2021/7/28

「従軍慰安婦」記述を教科書から排除しようとする邪悪な企ての全貌  ]Vこども危機
 ◆ 検定済み歴史教科書記述に改変の政治的圧力!
   ー萩生田大臣先頭に文科省あげてー
(『反戦情報』)
高嶋伸欣(たかしまのぶよし/琉球大学名誉教授)

 今年2021年夏は高校の新科目「歴史総合」教科書の内容が明らかにされ、その採択に関心が集中するはずだった。そこへ自由社版中学歴史教科書の1年遅れの検定合格により、採択やり直しという話が飛び込んできた。それも、やり直し採択をするかどうかは、教育委員会など採択権者の“自主的”判断次第というもの。どさくさ紛れに自由社版だけでなく育鵬社版の採択がされることもありうると、各地では昨年同様に緊張が高まっている。

 コロナ禍の今、これだけでも煩わしいのに、さらにもう一件、歴史教育に政治的圧力を加える「事件」が発生した。検定済みの教科書の記述改変を迫る圧力。しかも萩生田光一文部科学大臣を先頭に文科省をあげて、教科書会社・執筆者に迫っているもので、悪質極まりない。だが「従軍慰安婦」「徴用工」の記述のためかマスコミの関心は概して薄く、報道はあまりない。


 ◆ 標的にされた「いわゆる従軍慰安婦」記述

 発端は山川出版中学歴史教科書「いわゆる従軍慰安婦」記述が登場したのを、藤岡信勝「新しい歴史教科書をつくる会」が不当と騒ぎ立てていることにある。
 同会は文科大臣宛の「申し入れ書」で、記述削除の訂正申請の勧告権限を発動するように要請。教科書課は要請に応じられないとの素っ気ない回答を繰り返したが、3回目の「回答書」(4月6日)には次のように加筆していた。
「今後」「新たな政府見解が出されるといったことがあった場合には、そうした状況を踏まえ、適切に対応していきたいと考えております」
 と。

 知恵を付けられた側の「つくる会」に呼応する形で、日本維新の会の馬場伸幸幹事長が「従軍慰安婦」等の用語に関する『質問主意書』を4月16日に提出。同27日に閣議決定を経て『答弁書』が出された。

 連休明けの5月10日、衆議院予算委員会で問われ、菅義偉首相はどのようにするかは文科省が「適切に対応すると承知している」と答弁。それを同11日付の『産経新聞』「『従軍慰安婦』の教科書記述認めず」と歪曲して第一面中央で伝えた。同紙の関与が鮮明となった。

 次いで同12日の衆議院文部科学委員会で、維新の会の藤田文武議員と萩生田文科大臣・.文科省幹部とが馴れ合い質疑を展開。
 文科省側は『答弁書』は閣議決定を経た政府の統一的な見解と位置づけ、「検定基準・社会科1の(4)」の条項(以下「政府見解条項」)が適用される、と強調した。
 同条項とは
「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」
 というだけのもの。

 彼らが「政府の統一的見解」に該当するとしている『答弁書』は
「政府としては」「単に『慰安婦』という用語を用いることが適切と考えており、近年、これを用いているところです」
 と、政府内官庁用語としての見解を示したものに過ぎない。
 もともと、教科書は官庁用語で表記しなければならないということはない。

 例えば、日米安保条約では、米軍の基地を「施設及び区域」と表現しているが、教科書では「基地」と表記している。
 検定で条文通りの表記を指示したこともあるが、あまりに非常識と批判され、指示は事実上撤回された。
 方位の表記でも官庁は「北東アジア課」「南西アジア課」など南北を東西の上に置くが、東北新幹線や西南戦争など定着しているものの教科書表記は認めている。

 政府の統一的見解がそのまま「政府見解条項」にいう「政府の統一的見解の存在」に当てはまるものではない。
 その上、同条項では「最高裁の判例」を「統一的見解」と同等に位置づけている。

