んなわけで一度に4本も記事書いて「やややヘバリ気味だよ〜」とかうめいていたところ、『GALAC』から「せめて1本は名前変えてくれない?」と依頼が来た。あの雑誌は放送批評懇談会の会員からなる編集委員会が編集する機関誌という性格もあるため、1人の会員(私、一応会員にして編集委員なんですね)が何本も書いてるようにしてしまうのは体裁上あんまし好ましくないのだ。
「えーと、どうすっかな」と少々思案のうえ、1本については署名をペンネームに切り替えた(インタビュー原稿についてはたぶん無署名になりそう)。個人的に「署名原稿を書く場合は本名を名乗る」との原則でこれまでずっとやってきたので内心忸怩たるものもなくはないのだが、『GALAC』には日頃からお世話になっているし、もとより雑誌を私物化してるように見られちゃうのも本意ではないので、そこは納得したうえでのことである。
――と書くと「あれ、もともと『岩本太郎』ってのがペンネームじゃなかったんですか?」という人がいるかもしれない。実際、これまでもよく取材先などで名刺を渡す折によく「これって本名なんですか?」と聞かれたし、「ペンネームですよね?」などと断定的に訊ねられて閉口したこともあった。
この際だから言っときますが(って別に怒るように言わんでもよいのだが)、岩本太郎というのは逃げも隠れもしない、親から貰ったれっきとした本名です。自分でも結構気に入ってる名前だし(ただし子供の頃にはさんざんからかわれたもんで喧嘩が絶えなかった。おかげで性格が屈折して、こういう捻くれた物書き稼業なんぞに身をやつしたのかもしれないが)、フリーになるに際しても、特にペンネームを名乗ろうといった考えはあんまり起きなかった。
というか今から10年ほど前、フリーになって最初に署名で書いた原稿のゲラが送られてきたのを見た時、凄くビビッたのと同時に「これは逃げちゃいかんな」と思ったのだ。この文章には、書き手である俺という人間の未熟さや至らなさや思慮の浅さとかいうヤツがもろに出ているだろう。読み手の中にはそれを間違いなく見抜く人もいるだろうし、あるいはヤリや鉄砲も飛んでくるかもしれない。だったらそこから逃げるわけにはいかないな――と。
って、まあそれはちょっと格好つけすぎかもしれないけど、ようするに自分の頭や身体から出てきた文章なのに、自分以外の名がつくということにどうしても違和感があるのだ。もちろん、ペンネームはペンネームで一つの書き手としてのキャラクターを次第に確立していくというのはあるだろうし、それこそ「スターウォーズ」でアナキン・スカイウォーカーがコスチュームをまとってダース・ベイダーになっていったような展開で、案外今度のペンネームが一人歩きしていくということもあるかもしれない。「これをきっかけに、彼は物書きとして精神の暗黒面に落ちていったのだ」みたいな(笑)。
ちなみに『GALAC』からは「“岩本次郎”にしたらどう?」なんて提案も冗談であったのだけど、実はそれ、私の弟の本名です(笑)。まったく「太郎の弟は次郎しかない」なんていうネーミングセンスの親父のおかげで、本人たちはどんなに苦労したと思ってるんだと言いたくなるが、あいにく親父はすでに他界しているので文句も言えない。ただし、今回のペンネームはその親父にちなんでつけている。どんなものかは、雑誌が出てからのお楽しみ、ということで。

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