2022/5/4

維新が進める大阪の教育改革がもたらしたもの  ]Vこども危機
  =維新ってなんやねん(週刊金曜日)=
 ◆ 子どもたちを生き辛くさせる教育改革の中身
   〜「行政が差別をシステム化しているんです」

永尾俊彦(ながおとしひこ・ルポライター)

 大阪府と大阪市が一体となり、行なわれてきた教育改革。しかし教育とは名ばかりで、条例で教員を縛り、テストの点を上げることに躍起になってきた。その結果、何が起きているのか。

 ◆ 始まりは「教育非常事態」宣言と「ダメ教員排除」

 「クソ教育委員会!」
 2008年9月、同年2月に大阪府知事に就任した橋下徹氏は、ラジオ番組で大阪府教育委員会(府教委)を罵倒した。
 府の全国学力・学習状況調査(全国学テ)の成績が2年連続で全国最低レベルだったのは、市町村別の結果が公表されないので各市町村の教委が対策をとらないからだと断じ、結果を公表しようとしたら府教委に「過度な競争になる」と反対されたからだ。


 その後、知事は一部を除き市町村別の結果を公表する。それ以前にも記者会見で「教育非常事態」を宣言し、そこで強調したのが「ダメ教員を排除する」方針だ。
 以降、学力とはテストの点数という狭い学力観と教員への不信感が、大阪の教育改革を貫く基調になる。


 ◆ 現場縛る条例が次々

 11年6月、知事は府立学校などの教職員に行事の際、「君が代」の起立斉唱を義務付ける国旗国歌条例を成立させた。憲法の思想・良心の自由に抵触するとの批判が今も続く。
 翌12年3月には、同じ職務命令に3回違反すると免職だと規定する職員基本条例も成立させた(成立時は松井一郎知事)。
 大阪府では12年から19年まで免職や停職はないが、のべ67人の教職員が不起立などで戒告、減給の懲戒処分を受けた(注1)。
 府教委は20年以降、不起立者はいないのに、コロナ禍であってもCDに録音された「君が代」を起立して聴く(清聴)などの職務命令を出し続ける。

 不起立で2回の戒告処分を受けた府立高校元教員の増田俊道さん(60歳)はこう話す。
 「校長と教職員がもっとも対立していたのが『日の丸・君が代』問題だったので、そこを黙らせれば流れが変わると(橋下)知事は思ったんでしょう。『日の丸・君が代』が切り札だったんです
 以後、上意下達で教育現場を縛る条例が次々に制定される。
 なかでも12年3月成立の教育行政基本条例は「知事は、(教育)委員会と協議して、(教育振興)基本計画の案を作成する」(カッコ内は筆者)と規定、政治家が教育に関われるようにした
 戦前、政治が教育に介入した反省から生まれた教育基本法が禁じる「不当な支配」だと、これについても教職員、識者らが批判、文部科学省も「違法の疑い」を指摘している。
 大阪の教育改革の特徴の一つは「違法の疑い」がある条例を制定する「法の下剋上」だ。これを橋下氏ら大阪維新の歴代首長は「ルール化」と呼んでいる。


 ◆ 「自主的」に動く教員

 12年5月、市長に転じた橋下氏の下で大阪市も府と同様の教育行政基本条例を制定する。同年7月には市立学校活性化条例も制定、校長は市長が関与する市の教育振興基本計画などを踏まえて学校の「運営に関する計画」を策定することになり、上意下達体制がつくられた。

 そして、子どもたちを競争に駆り立てる施策が次々導入される。
 全国学テの学校別正答率公表(13年)、大阪市統一テスト導入(16年、現在は廃止)、大阪市立中学校の進学実績公表(16年)、大阪市小学校学力経年調査(テスト)実施(17年)、大阪府新学力テスト「すくすくウォッチ」(小5、6年)実施(21年)。

 大阪市立小学校教員、伊賀正浩さん(55歳)によれば、「経年テスト」の前には市教委から過去問が送付され、実際にやったかどうかもチェックされる。
 過去問をやれば点数はあがる。「しかし、それが学力と言えるのか。知識も大事だが、疑問を持って自分で考え、調べる力こそが本当の学力ではないでしょうか」と伊賀さんは考える。
 経年テストは国語、算数、理科、社会、英語を各45分間、2日間かけて行なう。小学5年生、6年生ではそんなに集中できるわけがない。テストが終わるとストレスを発散するため、運動場で叫ぶ子がいるそうだ。
 このテストを3年生から課している(小3、4年は4教科)。

 各学校は「運営に関する計画」で、数値目標を設定しなければならない。
 ある小学校の場合はこうだ。「学力経年調査における正答率が市平均の7割に満たない児童の割合を、同一母集団で比較し、いずれの学年も前年度より3ポイント減少させる」
 現場の教員のなかには、「数値と競争による教育はおかしい」と考える人も少なくない。だがテストの点を目標にさせられ、それが給与に一定影響するので嫌でも動かざるをえない。
 「数値による目標管理システムによって、空恐ろしいことに、上からの指示や命令がなくても教員は『自主的』に競争と分断の教育を進めさせられるんです」と伊賀さんは言った。


