2013/1/13
日本の右傾化を進める「合法的クーデタ」石原尖閣購入発言 ]平和
《尾形修一の教員免許更新制反対日記》から
● 豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』
読んだまま書いてない本がたまってるので、少し本の話を。去年読んだ社会的な本としては、豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』(岩波現代文庫、2012.11、1020円)は屈指の問題作ではないか。非常にスリリングな本で、知的刺激を受けること抜群の本で、純粋に「読んで面白い」本だと思う。もっとも尖閣問題に関心がある人はもう読んでしまったかもしれないし、こういう本に関心がない人は紹介しても読まないのかもしれない。それでも非常に重大な論点がある本だから、紹介する意味は大きいと思う。
豊下さんの基本的な論点は、東京新聞の2012年5月20日に掲載された小論で指摘されている。僕はそのときに読んで、そうなのかと思ったけど、ブログには書かなかった。僕にしても、野田内閣による「尖閣国有化」があれほど尖鋭な対立関係を引き起こすとは、考えていなかったのである。
多くの日本国民がそうだったと思うが、不明を感じざるを得ない。その時点で、このような対立を予測していたのは丹羽中国大使であるが、日本国内では深刻な「バッシング」に見舞われた。事実上の「更迭」になっていくわけである。
一方、逆の観点ではあるが、石原慎太郎都知事(当時)本人もまた、このような対立を予測していたということが、今この本で冷静に振り返ると見えてくる。僕は当時、石原都知事が都の税金を使って買い取ったり調査するということに対して許せない思いがあり、そのことは「「原野商法」をすすめる石原都知事は「背任」」という記事に書いている。僕は都民であり「石原教育行政」に腹立たしい思いもしてきたから、まず「都民レベル」で反応してしまったのである。
さて、この本を読むと、まず「極めて重大な問題」が隠されていることに気づくことになる。「尖閣諸島」という言葉そのものは、今や知らない国民はいないだろう。でも細かいことは知らない国民が多いのではないか。
どこら辺の位置にあるか、中国本土、台湾、石垣島、沖縄本島、宮古島などしか書いてない地図を見せて、尖閣諸島のあるところに印をせよというクイズをやったらどうだろう。日本でも中国でも間違う人が続出するのではないか。
では、次に「尖閣諸島は5つの島からなるが、その名前を全部答えよ」という問題はどうだろう。答えられる人でも、「魚釣島」だけではないか。答えを面積順に示すと、魚釣島(3.82ku)、久場島(0.91ku)、南小島(0.40ku)、北小島(0.31ku)、大正島(0.06ku)である。さらに沖の北岩、沖の南岩、飛瀬という岩礁がある。沖の北岩は0.05kuで、大正島とそれほど変わらないが、大正島は日本では島扱いする。中国では「赤尾嶼」で、久場島も「黄尾嶼」だから、ともに岩礁扱いなのかもしれない。
さて、この中には、「前から国有化されていた島」「野田内閣により国有化された島」「今でも国有化されていない島」の3つの区分がある。と言えば、エエっと驚く人が多いと思う。
えっ、全部去年国有化されたんじゃないの??? それが違うのである。
元から国有なのは「大正島」、今でも私有なのか「久場島」である。
残りの3島が去年国有化されたわけだが、久場島は今でも他の3島の所有者だった埼玉県の一族の親戚が所有しているという話である。
そして、大正島と久場島は米軍の射爆撃場として設定されているが、米軍は1976年以来30年以上にわたって使用していないということになっている。何にせよ、この2島は米軍管理下にあり、日本政府の管理下にない。他の3島も政府の措置により自由にはいけないようになっているが、それでも日本を初め、中国、香港などの尖閣活動家が上陸したことがある。しかし、米軍管理下の2島には誰も行ってないのではないか。
この事実は、今までの尖閣に関する考え方を一変させてしまうはずである。
