2022/1/18

100年前のスペイン風邪と同じ。移動し転戦する兵士たちが感染症拡大の張本人  ]平和
  《レイバーネット日本:太田昌国のコラム サザンクロス 第63回》
 ◆ 移動し、転戦する軍隊と、感染症の拡大


 新型コロナウイルスがなかなかにしぶとく、したたかな特性をもつことを知って以来、これを名指して「優秀なゲリラのような」という表現を何度か使った。この、生物ではないしても無生物ともいえない「いきもの」が、地球を〈支配〉する人間社会が持つ弱点を狙って、的確に奇襲攻撃を仕掛けてくることから、そう思ったのだった。自分も含めて世界じゅうの人間が慌てふためき、翻弄されているありのままの姿を映し出すには、畏敬すべき〈敵〉の形容としてふさわしいものと考えた。

 ウイルスにも感染症(パンデミック)にも無知だった私は、おそらく多くの人びとがそうであったように、俄か勉強をした。特に、「百年に一度の」感染症の世界的な流行という言葉に導かれて、百年前の俗称スペイン風邪については、かなり調べた。


 もっとも大きな拠り所になったのは、米国の生態学的歴史学者、アルフレッド・W・クロスビーの『史上最悪のインフルエンザ――忘れられたパンデミック』(みすず書房、2004年)と、日本の人口学学者、速水融の『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ――人類とウイルスの第一次世界戦争』(藤原書店、2006年)だった。
 そこで、百年前のスペイン風邪から学ぶべきもっとも重要なことのひとつは、「移動する軍隊」と感染症の密接な相関関係だと考え、「戦争・軍隊と感染症」という文章を書いた(『ピープルズ・プラン』第89号、2020年8月)。

 このインフルエンザが流行した百年前といえば、第一次世界大戦が終わろうとする時期に合致する。
 「ゼロ号患者」は米国カンザス州にある軍の基地で生まれたとされる。「密」状態で日常生活が行われる兵舎で集団感染が広まり、感染者も含む兵士集団がヨーロッパ戦線各地へ派兵されたことから、感染は一気に欧州全域に及んだという。
 欧州列強は19世紀末以降の「アフリカ分割」を終えたばかりで、欧州の港からのアフリカ航路も盛んで、アフリカ大陸内陸部まで感染が及ぶにも、さして時間はかからなかった。
 加えて、前年に起こったロシア社会主義革命を潰すために、米英軍などはノルウェーから北ロシアに侵攻したが、兵士たちが持ち込んだインフルエンザにロシアの民衆は苦しんだという。
 速水融の著書も、1902年に締結された日英同盟の縛りから、英国の要請で大戦に参戦した日本軍の動きをたどっているが、ここでも、移動し、転戦する兵士たちと感染症の流行との因果関係を読み取ることができる。

 さる1月9日、政府は、コロナウイルスの新たな流行の規模が顕著な沖縄、広島、山口の3県に、特別措置法に基づく「まん延防止等重点措置」を適用した。沖縄県の玉城知事は昨年末の12月23日、首相宛てに要請書を提出していた。
 (1)感染収束まで軍人・軍属の米本土等からの沖縄県への移動停止、
 (2)軍人・軍属の基地外への外出禁止の2点を、米国側に求める内容だった。
 今回の沖縄での感染拡大のきっかけは、12月中旬、米海兵隊基地・キャンプ・ハンセンでの集団感染であり、その後の事態の推移を見た玉城知事は一週間後にはこの要請を政府に行なったことになる。

 沖縄駐留の海兵隊員は、毎年半年ごとに大規模な部隊交代が行われており、多くの場合、それは6月と12月に実施される。その数は平均5500人前後で、在沖縄海兵隊員の3分の1に相当する。
 しかも「合衆国軍隊の構成員は旅券及び査証に関する日本国の法令の適用から除外される」と規定しているのが日米地位協定第9条だから、彼らに対して日本は検疫権すら持っていない。

 新型コロナウイルスの流行が始まった年=2020年の7月にも、同じような事態が起こっていた。横須賀、厚木、キャンプ座間、京丹後、岩国、沖縄などの米軍関連施設での感染者の発生である。
 軍事機密を理由に、正確な報告がなされるわけでもない。米海兵隊は、他基地部隊との共同訓練、陸上自衛隊との合同演習、二国間・多国間演習などの名目で、日本国内だけではなく、広くアジア太平洋海域に移動し、軍事作戦を展開している。
 仮にコロナ対策という限定的な視点から見ても、「移動し、転戦する軍隊」が持つ問題性は限りなく大きいと言わなければならない。

『レイバーネット日本』(2022年1月11日)
http://www.labornetjp.org/news/2022/0110ota


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