 ◆ モノサシ一本で……

 かつて大阪の教育は「競争」ではなく、「包摂」(ぬくもり)をめざしていた。ある市立小学校の50代の教員はこう話す。
 「大阪の教育は、同和教育推進校(注2)を中心とした学校が地域のコミュニティの拠点となり、地域と学校が協力して地域社会の中で子どもを育てていました」

 知事時代の橋下氏は、同和教育の経験をこう語っている(第2回「大阪の教育を考える府民討論会」08年11月24日)。「僕はいわゆる同推校(同和教育推進校)で育った。そこではまず競争の否定から入る。(略)高校は地元集中受験運動、『地元の高校に行け』と方針が出た。『僕は北野高校に進学したい』と言ったら、『なぜおまえは地元の高校に行かないのか(略)』とその理由を言わされた。世の中が本当に競争のない社会であればそれでもいい。しかし現実は違う」(大阪府ホームページ)
 ここに教員への不信感と競争を重視する橋下氏の原点があるようだ。

 だが、ある市立高校の教員はこう批判する。「大阪の教育改革を主導している首長らは競争を勝ち抜いた『勝ち組』。でも教員からしたら世の中そんな人ばかりちゃう。割り算と引き算の違いがわからない生徒もいる。なぜか聞くと、『どっちも減るやんけ』。競争がうまくいく分野があれば、いかん分野も山ほどある。それを一本のモノサシではかるからおかしくなる」
 この点について橋下氏はどう考えるのか。取材を申し込んだが、受けてもらえなかった。


 ◆ 評価は誰の権限?

 大阪府の中学3年生を対象に16年から始まったチャレンジテストは「団体戦」と言われる。各中学校のテストの平均点と府全体の平均点を比較するなどの複雑な計算式により、中学校ごとに内申点の平均範囲が府教委に決められるからだ。
 平均点が高かった学校は5の「バブル」状態が起こり、低かった学校では5は限られる(本誌忽年10月1日号で報告)。
 自由法曹団大阪支部は「成績評価権は学校教育法では教員の権限で、教委の権限ではない」と指摘している。府教委はどう考えているのか担当者に聞いた。以下、担当者とのやりとり
 「評価するのは各中学校で、府教委は評価に偏りがなかったか見直す資料を提供しています」

−その資料は府教委が決め、その枠内でしか教員が評価できないのは評価権の侵害では?
 「府立高校入試の評価なので、モノサシは府教委が決めます」

−それは教員のモノサシを侵害していませんか?
「……」
 昨年3月、児童の3分の2が朝鮮半島にルーツを持つ大阪市立御幸森(みゆきもり)小学校(生野区)が閉校した。同小は多文化共生の授業を実践、平和や国際的な連携を実践するユネスコスクールにも認定されたが、生徒数が80人ほどに減っていた。
 大阪市は小規模校の統廃合を進めている。
 しかし、同じ市内でもタワーマンションが林立し、児童数が1000人を超える小学校もある。この違いはなぜか。同小の元教員、足立須香(あだちすが)さん(63歳)は「大阪に昔からある(被差別部落とよばれた)地域などに対する根強い差別や偏見の問題があると思います」と言う。


 ◆ 格差広げる選択制

 大阪市教委は部落差別問題解消のため、「越境入学は許さない」方針だった。だが維新市政になり、14年から学校選択制が導入された。
 「これは地域格差を広げる制度。その上、チャレンジテストなどの共通テストがさらに格差を広げました」と足立さんは話す。
 チャレンジテストを団体戦にしたことで、学校によって高校受験が損か得かが明白になった。
 文教地区の中学校はテストの点数が高く有利。生活が「しんどい」世帯が多い地区の中学.校は低く不利。同市教委は各中学校のホームページに点数を公表させている。
 子育て世代が生野区に来ないのは、これも理由だと足立さんは見る。
 「行政が差別をシステム化しているんです」


 ◆ 「行政が差別をシステム化しているんです」

 これに市教委はどう答えるのか聞くと、「序列化につながらないよう点数だけでなく、成果や課題を合わせて公表している」と釈明。
 「公教育がテストだけで判断するのはまずいのでは」とさらに問うと、「そういう声も寄せられている」と認めた。

 「教育非常事態」宣言から10年余の改革で、大阪府・市の全国学テの結果は、全国平均と差が縮まりつつある。
 他方、大阪市の中学生の不登校率は10年度は約4・1%(約2000人)だったが、20年度は約6・5%(約3300人)と約65%も増加した。「子どもたちを生き辛くさせているもの」は何か。
 市立小学校の久保敬(くぼたかし)校長(当時)が政治家の責任を問うた、松井市長への直言が、昨年大きな反響を呼んだ。

 (注1)「『日の丸・君が代』強制反対・不起立処分を撤回させる大阪ネットワーク」による。
 (注2)文部科学省が校区に同和地区がある公立の小・中学校を指定、人権教育
などを行なう。

 ※ ながおとしひこ・ルポライター。近刊に『ルポ大阪の教育改革とは何だったのか』(岩波ブックレット)など著書多数。


『週刊金曜日 1375号』(2022/5/6合併号)



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