2021/9/22

都立高入試に、民間の英語スピーキングテストが導入される現場の困惑  Y暴走する都教委
  《子どもと教科書全国ネット21ニュースから》
 ◆ 2022年度の都立高校入試に「英語の民間テスト」を活用
   〜現在の進行状況とその問題点を考える

片桐育美(かたぎりいくみ・東京都公立中学校教員)

 コロナ禍は続いているため入学式などには制約があったものの、2021年度は平常にスタートした。それは本当に当たり前なのに、職員室にはホッとした空気があふれていた。
 そんなある日、同僚の英語科の教員が「片桐さん、スピーキングテストはやはり実施するらしい。国は大学入試では英語の民間テストをあきらめたのに、東京都は実施するらしい。本当にわけわからない」と言ってきた。
 私も英語科のことだろうと簡単に考えていた節があり、あまりよくわかっていなかったので、英語科の教員に聞いて初めて、大変さや問題の多さが見えてきた。

 ◆ そもそも、そのテストはいつ、どこで決まったのか


 最初は2018(平成30)年4月に都教委が「英語『話すこと』の評価に関する検討委員会」を設置したところから始まった。
 その委員会では都立高校の英語入試について「英語の『話すこと』の技能の評価等に対する具体的内容についての検討」をおこなった。その結果が、今回行う英語のスピーキングテストとなったらしい。
 組合の支部長会でもその問題点は指摘されていたが、中学校における問題であり、そしてその詳細は英語科教員しか良くわかっていなかったこともあり、あまり大きな問題にならなかった経緯がある。しかし、あらためて調べれば調べるほど、その問題点は大きいことがわかってきた。

 その経過をたどると、2018年からこのスピーキングテストの確認プレテストが行われており、2019年には抽出校で600名を対象に行われている。そして2020年には公立中学校3年生全員による確認プレテストが行われる予定だった
 しかし、コロナ禍でこれはさすがの都教委も中止し、しかしこれを諦めることなく2021年度にあらためて、公立中学校3年生全員による最後の確認プレテストが行われることになったというのが、事の顛末である。


 ◆ どのように実施されるのか

 確認プレテストは、どのように行われるのだろうか。まず、4月にこのプレテストについての実施方法による研修が行われた。
 4月は学校にとってもっとも忙しい時期である。私の学校の場合は英語科主任、進路指導主任、そして管理職が校長室に集まり、zoomによる研修を2時間近く受けた。
 帰ってきた英語科主任や管理職は、「このテスト意味わからないよね」と言っていた。

 そして6月、3年生の生徒全員を体育館に集めて、このスピーキングテストが11月に実施されること、そのために全員が各自申し込みを行わなければならないことを伝えた。生徒に伝えただけでは、絶対無理なので学年だよりでも伝えた。

 この申し込みは一人一人マイページに登録しなければならず、スマートフオン、パソコン、タブレットを使い、自分で登録しなければならない。
 生徒には期間を決めてこの日までに家で登録するようにと伝えたが、もちろん登録できない生徒が出てくる。その生徒には放課後、教室で一人一人入力させた。
 この申し込みで大変だったのは、顔写真も入力させることである。

 今回はプレテストなので顔写真は必須ではないらしいが、2022年以降行われる予定の本テストでは顔写真は必須となる。
 スマートフォンで撮影し用意しておくようにと、生徒に配布したマニュアルには書いてあるが、すべての生徒にそれを一人でやらせるのはかなりハードルが高い
 都教委は、保護者とともにそれを行わせるようにと言っているようだが、すべての家庭でそれが可能と思っているのだろうか。

 この後の予定では、9月に受験票が配布されて11月の土曜日授業でそのテストが実施されることになる。
 スピーキングテストなので普通の教室では実施できず、他の空き教室などを活用して、15名ぐらいずつ、交代に行うことになるらしい。そのため、普通のテストのように一斉に1時間で終えることができず、そのため、3時間とることのできる、土曜日授業で実施するようにということになったのだろう。
 ということは土曜日授業を行っていない少数の区市町村はどの時間に実施するのか。どちらにしても納得がいかない。

 また、このスピーキングテストは、テストまでの機材の準備が大変だと予想できる。
 実は私の勤務するA区では、今年から区の学力テストにこのスピーキングテストが加わり、英語だけ別の日に実施したが、前日から機材の点検準備に大忙しで、もし不具合があって音が聞けなくなったりしたらと、冷や冷やした。
 もちろん時間もかかり、3クラスを9回に分けて実施したので2時間近くかかったように記憶している。
 機材はこのテストを実施した東京書籍の関係者が、1週間ぐらい前に学校に運び込み準備をしていたが、それだけではもちろん足りず、生徒の動かし方や監督教員の配置、事前の機材の点検などものすごい労力を要した。


 ◆ 現在考えられる問題点

 1つは中学校に負担がかかりすぎることである。
 東京都のホームページなどには、本テストの会場は大学等の外部施設で実施するとなっているが、東京都の全中学校3年生が、全部が全部、外部施設で受験が可能なのか、また実施や運営に関しては中学校の教員は関与しないと書いてあるが、プレテストでこれだけ中学校の教員を関与させておいて、本テストでは本当にそれが可能なのか、大いに疑問である。

 2つ目は2022年度実施する本テストの結果を、入試に活用することである。
 このテストの正式名称は(ESAT−J)といい、ベネッセの子会社により作成されている。いわゆる「民間試験の活用」である。
 都立高校の入試問題は今まで、都立高校の教員が作成してきた。テスト問題の監修は都教委が行うと書いてはあるが、もしスピーキングテストを行うのならば、入試問題と同じく都立高校関係者が作成すべきではないだろうか。なぜ、あえて民間を活用しなければならないのか、はなはだ疑問である

 3つ目は、東京都の中学3年生全員が受験することである。都立高校の人学を希望しない生徒まで、なぜ受けなければならないのか、また、試験日に受けられなかった場合、別日に受験するとなっていて、きわめて義務的なテストになっている。
 試験日も11月の第4土曜日から12月第2日曜日までの週休日や祝日となっていて、その中で体調が悪かったりして受けられなかった場合もう一度受験が可能なのか、この限られた日程では非常に疑問が残る。
 また、このテストが創設されたことによって、受験日が増え生徒の負担が増すことも問題だと考えられる。

 4つ目の問題は「入試の公平性」である。都教委はかねがね、入試の公平性という言葉を使って、私立高校も含め入試の開始日を「解禁日」のような形で決めてきた。私立高校などは、生徒を確保するため入試日を早く設定する傾向があるためである。
 しかし、2022年11月に英語の「スピーキングテスト」を実施しその点数が入試点に加味されるとなると、この「スピーキングテスト」も入試の一つとなるのではないか。つまり、入試の「前倒し」になってしまうのではないかということである。


 ◆ 「民間企業」の参入で日本の教育は発展?するのか

 最後に、これも強調しておきたい。文科省や都教委は、二言目には「民間企業の参入により」という。本当に「民間企業」が参入することにより、日本の教育は発展するのだろうか。
 今回のスピーキングテストは、都内の中学校3年生全員が必ず受けることにより、まず膨大な利益がその会社には入り、また、生徒たちの「ビッグデータ」もそこには蓄積される。
 採点もAIによると書かれているので、そのデータも打ち込まれる。
 このことにより、次に待ち受けられるのは何か。民間企業がこれまでも参入してきたのは事実である。しかし、この関与の仕方はどうなのか、しっかり考えていきたい。

『子どもと教科書全国ネット21ニュース 89号』(2021.8)



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