2022/5/20

「夫・細切れ雇用セーフティネット」「妻付き男性モデル」の限界  ]U格差社会
  《「子どもと教科書全国ネット21ニュース」から》
 ◆ コロナ禍の女性と働き方改革
   〜女性非正規への影響大

竹信三恵子(たけのぶみえこ ジャーナリスト)

 ◆ 女性非正規はなぜ直撃されたか

 新型コロナの感染拡大が顕在化した2020年3月の労働力調査では、性別・雇用形態別の雇用者数は、女性・非正規だけが対前年同期比で29万人のマイナスとなった
 その動きは第一次緊急事態宣言が発令された同年4月以降、男性にも及び、7月には男性非正規が50万人、非正規女性は81万人もの就業者の減少を記録する。
 女性非正規への影響度が大きかったのは、対面のケア的サービスが得意とされる女性が、コロナに直撃された業界に多く配置されていたことだ。
 たとえば飲食・宿泊業などでは6割近くが女性で、それらの多くが契約を打ち切りやすいパートやアルバイトなどの非正規だったことが事態を悪化させた。


 日本では、会社の都合で休業させられた社員に対し、雇用保険を原資とする雇用調整助成金から企業の申請によって休業手当が支給される。
 ところが、雇用保険の加入条件は、週の所定労働時間が20時間以上で、継続して31日以上雇用される見込みのある者で、20時間未満が多いパートやアルバイトは加入できていなかった。

 労働相談では、20時間以上働いていた非正規についても「非正規には資格はない」という思い込みや、夫がいるから困らないといった差別的意識などから、雇用主が手続きしてくれないという相談が非正規女性を中心に多数寄せられた。
 正社員には100%の休業保障がされ、非正規には無給か法定ぎりぎりの60%の支給しかない。
 派遣先が休業手当を保障しても派遣元が出さないなど、非正規社員差別の実態も指摘された。

 批判を受けて、政府は緊急に予算をとり、パートやアルバイトなど雇用保険の対象外の労働者が会社を通さず自力で申請できる「新型コロナウイルス感染対応休業支援金・給付金」を設けた。
 しかし、一度手当を出してしまうとコロナ後もそれが慣例化して人件費が上がるのではないかという不安から、会社が手続きに非協力的な例も目立った。


 ◆ 「半雇用」の蔓延と見えない失業

 こうした非正規への支えの弱さは、コロナ以前から蔓延していた。「シフト勤務」などの「半雇用」の存在によって促進された。
 こうした働き方が広がったのは、日本の正社員の長時間労働では家事・育児ができない女性たちがこうした働き方に向かわざるをえなかったこと、さらに、企業側が社会保険料の負担をさせられるため加入条件の「20時間以上」をみたさないよう契約を短時間化させてきたことだ。
 非正規の間に、生活を支えるためのダブルワーク、トリプルワークを行う多就業化が強まり、これが休業手当の申請の際の責任の所在をあいまいにし、休業手当なしの非正規を増やす一因になった。
 こうした「半雇用」の広がりは、女性の失業率を低めに抑える事態を招き、女性労働者への支援の受けにくさを生み出した。

 先にも述べた「休業支援金・給付金」についても、野村総研の調査では、6割近くが「シフト減らしても支給されることを知らなかった」と回答している。
 「半雇用」で、労組などに加入しにくい、身近な申請支援をうけられないことなどから女性の多くが公的支援から排除されていることも浮かんだ。


 ◆ 「細切れ雇用セーフティネット」

 雇用は、労働力としての再生産を維持できる水準を満たすことが前提とされてきた。
 にもかかわらず、これほどの脆弱雇用が拡大した背景には1985年に制定された男女雇用機会均等法の設計があった。
 均等法は性を理由にした雇用差別を禁止したが、抱き合わせに労働基準法の女性保護撤廃と労働者派遣法の制定が行われた。

 欧州の雇用平等法のような男女共通の労働時間規制は導入されず、妻の家庭内無償労働を前提にした男性の長時間労働(「妻付き男性モデル」)が公式の標準となった。
 この標準に合わせられる女性のみが、「総合職」として男性と同等に処遇され子育てなどを担わされた女性は昇進のない「一般職」か「パート」や派遣労働などの非正規労働に移っていった。
 その極端な低待遇は、夫の経済力に依存すれば解決するという「夫セーフティネット」論によって見過ごされた。
 こうして、「半雇用」的な働き方が女性中心に広がり、働く女性の過半数が非正規、非正規の7割近くを女性が占める労働市場が生まれた。