今までも国有化されていた島があるのに、他の3島の国有化のみ問題視するのも中国の過剰反応ではないか、とか。
あるいは、日本の右翼勢力はなぜアメリカに使ってない2島を日本に返還せよと言わないのか、というのもある。
また、米国は「2国間の領土問題では中立の立場に立つ」などと言うのだが、これはインド、パキスタンの紛争などとは違う。明確に米軍が今も管理している島が、実は中国領土であるという中国の主張の方が正しいなどという、そんなバカなことがあるわけがないではないか。そうだったら借りてるアメリカ軍こそ問題だし、日本領だと思うから日本に借用料を払っている。米国の納税者に説明ができない。アメリカの立場の裏にあるものは何なのか。実は石原氏は一度、久場島も都で買うと表明した経緯がある。が、いつの間にかその話は消えてしまい、所有者の意向も聞こえてこない。やはり米軍管理下にあるということが、「久場島を消してしまっている」のではないか。
領土問題の戦略的解決に向けた提言、日本外交の今後の道なども後半部分で論じられている。ほとんど賛成だが、それは直接読んでもらうとして、最後に石原氏のねらいについて。どうも日本では、石原都知事はああいう人だからと思われてしまうことが多い。つまり「暴走老人」だから発言が暴走するのも仕方ない、本気じゃないだろうし、問題提起には意味がないわけじゃないとかなんとか。
しかしこの本で石原発言を追ってみると、石原氏は明確に「中国と問題を起こす」ことが目的とされていたことが判る。「シナの嫌がるようなことをする」なんて言うから、またいつもの「嫌中発言」かと過小評価してしまう。でも「尖閣を守る」が目的ではなく、都が火をつけて国を巻き込み、日中関係を悪化させ、中国軍の出動を促し、日本でも海上保安庁ではなく自衛隊が対応せざるを得ないように持っていく。
それをきっかけに武力衝突を起こし、自衛隊の国防軍化、核武装への道を切り開くをいう「大陰謀」のきっかけが、「尖閣購入発言」だったのである。
それはまさに民主党政権の外交に対する不信任で、民主党政権打倒運動でもあり、日本の右傾化を進める「合法的クーデタ」だったと言ってもいい。「平成の満州事変」と呼ばれてもおかしくない事態が、ことの本質だったのだと思う。
もちろん実際の政治過程は偶然性も大きい。今自民党総裁選当時の新聞を見返してみればすぐ判るが、「石原、石破両氏を軸に」などという報道がなされていた。石原伸晃氏が自民党総裁になっていた場合、石原都知事は辞職せず、息子の支援に徹していた可能性もある。橋下徹大阪市長をめぐって、石原慎太郎氏と組むか、(総裁選で敗れていた)安倍氏と組むかという路線問題も起こったと思われ、どうなっていたかは読めない。
ただし、どういう経緯をたどっていたとしても、遠からず実施されていたはずの総選挙で、石原慎太郎、安倍晋三、橋下徹などの各氏を中心に、日本政治がぐっと右傾化していたのは間違いない。現にそうなってしまった右派の天下こそ、石原氏の尖閣発言がねらって実現したものなのである。
豊下楢彦氏は関西学院大学法学部教授だが、関西学院大教授としての最後の仕事だと後書きに書いてある。
岩波新書の「安保条約の成立−吉田外交と天皇外交」を読んで僕はビックリして見解に賛成した。次の岩波新書「集団的自衛権とは何か」も非常にクリアーで頭の中の霧が晴れるような名著だった。もういらない本かと思っていたら、まさかの安倍政権復活で読書価値も復活してしまった。まだ読んでない人は是非読んでおいた方がいい。
岩波現代文庫では、「昭和天皇・マッカーサー会見」があり、現代史に関心がある人には必読の本。今回の本は今までの本にも増して、同時代史としての意味が大きく、普段あまり社会問題、現代史なんかの硬い本を読まない人も、事実関係の共通認識のために読んでおいた方がいい。論点に賛同するかどうかは、また別の問題としても。
『尾形修一の教員免許更新制反対日記』(2013年01月07日)
http://blog.goo.ne.jp/kurukuru2180/e/0f212ecc0dc48efb0b1e66d0e28b98ee
