2020/10/21

『朝日』10月11日「歴史・公民 育鵬社激減」記事について、読者の意見  ]Vこども危機
 『朝日』10月11日「歴史・公民 育鵬社激減」記事について、下記の<続A>のメールを先ほど、朝日新聞社に送りました。また長文になっていますので、時間のある時にでもお読みいただければ幸いです。ご参考までに。   拡散・転送は自由です

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 ◆ <続A「事実誤認、偏見促進記述」掘り起こし編>
   『朝日』10月11日「歴史・公民 育鵬社激減」記事について

   『朝日新聞』教育問題担当グループ 各位     高嶋伸欣です


1 先のメール<続@>では、標記の記事後半で鈴木敏夫氏が言う「保守系の首長が任命した教育委員らが育鵬社版を推す」違法・違憲の手法を、各地の市民団体の「粘り強い運動」で阻止した経過を紹介しました。

2 今回は、先に予告したもう一つの「粘り強い運動」の事例を紹介します。
 これも「左派の反対運動」ではなく、違憲・違法な記述を検定官が見落としていた、「右派」でも放置できない記述にある地域の市民グループが気づいたのが発端です。


 その情報が全国のグループを通じて各教委に知らされます。
 そしてさらに情報共有化によって新たな問題点が掘り起こされ、その都度問題点が各地の教委に通報されたという、極めて公正明朗な市民運動の話題です。

3 <育鵬社版の事実無根・偏見促進記述を掘り起こした市民グループの連携活動事例>
 7月下旬でした。九州のある教育委員会で採択のための各教科書比較検討資料に基づく第1次の会議が開かれ候補が絞りこまれました。同会議は公開され、傍聴者にも比較検討資料が配布されたので、市民グループが同資料を精査していたところ、育鵬社公民教科書について「様々な地域、生徒の実態に応じて、取り上げる際の配慮が必要になる」との指摘がされていることに気付いたのです。

4 具体的には「子どもの貧困と子ども食堂」という新設コラムの記述のことで、「センシティブなものが取り上げられており」取り扱いに「配慮が必要である」というものでした(添付資料の手書き星印部分参照)。

5 これまで同教委の採択関係会議を傍聴してきた市民グループの経験では、比較資料が長所の列記を主体にしてきているので、「これは珍しい!」とまず着目したのでした。
 それだけに、問題点を明示するのはよくよくのことで、資料作成の調査員(現場教員や指導主事)もこれは見過ごせないと感じたのだろうと受け止め、問題のコラムを同書見本本(157p)で確認しています(添付資料参照)。

6 そして、調査員が指摘した問題点を読み取り、このままにはできないとして、各地の市民グループにこの情報を伝えたのです。

7 各地のグループもそれぞれ見本本で確認してこのコラムの記述を点検した結果、
 @ 「ひとり親の家庭は経済的に余裕のない状況にあります」は、”すべてのひとり親の家庭は経済的に余裕がない”と断定的に決めつけ、一面的に過ぎて明確に事実に反している。
 A この記述によって、ひとり親の家庭の子どもがすべて”子どもの貧困対策”の対象であるかのような偏見を中学生に植えつけ、該当しないひとり親家庭の子どもの誇りを傷つけるものとなっている。
 また、外見上は経済的に余裕のないひとり親家庭の子どもの場合も、だからすべてが「子どもの貧困対策」の対象にされるとの短絡的な説明も、多様なケースの存在を無視しているもので、事実に反する。
 B ひとり親家庭の子どもは貧困対策の対象になるという説明によって生じる偏見はひとり親家庭の子どもに対するいじめを誘発する可能性が高い。このコラムの説明は、極めて非教育的かつ危険。
 C 「子どもの貧困対策として、民間団体によって無料または低額で食事を提供する子ども食堂が広がっています」も、「子ども食堂」が多様な目的や役割をもって機能している実態があるにもかかわらず、それらを無視した一面的な説明で、事実に反している。
 D ひとり親家庭についての説明と同様に、「子ども食堂」を学校とも違うもう一つの居場所、他校の生徒等との交流の場所としている子どもなどを、すべて貧困対策の対象であるかのような偏見を中学生に植えつけ、「子ども食堂」に参加する子どもの誇りを傷つけるものとなっている。
 E 同様に、そうした偏見は「子ども食堂」に参加する子どもに対するいじめを誘発する可能性が高い。Bと同様に、非教育的で危険。
 F さらに「無料学習塾」についての説明にも同様の問題点がある。
 G なぜ、このように非教育的で危険な説明を検定では見逃したのか。
 などの諸点が指摘されました。