 女性非正規でも配偶者のいる女性は6割弱にとどまり、男性の非正規比率も2割程度に増え、こうした中で、家族が総出で働く多就業型家庭が目立っている。
 このような、公的セーフティネットがない多数の働き手は、日雇い派遣に代表される不安定就労で雇用の中断を支える「細切れ雇用によるセーフティネット」に支えられている。

 公的セーフティネットがない雇用の増加によって、窮迫的労働販売が強いられていること、家計に占める女性の収入の割合が正規で4割、非正規でも2割となり、女性収入減少家庭の2割が食費を切り詰め休業が難しいこと、女性非正規はケア的・対面的な仕事が多く、在宅ワークできない例が多い。

 こうした構造の被害を集中的に受けたのがシングルマザーだ。
 「夫セーフティネット」がないうえに、子育てが壁になって非正規比率は4割を超え、8割以上が就労しているのに貧困率は5割近く、2020年「国民生活基礎調査」では、回答者の70.8%が雇用や収入にコロナの影響があったと回答し、平均貯蓄額は2月〜7月にかけて約4万円減り、借金を抱える世帯が増え、家賃や水道光熱費の滞納世帯が1割あった。
 心理的ストレスを抱える母親は6割にものぼった。シングルマザーへの食料支援に対し、「1日2食にしていたが、また3食にできる」「雑炊から普通のご飯にできる」といった文明国とは思えない声が寄せられている。


 ◆ 「妻付き男性モデル」によるコロナ対策

 もう一つ見過ごせないのは、実態に合わない「妻付男性モデル」をもとに打ち出されたコロナ対策が、働く女性の被害を逆に広げた点だ。
 そのわかりやすい例が「一斉休校要請」と「在宅ワーク7割要請」だ。
 2020年2月27日、当時の安倍首相は、3月からの一斉休校を突然要請した。子どもが家にいて働けないという訴えが母親たちから相次ぎ、急きょ「小学校休業等対応助成金制度」が発表された。
 一方、フリーランスの女性たちは、「自営業」であることを理由に休業補償も失業手当も受けられない事態に追い込まれ、フリーランスの労組やネットワークの働きかけでようやく、雇用者の半額の休業補償が出されることになった。

 自治体でも、コロナ禍での住民の相談支援などを担っている公務員の多くは非正規で、その4分の3が女性だ。こうした公務エッセンシャルワーカーの多くが感染不安を抱き、それらの女性によるネットワークの調査では、そうした不安定さも手伝い精神の不調を訴える声は半数近くにも及ぶ。


 ◆ 企業ファーストに終わった「働き方改革」

 「働き方改革関連法」の柱は、残業の規制「同一労働同一賃金」とされた。
 ここでは、企業での労使協定があれば過労死の認定基準すれすれの残業時間が容認されることが、法律に書き込まれた。

 従来の青天井の残業に歯止めがかかったことを、女性の働きやすさに生かそうとの提案もある。
 ただ、どの企業にも適用される「1日8時間労働」のほかに合法化された過労死基準すれすれの残業時間が登場したことで、女性の働きやすさは素通りされた
 コロナ禍で、シングルマザーやDV被害女性に対する対策がかろうじて講じられたのは、これらの女性たちを日常的に支え政府への働きかけを続けてきた集団があったからだ。
 一線の働く女性はそうしたパイプを十分整備できず、コロナ対策や「働き方改革」の決定過程でその声を届けられなかった。

 だがコロナ禍は、「夫・細切れ雇用セーフティネット」「妻付き男性モデル」の限界に光を当て、非正規への給付金・支援金が急ぎ繰り出される事態を生んだ。
 これを女性たちのネットワークによって、これを女性にも使い勝手がいい、すべての働き手のための恒常的な公的セーフティネットへと発展させることも可能だ。

 憲法9条の意味は、戦争のための軍事費にお金を使わせないというということだ。
 これを空洞化させてきたことが、コロナ以前の働き方の劣化と女性の無償労働への依存を招き、コロナ下での情勢の貧困を拡大させたのである。
 今こそ、国威発揚や戦費のための出費に歯止めをかけ、国民が稼ぎ出した利益を国民の生活のために生かし、安心して暮らせる仕組みづくりをしていこうではないか。

 ※3月13日(日)総会での記念講演内容をニュース編集部がまとめました。

『子どもと教科書全国ネット21ニュース 143号』(2022.4)


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