2012/6/28

ほんとうの罪状は、卒業生の『君が代不起立』  W板橋高校卒業式
 【書評】『藤田勝久の板橋高校卒業式事件顛末記』
      新社会文化出版会刊 FAX03(3553)0099
 ◎ 裁判所が見抜けなかったこと
若杉 倫(元都立高校教員)

 藤田裁判の記録集が出た。記録集としては異色で、資料は必要最小限で本人による「顛末記」が全体の半分を占める「読み物」になっている。
 巻頭を鎌田慧氏の格調高いメッセージが飾る(藤田氏とは早大文の同窓)。次に加藤文也弁護団長による法律的視点からの鋭い分析。そして藤田氏による『顛末記』が続く。
 これは自分で無罪を立証して見せた書とも言える。裁判が終わったからもう良いだろうとばかりに、筆者しか知りえないことが随所にちりばめられている。裁判所が見抜けなかった、都教委や検察の企てを裏の裏まで解明して見せる洞察力の見事さに引き込まれていく。例えば「何で俺が出るんだオイ」という起訴状にある言葉がICレコーダにはない怪(p82、p192)。また都教委の議事録の誤りを訂正させた伝統文化の話(天照大神の乳房と陰部)には驚かされる。(p104)。


 「威力業務妨害罪」とはこじつけに過ぎない。藤田氏のほんとうの罪状は「まさか都教委は『君が代不起立』が『被害』とは書くわけにいかず」(p63)に尽きる。都教委は口を噤むが、9割の卒業生が一斉に着席した理由は、「思想信条のある者以外は立ちなさい」と叫んだ教頭が処分されたことに露呈している。藤田氏は生徒の着席を「決起」と称し、都教委を蛍に向かって灯火管制と怒鳴った戦前の官憲になぞらえた。
 ただし藤田氏がやりたかったのは、こういう裁判ではなかったようだ。顛末記は、地裁判決の後いきなり『終章』を迎える。「法廷闘争は、最初の瞬間に消滅した」(p92)そして「公判当初から裁判の進行に興味が失せてしまった」と述懐している。藤田氏は生徒の側に立ってたった一人でもデタラメな都教委を正面から告発したかったのだ。教育の実質で、生徒から圧倒的に信頼された藤田氏は、勝利していた。教育で負けた都教委が検察の力を借りて逆襲したようなものだ。
 「藤田裁判記録集」は、宇都宮健児日弁連会長による最高裁判決批判の声明で結ばれる。

『週刊新社会』(2012/6/26)


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