● 豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』
読んだまま書いてない本がたまってるので、少し本の話を。去年読んだ社会的な本としては、豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』(岩波現代文庫、2012.11、1020円)は屈指の問題作ではないか。非常にスリリングな本で、知的刺激を受けること抜群の本で、純粋に「読んで面白い」本だと思う。もっとも尖閣問題に関心がある人はもう読んでしまったかもしれないし、こういう本に関心がない人は紹介しても読まないのかもしれない。それでも非常に重大な論点がある本だから、紹介する意味は大きいと思う。
豊下さんの基本的な論点は、東京新聞の2012年5月20日に掲載された小論で指摘されている。僕はそのときに読んで、そうなのかと思ったけど、ブログには書かなかった。僕にしても、野田内閣による「尖閣国有化」があれほど尖鋭な対立関係を引き起こすとは、考えていなかったのである。
多くの日本国民がそうだったと思うが、不明を感じざるを得ない。その時点で、このような対立を予測していたのは丹羽中国大使であるが、日本国内では深刻な「バッシング」に見舞われた。事実上の「更迭」になっていくわけである。
一方、逆の観点ではあるが、石原慎太郎都知事(当時)本人もまた、このような対立を予測していたということが、今この本で冷静に振り返ると見えてくる。僕は当時、石原都知事が都の税金を使って買い取ったり調査するということに対して許せない思いがあり、そのことは「「原野商法」をすすめる石原都知事は「背任」」という記事に書いている。僕は都民であり「石原教育行政」に腹立たしい思いもしてきたから、まず「都民レベル」で反応してしまったのである。
さて、この本を読むと、まず「極めて重大な問題」が隠されていることに気づくことになる。「尖閣諸島」という言葉そのものは、今や知らない国民はいないだろう。でも細かいことは知らない国民が多いのではないか。
どこら辺の位置にあるか、中国本土、台湾、石垣島、沖縄本島、宮古島などしか書いてない地図を見せて、尖閣諸島のあるところに印をせよというクイズをやったらどうだろう。日本でも中国でも間違う人が続出するのではないか。
では、次に「尖閣諸島は5つの島からなるが、その名前を全部答えよ」という問題はどうだろう。答えられる人でも、「魚釣島」だけではないか。答えを面積順に示すと、魚釣島(3.82ku)、久場島(0.91ku)、南小島(0.40ku)、北小島(0.31ku)、大正島(0.06ku)である。さらに沖の北岩、沖の南岩、飛瀬という岩礁がある。沖の北岩は0.05kuで、大正島とそれほど変わらないが、大正島は日本では島扱いする。中国では「赤尾嶼」で、久場島も「黄尾嶼」だから、ともに岩礁扱いなのかもしれない。
さて、この中には、「前から国有化されていた島」「野田内閣により国有化された島」「今でも国有化されていない島」の3つの区分がある。と言えば、エエっと驚く人が多いと思う。
えっ、全部去年国有化されたんじゃないの??? それが違うのである。
元から国有なのは「大正島」、今でも私有なのか「久場島」である。
残りの3島が去年国有化されたわけだが、久場島は今でも他の3島の所有者だった埼玉県の一族の親戚が所有しているという話である。
そして、大正島と久場島は米軍の射爆撃場として設定されているが、米軍は1976年以来30年以上にわたって使用していないということになっている。何にせよ、この2島は米軍管理下にあり、日本政府の管理下にない。他の3島も政府の措置により自由にはいけないようになっているが、それでも日本を初め、中国、香港などの尖閣活動家が上陸したことがある。しかし、米軍管理下の2島には誰も行ってないのではないか。
この事実は、今までの尖閣に関する考え方を一変させてしまうはずである。
