ。」
話をNHK「1945 ひろしまタイムライン」問題に戻すと「がんの治療で入院中の新井さんは、2010年から広島平和記念資料館などで証言活動を続けてきた。」(前掲、朝日)という人柄であるが、その新井俊一郎さんの2009年の回想記にも「戦勝国民となった一団は威圧的な暴力集団と化して」しまう前に、大日本帝国が彼らに何をしてきたかについての考察は無かった。
 彼を責めるつもりは無いし、そんな資格も無いし、あのツイートが問題となった現在は、新井さんも考えておられることと思うけれど、「加害の結果としての被害」であるのに「被害」は今も「ひろしまタイムライン」の2020年の高校生まで増幅して語るのに、原因である「加害」について心を向けることは、日本人にはとても難しいことになっているようだ。

 そして、冒頭に書いたように、現在まで朝鮮学校のみは幼稚園から大学まで、他の全ての外国人学校は受けられている国庫支援から除外されるという、明々白々な差別=人権侵害を日本政府が先頭に立って実行する事態となっている。

 彦坂さんは書いている。
 「あの『敗けかた』にその後のこの国の惨憺たるていたらくの原点があったのだ
 「もし、あのとき、天皇の詔勅によって『終戦』(敗戦ではない)に『なった』といったたぐいの意識を、日本に暮らす庶民の大多数がもったのではなかったなら、この国の戦後史はまったくことなるものになっていたに違いない」

 ん〜〜〜…では、どんな『敗けかた』なら、良かったのだろうか…。
 戦争に反対した人々は、全部が牢獄に閉じ込められているか、特高の拷問で裁判さえ受けることができず殺されていた1945年8月の状況で…西田信春のように遺体さえ人知れず処理されてしまった人もいる(『西田信春――甦る死』(学習の友社)…。

 さて、しかし、過去の歴史を変えることは不可能なのだから、私たちは今、何をすればいいのだろうか…

 本書は430ページ余もあり、鋭い人間観察に満ちた中身は多岐にわたるが、本当にいろいろと考えさせられる。¥4000は庶民にはちょっとイタイけれど、近くの図書館に購買リクエストするというテもあるので、ぜひ、お読みいただきたい。
 特にNHK「ひろしまタイムライン」担当者には必読だと思うけれど…
タグ: 増田都子


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