8 これらの問題点を交互に列挙しあう中で、特にいじめを誘発する可能性については、文科省自身が道徳の教科化の最大の根拠にいじめ対策を掲げていただけに、「この問題記述を検定で見過ごした文科省の責任は重い」「不思議だ」「安倍首相推奨の育鵬社本だから、文科省が忖度したのではないか」などの意見が交わされました。

9 同時に、発端となった九州の教委の社会科教科書検討資料作成の調査員の教育者の観点からの記述点検の適正さを評価する意見、「よくぞ見つけてくれた」「マスコミも見落としていた」などが出されていました。

10 こうした評価が出てくるのも、教科書を教育者と同じ観点でみつめ、ひとり親の子どもを黙って背後からみつめ支えている教育者の姿勢を、この資料の記述から読み取ったからこそです。

11 このような眼差しを共有している市民の取り組みなどに触れず、「左派の反対運動」とする八木氏の言い分を10月11日の『朝日』記事は紹介しています。事実についての取材が不十分なまま、特定の立場からの主張の紹介に傾斜しすぎではないでしょうか。

13 最近の教科書問題についてのマスコミ報道では、「右か左か」というレッテル貼りを前提にした図式にはめ込んだものが多くみられます。けれども教育はあくまでも基本的人権の保障など憲法の理念に立脚していることが基本原則のはずです。

14 そうした観点を大半の教育者が堅持していること証明したのが、上記の九州の教委の採択資料です。そして、その問題提起に気付いた市民グループの対応も同じ意味を示したと考えられます。
 「左派の反対運動」とする発想とは別次元なのです。

15 ともあれ、こうして新設コラムの情報が共有化され、各地の「子ども食堂」や「無料学習会」などの多様が伝えられたことで問題点の整理も進められました。

16 しかも、そうした取り組みの過程で、さらに新たな問題点が掘り起こされます。
 それは、このコラムに掲載されている「無料学習会」の写真のキャプションに<愛知県守山市>とあるのに対する、名古屋市のグループからの「名古屋市に守山区はあるが、愛知県に守山市は存在しない」という指摘でした。
 
17 指摘の通りでした。公民的分野は学習指導要領も抜本的な改定がされた訳ではなく、育鵬社版も現行版を大半踏襲していて、新規の紙面、新たな記述や図版類はそれほど多くはありません。当然、正確さについては念入りな確認作業ができたはずです。
 それが実際は極めて杜撰であったことを、市民グループが掘り起こしたのです。

18 この件は、育鵬社だけでなく文科省にとっても弁解の余地のない失態として、”重い
意味”を持つものです。
 ”重い意味”については<続―B>などで別途に説明します。

19 こうした問題点が発覚した時点までには、すでに各地のグループや個人から教育委員会に宛て、育鵬社版に関する問題点指摘文書等が提出されていました。それらに加えて、その時点以後に採択会議の日程が設定されている「教育再生首長会議」加入自治体の教委等に向け、これらの問題点を新たに指摘する請願文書が、次々と提出されました。

 *私(高嶋)の場合、コロナ禍で外出を自粛していましたが、横浜市教委に向けて請願書を郵送で提出しました(添付資料参照)。同文書では、数年前に福島からの原発避難で転校していた児童が過重ないじめにあいながら学校・教委とも対応を怠り、ことが表面化してもなお責任回避の弁明で全国に醜態を晒した同教委の前歴を人々は忘れていない、との指摘を加味しました。

20 同様に、各地のグループはそれぞれに地元の教育者の生の声や具体的事例を盛り込むなどの工夫をした文書を提出しています。
 そしてそれらを情報としてWEBで交換し、幅広く公開もしていました。

21 そうした情報公開によって、また新たな展開が生まれました。
 上記の”幻の守山市”記述発覚の件を含め、このコラムの問題点をについての情報を、関西地区の市民グループがあるMLにアップしたところ、「この写真は我々の活動場面を撮影したものだが、育鵬社版への掲載を了承した覚えがない」旨の連絡が、市民グループ宛に届いたのです。

22 その連絡は、滋賀県守山市で「無料学習会」活動をしている社団法人からでした。

23 話は二転三転して
 H 問題の写真のキャプションの<愛知県守山市>は<滋賀県守山市>の誤りであったこと
 I 問題のコラムの「無料学習会」の写真は無断掲載であり、肖像権侵害も危惧されることが、新たな問題点として確認されたのです。

