2021/7/24

政治の世界では常軌を逸するセクハラ、極めつけはセカンドレイプの町草津町議会  ]平和
  =『議員研修誌 地方議会人』巻頭言=
 ◆ 地方自治に思う
   女性議員の受けるハラスメント

上野千鶴子(うえのちづこ 東京大学名誉教授)

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 世界フォーラムが毎年発表する男女平等世界ランキングは153力国中120位(2021年)の日本で、わけても女性の政治参加率は低い。
 健康、教育、経済、政治の4つの指標からなる男女平等指数のうち、政治参加は147位。国会(衆議院)議員の女性比率は世界平均が25%のところ日本は9・9%で166位
 昨年発足した菅内閣の女性閣僚比率は20人中2人で10%、今さら「初の女性大臣」にニュース価値はないだろうが、反対に「閣僚女性比率わずか10%」をニュースにしてほしいと思うくらいだ。


 2018年に成立した候補者男女均等法(「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」)は、その直後の参院選では何の効果もなかった。達成率に応じて政党助成金を減額するなどの罰則規定がなければ、実効性を持たないだろう。

 ことほどさように女性が政治家になる壁は厚いが、ようやく政治家になっても、政治の世界では常軌を逸するセクハラが待ち受けていることがようやく注目を浴びてきた。

 東京都議会では塩村文夏(しおむらあやか)議員(現参議院議員)が少子化対策について質問中に「早く結婚したほうがよい」とヤジを飛ばされたし、熊本市議会では緒方夕佳(おがたゆうか)議員が乳児を連れていたことで議会の出席を拒否された。
 きわめつきは草津町議会の新井祥子(あらいしょうこ)議員が町長のセクハラを公表したことで、与党議員たちがリコール運動を実施、新井議員は失職した。
 やるべきことが間違っているだろう。最初に第三者をまじえた調査委員会を立ち上げて事実の究明を行い、事実なら加害者を処分することだ。それなのに被害者を議会から追い出すとは本末転倒だろう

 それ以前から、女性議員が受けるハラスメントは話題に上がっていた。
 議員の懇親会でお酌を強要されたり胸を触られたりするのはざら、議員同士でなくても、「票ハラ(投票ハラスメント)」と呼ばれる後援会や支持者の男性からの支持とひきかえのハラスメントは、どこにも持って行きようがなかった。
 それがようやく表に出始めたのだ。

 このたび内閣府は、初めて地方自治体1144議会に所属する男女議員1万100人を対象にアンケート調査を実施、この4月7日に公表した。
 それによると女性議員の57・6%が同僚議員や有権者から性差別やセクハラを受けた経験があると回答した。
 そして35%が、性差別を議員活動における課題だと答えた。

 議員の多くは地域のボスや有力者、そういう立場にいる者ほどセクハラの加害者になる可能性の高いハイリスク・グループである。
 事実、自治体首長は、東京都狛江(こまえ)市長、岩手県岩泉(いわいずみ)町長新潟県知事など、セクハラや買春で次々に辞任している。
 行政のトップは誰も掣肘(せいちゅう)する者がおらず、ハイリスクな存在だが、議会も同様なのだ。

 地方議員経験者である寺町(てらまち)みどり&寺町知正(てらまちともまさ)さんの共著に、『市民派議員になるための本』(WAVE出版、2014年)がある。
 立候補から再選まで、懇切丁寧に指導した実用書だ。プロデュースしたのはわたし。

 旧版は2002年刊行、その後地方自治法の改正と公職選挙法の改正があったので、それをとりこんで2014年の統一地方選挙に間に合うように新版を出してもらった。
 選挙のたびに見ず知らずの地方の読者から著者のおふたりに「ワタシは/ボクは、この本で議員になりました」とお礼状が届く。
 本書の「社会を変え、市民の政治を実現するための50章」のなかには、ちゃんと「セクハラや差別に対抗する」という節もある。

 セクハラ野次が飛んだら、涙ぐんで立ち往生している場合じゃない。使える武器はなんでも使って対抗しよう
 議会内ならただちに「侮辱に対する処分要求」を出すべし。
 議会の外でも同じ。
 「いつ、どこで、だれが、なにをしたか(いったか)を克明に記録」し、文書で謝罪を求めたり、本会議や委員会でとりあげ、場合によっては訴訟を起こし、自分の持っているメディア(ウェブサイトやニュース)で取り上げ、マスコミに公表するなど、闘う手段はいくらでもある。
 性差別やセクハラは人権侵害行為、「もの言う市民」として議会に登場した女性議員が泣き寝入りしたら、他の市民たちの人権侵害を守ることなんてできない。

 他にも議会に初登場したら出会いがしらにどんな嫌がらせを受けることを予期しておいたほうがよいか、他の議員とどうつきあったらよいか、議員の親睦会には参加しなければならないか……この本には全部書いてある。

 女性議員はどこでも議会内少数派だ。そのうえ、会派によって分断されている。
 だからこそ自治体を超えたネットワークやノウハウの共有が必要なのだ。
 寺町さんたちは「女性を議会にネットワークあいち・ぎふ・みえ」を結成して女性議員のサポートをしてきたし、平神純子(ひらがみじゅんこ)さんは「鹿児島で女性議員を100人にする会」を作っている。
 「全国フェミニスト議員連盟」もあるし、「女性を議会ヘバックアップスクール」「赤松政経塾」「パリテ・アカデミー」など、女性政治家養成のための機会も増えた。

 少数派にとっては孤立しないことが絶対に必要だ。
 日本における政治家のイメージはすこぶる悪い
 利権団体の代表であり、言い逃れと記憶喪失でその場をしのぎ、権力には忖度(そんたく)と同調ですりより、コネを優先して利益誘導し、尊大で傲慢…というイメージが定着している。
 子どもたちが「将来なりたい職業」にあげることはめったにない。

 だが女性議員が増えれば、自分たちの税金を公正に配分するという大切な任務のために、骨惜しみなく働く公益の代理人という見方が拡がるだろう。
 議員は任期制だが、同じく有期雇用の非正規労働者よりはいくらか労働条件がよい。各地の非正規雇用の女性たちに、次の転職先に議員という選択肢もありますよ、とわたしは勧めている。

 ※ 略歴
 富山県中新川郡上市町(なかにいかわぐんかみいちまち)出身。京都大学大学院社会学専攻博士課程退学。博士(社会学)。2011年よりNPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。『家父長制と資本制』(岩波書店)、『おひとりさまの老後』(文春文庫)など著書多数。

『議員研修誌 地方議会人』共同編集:全国市議会議長会・全国町村議長会(2021.5)


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