2013/5/31

ブラック企業による規制改革会議の乗っ取り?  ]U格差社会
  《竹信三恵子の経済私考》
 ◆ 自民党改憲草案は経済を健全に機能させない


 子どものころ、戦中派の母に「それなのになぜ、戦争になっちゃったの?」と聞いたことがある。戦争前、周囲には「物量から見ても米国に勝てるわけがない」と語る人たちが少なからずいたと母が言ったからだ。
 母の答えは「なんだかわからないうちに、そうなっちゃったんだよ」
 最近、この答えをしきりに思い出す。「なんだかわからないうちに」、戦後の経済発展の基盤とも言える社会ルールが掘り崩されつつある気がするからだ。
 そのひとつが改憲だ。
 改憲は政治問題であって経済問題ではないと考えられがちだ。だが、国民が国家権力を規制する憲法の存在なしでは、経済は健全に機能しない。
 たとえば、領主が商人から金を借りて勝手に踏み倒せるなら、商人は金を貸し渋るようになり、金は需要のある場所へ流れなくなる。憲法は、商人でも安心して領主に金を貸せる基盤をつくっている。


 ところが、自民党の改憲草案には、「国家による国民への規制」が散りばめられている。
 たとえば、家庭内の男女平等を規定した憲法24条には、「家族は、互いに助け合わなければならない」が追加された。
 国家に対し「家庭内の平等」を主張する根拠が、国家が家族に相互扶助を押し付ける規定に転換させられている。「家族の扶助義務」を負わされた女性は、保育や介護サービスを国に求められない。
 企業サービスを金で買える経済的強者以外は、外で働けなくなる。労働市場への参加はカネ次第。働き手の公正な競争は阻害される。

 安倍政権下では規制改革会議が復活し、解雇規制や労働時間規制の緩和という働き手の生存にかかわる問題が論議されている。
 産業革命期、児童や女工などの酷使が労働力の再生産まで危うくさせたことから、さまざまな労働規制が生まれた。
 だが、選挙による信任もなく、こうした労働への基本的理解もない人々の手で、働き手の運命が決められようとしている。
 ここまでは、小泉政権下と同じだ。だが、安倍政権下で気になるのは、会議の主要メンバーの変化だ。
 この4月、楽天の三木谷浩史・会長兼社長が代表理事を務める経済団体「新経済連盟(新経連)」は「新経済サミット2013」を開催し、安倍首相が前夜祭に駆けつけるなどの「両者蜜月」(4月17日付『産経新聞』)を見せつけた。
 新経連は、三木谷氏が2011年に経団連を脱退後に創設したが、今回の規制改革会議には、新経連理事、金丸恭文フユーチャーアーキテクト会長兼社長らが入り、規制緩和の旗を振る。
 労使交渉でことが決まる戦後社会のDNAが多少は残る経団連と異なり、新経連は新興ベンチャーが主流だ。
 労働ジャーナリストからは「労働の基本を知らないブラック企業による規制改革会議の乗っ取り」との声も出ている。
 戦後の経済成長を支えてきた「国民が国家にモノを言える枠組み」と、「働き手を支える枠組み」の転換は、7月の参院選の結果次第でクーデターの様相となるだろう。
 なのに、社会やマスメディアはあまりに静かだ。「なんだかわからないうちに、そうなっちゃったんだよ」と孫たちの世代に言わずにすむよう、一人一人ができることは何か。残された時間はさほどない。

 ※たけのぶみえこ・ジャーナリスト、和光大学教授。著書に『しあわせに働ける社会へ』(岩波ジュニア新書)、『ルポ賃金差別』(ちくま新書)など。

『週刊金曜日』(2013/5/17 943号)


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