24 この2点についても、各地のグループが教委に通報しました。

 *その後、育鵬社はHIについての責任を認め、Iの件では当事者間で調整した模様です。

25 @〜Gの問題点についても、育鵬社は採択部数の確定を受け、来年4月からの使用に間に合わせて作製する生徒用教科書(供給本)の印刷前の訂正申請で、当該コラムの差し替え等で対処するとの情報があります。

 *ちなみに、文科省はこうした問題点が浮上する以前に、「採択は今後の訂正申請等を見込むことなく、あくまでも見本本の記述等に基づいた検討資料などでおこなうものとする」旨の通知を全国の教委に、わざわざ発出していました。

26 こうした全国の市民グループの連携活動によった情報提供・要望等が、育鵬社版の採択にそれなりの影響を及ぼした面があるだろうと、私たちは考えています。

27 採択の激減で、問題点だらけの新設コラムで中学生が学ぶことは、確実になくなりました。また0.5%ながら採択された育鵬社公民教科書では、この新設コラムが差し替えになる見込みです。
 このコラムを中学生が目にすることは、食い止められたと言えます。

28 <今回の”成果”はこれまでの「粘り強い」取り組みがもたらした必然のものであること> 
 なお言うまでもないことですが、上記の市民グループの”成果”は偶然の賜物や今回だけの取り組みの結果ではありません。

29 全国的には採択のための教科書比較資料作成が法的に義務付けられているものの、それらを全く公表しなかったり、公表を採択後に限定している教委が少なくありません。そうした中で、発端の教委は前述のように同資料に基づく第1次の採択審議の場を公開し、資料の公開どころか傍聴者への配布どころか持ち帰りも認めています。

30 そこまで採択過程の公開を実現させ、透明度の高いものにした上記教委での市民グループの取り組みがあったからこそ、このコラムの問題点を共有化できたのだといえます。そして情報を共有化してからの、各地のグループの連携の巧みさも、今後に向けた多くの励みと自信をもたらすものでした。

31 遡れば、2001年に「つくる会」扶桑社版教科書が検定に合格した頃から、教科書問題には検定による不当な記述規制だけでなく、採択における政治的介入の問題が加わりました。「つくる会」の藤岡氏たちが、現場教員の意向を尊重している教委の採択審議を政治的介入で歪めようとしたからです。
 そうした動きを察知した市民グループが全国に呼びかけ、各地の教委の傍聴と情報開示請求などによる情報収集と、それらの共有化が継続されてきました。

32 その結果が、先に紹介した「教育再生首長会議」の動向把握であり、この新設コラムの問題点摘出でもある、と位置づけられるわけです。

33 傍聴人1人というような状況でも毎回の委員会議を傍聴し続けることで、上記3・5のように微妙な変化等に気付けたのだと言えます。

34 欠かさず毎回の教委会議を傍聴している方、県内全教委の採択関係情報公開状況を点検して粘り強く状況改善の申し入れを繰り返すことで、着実に改善の実をあげている方、1人で船やバスを乗り継いで離島の教委に出向き要望を続け、教委事務局の対応を変えさせた方。
 各地で続けられている「粘り強い運動」の様子をWEBで知るにつけ、「自分も何かしなければ」という思いに駆られたのは、私だけではないと想像しています。

35 今回の一連の<私見>メールをアップするに当たり、こうした自発的な市民グループの取り組みがどのようにして各地で始まり、それらがどのようにして各種の情報の共有化を進めて今回の”成果”を生み出したのか、整理していく必要性を感じています。
 同時にそのことは、市民グループとしての今後の取り組みの目標、テーマ等を浮き彫り
にすることに繋がるように感じています。

36 それらの目標、テーマについては、マスコミの皆さんにも知っておいて頂けると有難いです。

37 それというのも、今後のテーマ等の選別に際しては、今回の採択に関するマスコミ報道で掘り起こされた「やはりそうだったのか」という情報によって状況把握が一気に進んだ件などが関わっているのです。
 今後もそうしたマスコミならではの情報の掘り起こしを期待する意味を込め、次回<情報―B>では、それらの点を中心に整理をするつもりです。

 以上 これまでと同様に、高嶋が得た情報に基づく高嶋の私見です。 
   何か参考になれば幸いです。


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