今までも国有化されていた島があるのに、他の3島の国有化のみ問題視するのも中国の過剰反応ではないか、とか。
あるいは、日本の右翼勢力はなぜアメリカに使ってない2島を日本に返還せよと言わないのか、というのもある。
また、米国は「2国間の領土問題では中立の立場に立つ」などと言うのだが、これはインド、パキスタンの紛争などとは違う。明確に米軍が今も管理している島が、実は中国領土であるという中国の主張の方が正しいなどという、そんなバカなことがあるわけがないではないか。そうだったら借りてるアメリカ軍こそ問題だし、日本領だと思うから日本に借用料を払っている。米国の納税者に説明ができない。アメリカの立場の裏にあるものは何なのか。実は石原氏は一度、久場島も都で買うと表明した経緯がある。が、いつの間にかその話は消えてしまい、所有者の意向も聞こえてこない。やはり米軍管理下にあるということが、「久場島を消してしまっている」のではないか。
領土問題の戦略的解決に向けた提言、日本外交の今後の道なども後半部分で論じられている。ほとんど賛成だが、それは直接読んでもらうとして、最後に石原氏のねらいについて。どうも日本では、石原都知事はああいう人だからと思われてしまうことが多い。つまり「暴走老人」だから発言が暴走するのも仕方ない、本気じゃないだろうし、問題提起には意味がないわけじゃないとかなんとか。
しかしこの本で石原発言を追ってみると、石原氏は明確に「中国と問題を起こす」ことが目的とされていたことが判る。「シナの嫌がるようなことをする」なんて言うから、またいつもの「嫌中発言」かと過小評価してしまう。でも「尖閣を守る」が目的ではなく、都が火をつけて国を巻き込み、日中関係を悪化させ、中国軍の出動を促し、日本でも海上保安庁ではなく自衛隊が対応せざるを得ないように持っていく。
それをきっかけに武力衝突を起こし、自衛隊の国防軍化、核武装への道を切り開くをいう「大陰謀」のきっかけが、「尖閣購入発言」だったのである。
それはまさに民主党政権の外交に対する不信任で、民主党政権打倒運動でもあり、日本の右傾化を進める「合法的クーデタ」だったと言ってもいい。「平成の満州事変」と呼ばれてもおかしくない事態が、ことの本質だったのだと思う。
もちろん実際の政治過程は偶然性も大きい。今自民党総裁選当時の新聞を見返してみればすぐ判るが、「石原、石破両氏を軸に」などという報道がなされていた。石原伸晃氏が自民党総裁になっていた場合、石原都知事は辞職せず、息子の支援に徹していた可能性もある。橋下徹大阪市長をめぐって、石原慎太郎氏と組むか、(総裁選で敗れていた)安倍氏と組むかという路線問題も起こったと思われ、どうなっていたかは読めない。
ただし、どういう経緯をたどっていたとしても、遠からず実施されていたはずの総選挙で、石原慎太郎、安倍晋三、橋下徹などの各氏を中心に、日本政治がぐっと右傾化していたのは間違いない。現にそうなってしまった右派の天下こそ、石原氏の尖閣発言がねらって実現したものなのである。
豊下楢彦氏は関西学院大学法学部教授だが、関西学院大教授としての最後の仕事だと後書きに書いてある。
岩波新書の「安保条約の成立−吉田外交と天皇外交」を読んで僕はビックリして見解に賛成した。次の岩波新書「集団的自衛権とは何か」も非常にクリアーで頭の中の霧が晴れるような名著だった。もういらない本かと思っていたら、まさかの安倍政権復活で読書価値も復活してしまった。まだ読んでない人は是非読んでおいた方がいい。
岩波現代文庫では、「昭和天皇・マッカーサー会見」があり、現代史に関心がある人には必読の本。今回の本は今までの本にも増して、同時代史としての意味が大きく、普段あまり社会問題、現代史なんかの硬い本を読まない人も、事実関係の共通認識のために読んでおいた方がいい。論点に賛同するかどうかは、また別の問題としても。
『尾形修一の教員免許更新制反対日記』(2013年01月07日)
http://blog.goo.ne.jp/kurukuru2180/e/0f212ecc0dc48efb0b1e66d0e28b98ee






