静岡ネタ続きの最後は地味な「鉄」話で。子供の頃によく乗った電車だが、沿線風景といい車両といい、30年以上経った今も驚くほど往時と変わっていない。
静岡鉄道というとグループ傘下に県内全域への幅広いバス路線や不動産の系列会社を持っている地元の大手企業というイメージがあるが、本体の鉄道はとなると、合併前の旧静岡市と旧清水市の繁華街を結ぶ僅か11km、走行時間20分の実にささやかな私鉄路線だったりする。両市が合併して以降は、完全に「静岡市内」だけを走る電車になった。全線11kmの間に駅が15もあるから、駅と駅の間の平均は1kmにも満たない。ある意味で路面電車に近い性格の路線だ。
それにしても東京や名古屋・大阪・福岡といった大都市圏以外で、こういう純民間の私鉄が「都市内生活路線」としてやっていけているケースというのは、今や全国的にも珍しい。もとより、ここに住んでいた30年前の子供の頃には別に意識もしなかったが、こういう街中の複線の上を、電車が片道でも5〜6分おきに運行されて採算がとれている私鉄というのはむしろ珍しい部類なのだと今にしてわかる。正直、この日も往時と同じ2両編成の編成の電車に揺られながら「東京都内にいるみたいだな」と思った。都内で例えれば
世田谷線あたりとよく似ているかもしれない。
そのせいか、この路線は「鉄」ヲタ系の雑誌や書籍でもほとんど紹介して貰えない。どうも大半の「鉄」ヲタの頭には「私鉄」というと「大都市圏の大手私鉄(小田急とか阪急とか)」か「明日にも廃止に追い込まれそうな見るからにボロボロな地方私鉄」という認識のパラダイムが凝り固まっているせいか、東海道ベルト地帯の私鉄空白地域でこうやって都市鉄道然に普通に運行されている私鉄は「面白くない」のだろう。
実際、走っている車両も既に30年以上前の東急車輛製のステンレスカー(東京都内で言えば池上線あたりを走っている旧型と同じ)に統一されているし、ワンマン運転やら駅への自動改札機の導入も、とっくに終わっている。
ようするに特徴がないのである。今回、十年ぶりくらいに乗った私でも、やはりそう思った。静岡という「日本全国を足して割った」平均値のような街をある意味で象徴するかのような路線だ。
とはいえ静鉄、ほんとに昔のまんま走ってるんだなあと知るに、逆に「これからどうなっていくのかなあ」との思いもこみ上げてくる。清水側のターミナル「新清水」駅はほぼ昔のままだったけど、反対側の“センター”の愛称で地元では知られた新静岡駅は併設のバスターミナルとショッピングセンターが目下盛大に改築工事中。旧型のブラウン管テレビみたいな顔をしたこのステンレス製電車も、だいぶ年季が経ってきたようだ。はたしてこの次に乗った時には、どんなふうに変わっているやら。

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