 今回の場合も、5月26日の衆議院文科委員会で畑野君枝議員(共産党)が、最高裁判決(2004年11月29日)に「軍隊慰安婦」の表記が用いられている事実を指摘した。
 この事実を、『答弁書』を作成した内閣府や文科大臣らのいずれも「承知していない」旨答弁し、審議はその先に進めない事態となった。

 このように、先の『答弁書』と「政府見解条項」を結び付けて、教科書記述に枠をはめるのには無理がある。
 ましてや、検定済み中学歴史教科書(4月から全国で使用中)や高校「歴史総合」の見本本(採択用)の記述の訂正申請を促す法的根拠はどこにもない

 だが、教科書課は5月10日と12日の国会審議に基づき、関連教科書の発行者(出版社)を招集した「臨時説明会」を5月18日にWEB形式で開催した(以下「5・18WEB会議」)。
 会議の趣旨は「国会審議の展開に拠って、訂正申請が考慮されるべき事態であることを説明するための情報提供」であった、と教科書課は後に説明している。
 訂正申請は通例では、編集実務者と執筆者が対応する。だが、同会議では「編集担当役員」の出席が指定された。同会議は萩生田大臣と文科省の意向に合わせて訂正申請をするかどうかが、会社の命運を左右するほどの重大事であるかのように印象付け、脅迫観念同然の心理的負担を派生させるものであった。


 ◆ 市民団体は文科省に関連業務停止と謝罪を要求

 不当なのはこれらの諸点だけではない。5月12日の衆議院文科委員会で萩生田大臣は問題発言を連発した。
 「今年度の教科書検定より」「そういった表現は不適切ということになります」。
 「今回の閣議決定によって、強制性のある慰安婦等については、今後そのような記述がなくなっていくんだろうというふうに期待していますし、そうあるべきだと思うんで
す」
 などと。

 前出の「政府見解条項」を字面通りに解釈すれば、このような発言はありえない。だが同大臣は、続けて次のように言いきっている。

 「ちょうど平成26年のときに、こういったことは、歴史的に確認できていることについて政府として認めたものについてのみ教科書に記述しようということをルール化をしまして、その後正常化をしてきたというふうに思っていたんですけれども、今回、久しぶりにまたこういう記述がでてきた」と。

 萩生田大臣が「政府見解条項」政府見解のみ記述させる規定と解釈している(以下「萩生田解釈」)、と自ら明かしたことになる。
 だが同条項は
「政府の統一的見解とは異なる見解を排除するという趣旨でない」 (以下「確定定義」)。
 このことは、同条項を2014年(平成26年)に策定し、官報に告示した下村博文・文科大臣(当時)や文科省官僚が繰り返し明言している。
 一方で第三次家永教科書裁判の最高裁判決(1997年8月29日)は、「行政行為における法規の恣意的解釈と運用は職権乱用で違法である」という法治主義の大原則の下、検定に4件の違法行為があったとし、40万円の賠償を国に命じている。

 以上の分析から、「萩生田解釈」は法規の恣意的便宜的な解釈であり、萩生田大臣の同解釈に基づいた文科省職員への指揮監督による「5・18WEB会議」は、同様に不当な運用に該当していることになる。
 だが、この不当、違法な状況は放置されたままとなっている。

 教科書課は、「確定定義」に言及した議事録教科書発行者にWEBで、6月17日に送り付けたことで、是正措置を済ませたかの如くしている

 そこで横浜市の市民団体「教科書・市民フォーラム・運営委員会」は、萩生田大臣宛『申し入れ書』を6月28日付けで提出した。
https://wind.ap.teacup.com/people/16082.html
 内容は萩生田大臣自身による一連の国会発言の訂正・謝罪と「5・18WEB会議」等の関連業務の停止措置の省内外への徹底とを求めるもので、回答は2週間内を目途とするよう記してある。
 本件は、国会やマスコミが本来の役割を果たせていない時に、市民が不公正状況をいかに是正できるかの試金石であり、回答が注目される。

『反戦情報 No.442』(2021.7.15)


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