2013/11/23

人種差別撤廃条約を適用した画期的な判決  Z国際人権
 ◆ 在特会の嫌がらせ行為、「人種差別」と認定
板垣竜太(同志社大教員)

 2009年12月に「在日特権を許さない市民の会(以下、在特会)」が、京都朝鮮第一初級学校に押し掛けて、人種差別的怒号を浴びせ続けた事件の民事訴訟判決が10月7日に出た(在特会については本紙8月15日号参照)。裁判で原告側の専門家証人としても関わった、同志社大学教員の板垣竜太さんの寄稿。

 ◆ 京都朝鮮第一初級学校事件判決の意義と民族教育権の行方
 2013年10月7日、京都地方裁判所(裁判長・橋詰均)は、「在特会」らに対し、学校法人京都朝鮮学園に1226万円の損害賠償金を払うことを命ずるとと
もに、京都朝鮮第一初級学校付近での街宣活動を差し止める判決
を下した。
 判決は、在特会のメンバーらが、京都朝鮮第一初級学校に対し、3度にわたって行った示威活動を対象としたものである。すなわち、
 @09年12月、授業中だった学校に押し寄せ、器物を損壊しながら、朝鮮学校に対する罵詈雑言を浴びせた示威活動、


 A10年1月の学校付近でのデモ行進、
 B同年3月、地裁の街宣禁止の仮処分を無視して行ったデモ行進である。

 このうち示威活動@は、被告のうち4人が逮捕され、既に刑事裁判で侮辱罪等により有罪判決が確定している。

 今回の裁判では、原告側が損害賠償請求において勝訴すること自体は確実視されていた。授業を妨害し、子どもらの心を傷つけ、物を毀していき、しかも被告自らがその一部始終をインターネットで誇らしげに公開していたからである。
 だからこそ原告側には、本裁判において、それ以上の2つの獲得目標があった。すなわち、「民族教育権」の保障を判決に書き込ませること、またそれを示威活動によって侵害した人種差別(レイシズム)の事件として明確に本件を位置づけさせることであった。いずれも明確な判例がなく、判決にどれほど反映されるかが注目されていた。

 ◆ 人種差別が動機
 結論からいえば、この獲得目標のうちーつは達成された。判決は、被告の示威活動による名誉殿損と業務妨害が、人種差別撤廃条約で禁止された人種差別に該当すると断じた。
 日本は1995年にようやく人種差別撤廃条約に加入したが、それに相当する国内法を有していない。そのため本判決は、現行の法律を条約の定めに適合するように解釈しなければならなかった。賠償されるべき損害には、有形損害(財産損害)と無形損害がある。
 本判決は、通常の名誉殿損と業務妨害に加えて、それが人種差別を動機としていたことが、無形損害の認定を重くさせると解釈したのである。
 具体的には、授業中に行われた示威活動@による無形損害を500万円、とBによる無形損害をそれぞれ300万円と認定した。賠償金のほとんどが人種差別を動機とした無形損害によるものだったのである。

 実は、この事件は2010年に開かれた国連の人種差別撤廃委員会で議論になっていた。日本は、人種差別事件を処罰する法律を有しておらず、そのことが委員会では繰り返し指摘され続けてきた。
 そこにこの事件だったので、委員の1人は、日本の法廷では「人種的動機」が考慮されないのか、と日本政府代表に質問した。それに対し、日本の代表は、「人種差別事件では、その悪意の観点から評価し、量刑に加味されている」と答えていた。
 ところが、この事件に関する11年の刑事裁判判決では、人種差別に一言も言及されなかった。これほどあからさまな事件で、「人種的動機」に触れられなかったのである。そこに触れずとも刑事事件として立件できると検察側が判断したのであろう。
 それに対し、人種差別の問題を正面から扱った今回の民事裁判では、その判断は避けて通ることができず、結果的に、今後、人種差別問題で常に参照されるべき、画期的な判決となったのである。

 ◆ 民族教育権の行方
 一方、原告側が人種差別とワンセットで主張していた民族教育権については、判決で一言も触れられなかった。このことは極めて遺憾である。ただ、判決が民族教育権を否定したわけでもない。これについて、最後に2点指摘しておきたい。
 まず、本判決は、そこで行われているのが民族教育であろうが、別の活動であろうが、人種差別の動機をもって行った活動が、名誉殿損や業務妨害などの具体的な損害をもたらせば、それを人種差別事件と認定できるものと解釈できる。すなわち、民族教育以外の場でも、人種差別撤廃条約を適用できる可能性を開いたとも言えるのである。
 もう一つは、判決の論理に民族教育権を接合する可能性である。今回の判決で、原告の「無形損害」が認められたということは、裏返せば、損害を与えてはならず、保障されるべき「何ものか」が認められたということである。その「何ものか」の中心に、「民族教育の営み」があった。民族教育権とは、まずもって民族教育を不当に侵害されないことである。そうした点からしても、民族教育権の保障という論点は、本判決に接合することもできると考えられる。
 以上の点で、今回の判決は、今後、さまざまな方向に活用し得る潜在性を有している。それを有効に活用できるかどうか、私たち市民の力にかかっている。

 ※いたがきりゅうた
 1972年生まれ。同志社大学社会学部教員。専門は朝鮮近現代社会史。共著に『東アジアの記憶の場』(河出書房新社)、薯書に『朝鮮近代の歴史民族誌繭(朋石書店)、共編著に『日韓新たな始まりのための20章』(岩波書店)ほか

 ※京都朝鮮第一初級学校事件
 2009年12月4日、在特会メンバーらが、京都朝鮮第一初級学校(当時)に押し掛け、約1時間にわたり「朝鮮学校を日本から叩き出せ」「なにが子どもじゃ、スパイの子どもやんけ」と怒号を浴びせた(「街宣行動」)。この模様は逐一ウェブの動画サイトで公表された。
 弁護団が組織され同月下旬に同会メンバーらに対し刑事告訴がなされ、即日受理された。10年1月19日には京都弁護士会が「朝鮮学校に対する嫌がらせに関する会長声明」を発表。しかし同年1月、3月にも同様の街宣を行った。10年8月には街宣を行っていた中心人物4人が逮捕され、11年4月には京都地裁で「威力業務妨害罪」「侮辱罪」などで懲役1〜2年(執行猶予4年)の有罪判決が出た。

『ふぇみん』3039号(2013/11/15)

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