新聞の投書欄ってのは読むたびに「何だかなあ…」とゲンナリすることが多い(特に私がとってる朝日新聞は。対照的に産経新聞のそれは笑いながら読めるので結構好き)ので、個人的には敬遠しがちなページなのだけど、けさ何気に朝日の朝刊を開いたところが、いきなり見ちゃいましたよ次のような表題のやつを。
<「人を刺せる」凍りつく歌詞>
和歌山県に住む20代の主婦の方の投書なのだが、スキマスイッチの「きみがいいなら」という曲の中にある「君が言うなら 人だって刺せるよ」という一節を挙げて「こんな恐ろしい勘違いのラブソングはない」としたうえで、
<愛する人が言うなら他の誰かを刺して傷つけてもよいという道理など、まかり通るものだろうか。同じ命の重さで生きている人間を、自分の愛のために傷つけられるものだろうか。/問題は、この曲を多くの若者が聴いているということ。若者は時に、好きなアーティストが作り出した歌詞に自分の感情を寄り添わせる。「人だって刺せるよ」という部分に共感さえしかねない>
と、ご自身の主張を展開されている。
私はくだんの曲を聴いたことがないし(聴いてるかもしれないが、どの曲かはわからない)、もちろん投書の主にも会ったことがない。たぶん、凄く真面目な方なんだろうなと思うし、投書によればスキマスイッチが気に入ってアルバムを買ったらその曲が入ってたということなので、そんなに無茶苦茶な曲でもないのだろう。で、そのくらいの認識を前提としつつ私見を述べると、
<愛する人が言うなら他の誰かを刺して傷つけてもよいという道理など、まかり通るものだろうか。同じ命の重さで生きている人間を、自分の愛のために傷つけられるものだろうか>
基本的にこれはまったく正論だと思う。そんなものが罷り通ったら健全な社会なりたたない。ですよね? けれどもそのうえで
「いや〜人間って、恋愛に狂えば人殺しの一つや二つぐらいはできますよ」
と思ってしまうのですねこれが(笑)。
もちろん近代社会において「恋人に言われたからアイツを殺しました」なんて理屈が通るわけはないし、言ったとしても恋人ともどもブチこまれるだけである(なんて書くと、目下「共謀罪」に反対している私としては見識が疑われることになるのかしら?)。
けれども社会規範がどうであろうが、ひとたびそこに陥ってしまえば、明らかに違法なんだろうが人道にもとろうが、それをやっちゃうのが恋愛でしょうが。じゃあ恋愛そのものを禁止するかっていったら、まさにそれこそが少子化を食い止める鍵なんだろうから、そういうわけにもいかない。
<問題は、この曲を多くの若者が聴いているということ。若者は時に、好きなアーティストが作り出した歌詞に自分の感情を寄り添わせる。「人だって刺せるよ」という部分に共感さえしかねない>
と、これも一見「そうだよなあ」と思う人がいるのかもしれんけど、なあに、答えは簡単ですよ。だって、そいつにベタ惚れされた相手が「あ、じゃああの人殺して!」なんて頼まなければいいんだもの。
自分にベタ惚れした相手に殺人を依頼しておいて「スキマスイッチがそういう曲を歌ってるので許されると思いました」なんて理屈が通るか普通?
だからスキマスイッチが「人だって刺せるよ」とか歌うこと自体については、筋からして何ら問題はないんです。ただ、こういうのはオーディエンスが増える中で必然的に出てくる問題だし、対応を間違うとミュージシャンにとっても厄介な事態になりかねない。その意味で、一応これでメシを食ってるスキマスイッチさんや周囲の関係者さんたちが、事前にどの程度考えていたのかしら、という気はする。
あと、最後に
「愛する人が言うなら他の誰かを刺して傷つけてもよいという道理など、まかり通るものだろうか」との問いについて再び言えば、
「そんなものは大昔からまかり通ってきたんだよ」
というほかない。
だって、それこそ歌の世界で言えばアメリカ国歌にしたってフランス国歌にしたって滅茶苦茶好戦的で「愛する人のためには敵をぶっ殺していい」とか言わんばかりの歌詞だものね。日本国内的には何やらかんやら物議を醸す「君が代」が実に平和的で良い歌だと思えてしまうほどに(笑)。
「人間にとって一番大事なのは愛だよ」
と、数年前、ある宗教団体に所属する女性は私に向かってそう言った。
そうだね。基本的に君の言うことは間違っていないよ。でも、たぶん「愛」は「憎しみ」と表裏一体の感情なんだ。愛ゆえに、人は愛していない人を憎むし、殺す。それは君にとっては正しいことなのかもしれないけど、今の社会に生きる多くの人にとっては、とんでもない不安要素に思われているんだ……。

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