2013/1/3

教育委員会が現場の教科書選択を踏みにじるという戦後初めての重大な問題  ]Vこども危機
  『子どもと教科書全国ネット21ニュース』87号から
 ◆ 都教委による教科書採択に対する介入
鈴木敏夫(子どもと教科書全国ネット21常任運営委員)

 ◆ 都教委の校長への圧力
 来年度からの新教育課程「日本史A」の教科書について、都教委が特定の教科書を選ばないように、繰り返し校長に圧力をかけていたことが、当該校の証言等で明らかになった。
 @産経新聞のキャンペーン
 3月末の検定結果発表から、産経新聞が「不当な(教科書)検定」とのキャンペーンを張った。実教出版『高校日本史A』(「新版」とする)については、「国旗・国歌」について、「(政府は)国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。」とのこれまでの記述に加え「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」と「側注」に書いたことや「つくる会」教科書の採択に関する記述がやり玉に挙がっていた。


 A高校指導課長の「記事紹介」
 都教委・高等学校教育指導課長(高指課長)は、4月27日の校長協会幹事会で、検定合格した実教「新版」の内容を批判した「おかしな教科書検定」(4/13産経新聞のコラム)を紹介し、「今年は採択の年で関心も高いので、新聞記事に留意して、選んだ理由をきちんと説明できるようにしてほしい」などとのべた。他の新聞記事、他教科の教科書については一切「紹介」していない。

 B引き続く「説明」や「情報提供」
 さらに「(来年度の)第一学年に『日本史A』を設置する学校に対して」、実教出版「新版」で追加された「側注」の記述を指摘し、この記述は「東京都教育委員会の考え方とは相容れない」と関係する都立高校17校すべての校長に「説明」したことを出版労連の「公開質問状」に回答している。
 また高指課長は、その「説明」を何度も行った学校があることをマスコミの取材などに認めているが、こうしたことは「情報提供で、選定を誘導したものではない」と高指課長は開き直っている
 特別支援の都立学校でも、校長が日本史の教員に、日本史教科書について「問い合わせ」してきた例があり、高等学校教育指導課だけでなく、義務教育特別支援教育指導課も含めた都教委ぐるみの動きである。
 9月11日の緊急集会で証言した学校では、4回都教委から電話があり、最終的に断念させられた。(「ニュース」前号参照)。
http://wind.ap.teacup.com/people/6993.html
 C実教「新版」は一校も「選定せず」、従って「採択」されなかった
 来年度は17校が、1年生に日本史Aを置いていたが、昨年6校あった実教の「高校日本史A」は「新版」では現場からの希望がなく、採択ゼロになった。
 因みに、2年生以上の日本史Aでは実教「高校日本史A」(旧版)は二番目の採択数(29/135校、一番多かったのは「第一学習社」の34校)であった。
 不自然な採択結果であることは明らかである。こうして教育委員会が現場の教科書選択を踏みにじるという戦後初めての重大な問題がおこった。

 ◆ 何が問題か、その背景にあるもの
 @自ら決めた制度をも踏みにじる
 2002年から、現場から採択権が奪われ、教科書を各学校が「選定」し、都教委が最終的に採択することになった。しかし、これまで現場の選定が覆されたことはなかった。
 今回の「説明」なるものは、今日の都教委と校長との力関係から見て、陰湿な脅かしである。また何度も電話をしたのは、断念しない学校に繰り返し「圧力」をかけたことに他ならない。
 これは、自ら決めた制度で「(教科書選定は)調査研究結果及び生徒の実態を踏まえて」(下線部は筆者による)としたことを踏みにじる都教委の暴挙であり、行政による学校の教育課程に対する乱暴な介入である。

 A「日の丸・君が代」強制に対する最高裁判決を一顧だにしていない
 文科省の検定すらパスした教科書を、いわば「都教委検定」にかけて撥ねていくことが許されないのは勿論、天下承知の事実である「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」ことを問題にしたことである。
 最高裁判決などで、懲戒処分を振りかざした「日の丸・君が代」の強制について、さまざまな危惧がだされたことなどどこ吹く風である。懲りない都教委の姿勢である。

 Bこれは単に都教委が「自主的」に動いただけではない?
 高指課の指導主事は校長への電話で「教育委員会が採択しない可能性」に言及している。これはマスコミのキャンペーンはもとより、どこかからの「働きかけ」を示唆しているのではないか。
 都教委作成「準教科書・教材」『江戸から東京へ』が、都議などの働きかけでさらに「改悪」されたことをみると考えられることである。また「日の丸・君が代」問題をきっかけにその他の記述を含めたこの教科書を「葬り去る」ことを企図しているのかも知れない。

 C教科書採択権は、本来現場にある
 高校の教科書の採択権について明確に法令上の定めはないとされているが、教育委員会は「教科書その他の取扱に関する」「事務」を「管理」「執行する」との「地教行法23条6号」を根拠に教科書の採択権があるとしてきた。

 しかし、「一般に教育関係法令の解釈及び運用については、法律自体に別段の規定がない限り、できるだけ教育基本法の規定及び同法の趣旨、目的に沿うように考慮が払われなければならないというべきである。」(最高裁判所大法廷の学力テスト裁判判決1976年5月21日)という判例がある。

 また、『学校教育法解説(初等中等教育編)』(第一法規、1968年)では、文部省幹部が「同条[地教行法23条のこと]については『学校管理機関』たる教育委員会の職務権限事項を列挙したに過ぎず、職務権限の行使のしかた、あるいはその権限を定めたものではない。その証拠には、すべて『OOに関すること』という表現になっている」「同条文中に『教科書その他の取り扱いに関すること』という規程があるだけで、教育委員会が教材の取り扱いに関するいっさいの権限を有すると解するごときは、お粗末な解釈というべきである」と記述されている。

 本来教科書採択は、各学校の教育課程編成および教員の教育内容編成に深くかかわる教育専門的事項であり、日常的に生徒の学力などの実態を把握している教育現場の意向が最大限尊重されるべきものである。

 日本政府も賛成して採択されたILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」(1966年)でも「教員は生徒に最も適した教材および方法を判断するため格別の資格を与えられたものであるから、…教材の選択と採用、教科書の選択、教育方法の採用などについて主要な役割を与えられるべきである」(第61項)と述べられ、国際的にも認知されている。
 このことを都教委は留意すべきである。

 ◆ 教科書採択の自由を守る
 今回のようなことを許せば
 @「考え方とは相容れない」教科書を都教委が採択させないなら、日本史教科書にとどまらず、他の教科書にも波及する恐れがある。また学校現場が萎縮し、校長などによる「自主規制」が広がることも懸念される。
 Aさらに「東京」から「全国」の教員委員会に広がること。ますます教育内容・教育課程に対する行政による介入の呼び水になりかねないことが危惧される。
 B中学歴史教科書で起きたように、現場で支持されていた教科書が採択されず、他の教科書でも「慰安婦」問題を取り上げなくなったことと同じことがおきることが心配である。
 C東京の場合は「日の丸・君が代」問題でもある。関係団体が声をあげ都教委などに抗議していくことが求められる。i(すずきとしお)

「子どもと教科書全国ネット21ニュース」87号(2012.12)


※投稿されたコメントは管理人の承認後反映されます。

コメントを書く

名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