遅まきながらですが「トーチプロジェクト」制作発表会、無事終了することができて何よりでした!
記者会見(31日:上の写真)では思った以上に記者さんたちからの熱心な質問や意見が多数寄せられましたし、上映会(1日)には、当初の想定集客数(50人程度)を上回る約70人もの方々が参加。会場が狭く感じられるほどの大盛況でした。なんでも
下村健一さんが毎週土曜日の朝にTBSラジオでパーソナリティを務めている『
眼のツケドコロ』の、ちょうど上映会当日の朝に放送された回で「トーチプロジェクト」を紹介してくれたんだそうで、それを聴いて知ったという年配の方が「入れ歯についての番組が上映されると聞いたんだが。私も本当に入れ歯のことでは困っていて……」と開演のだいぶ前にやってきて、会場のビクターホール前を歩き回ってたなんていう話もあって(笑)。「こりゃどうもいろんな客層が集まりそうで切り盛りも大変だぞ」と、シンポジウム司会者としても本番前から俄かに緊張感を覚えたものでした。まあでも、おかげさまでトークのほうもそれなりに盛り上がったんではないかと個人的には手ごたえを感じているところです。本当にありがとうございました。
(ちなみに明日6日発売の「
フジサンケイビジネスアイ」の岩本連載コラム「マスメディア構造改革」でも、今回の制作上映会について簡単なレポートを書いております。この連載では既にアワプラのことを紹介しているし、何より司会役をやった人間がそうやって身内の話を書いてしまっていいのかという気もしなくはないんだけど(笑)、宜しければそちらもお読みいただければと存じます)
それにしてもこの「トーチプロジェクト」、私自身はこれまで全然ノータッチで、肝心の上映作品も初日の記者発表の席で初めて見たくらいだったのだが、最後の最後になって今回こういう形でお手伝いをさせていただいてみて、改めて「やるじゃん!」と感服を覚えた次第だ。
今回上映された四作品については既に
アワプラ公式サイト上に順次アップされているので、未見の方には是非御覧いただきたいと思うが、それぞれの作品に共通する点を敢えて一つ指摘するなら、それは「プロの報道関係者には撮れない、むしろ素人だからこそ撮れた映像である」ということだ(もっとも土屋トカチさんは本職のビデオ制作者であり、こういう言い方には若干語弊もありそうで何だか申し訳ないのだけど)。
たとえば上記の入れ歯についての作品(加藤雅司さんの『入れ歯作りの現場から〜口の中の偽装問題』)にしてもそうだが、私を含めてほとんどのメディア関係者はこの作品を見るまで「歯科技工士」という人々の存在を意識することはなかっただろうし、もしこの作品に出会わなければ、たぶんこの先も意識することがないまま終わったんじゃないかと思う。
世の中には実に多種多様な仕事があり、それぞれに深刻な事情や問題点を抱えてもいる。ただ、それが極めて専門的な領域での話であるだけに、不特定多数のオーディエンスに訴えかけることを至上命題とするマスメディアには話題として載りにくい。いや、それ以前にメディア関係者のアンテナに話題として引っかかる可能性すら絶無に近いというのが実態だろう。だとすれば、この入れ歯の話のように、その現場にいる当事者(もしくは当事者の近くにいる人間)が自ら情報として発信していくこと以外、世間に知られるための術はない。
こう書くと「別にそんな専門的な話題なんか、一般の人たちには関係ないんだからいいじゃない」と思われる向きもあるだろう。だが、上でも述べたように入れ歯のことで悩んでいる人は多い。せっかく作ってもらった入れ歯が合わずに何度も作り直してもらっている、というのは誰しも周囲でよく聞く話だろうし、今は縁がなくともいずれは自分も歯を失って「当事者」になる可能性は大いにあるはずだ。そうなってみれば「なんで入れ歯のことでこんなに苦労しなきゃいけないんだろう?」という疑問や、その答えを知りたいという情報ニーズは自然にわくに違いない。
しかもだ。上記の作品のサブタイトルにもあるように、この「入れ歯」問題の背景には、例の「耐震偽装問題」にも通じる、ある意味で今の日本社会全体に通じる病理のようなものすら感じられる(その辺は実際に作品の中でもよく描かれている)。つまり、素材そのものは専門的で狭い業界の話ながら、そこに潜む問題は極めて普遍的なのだ。たぶん、この作品に出て来た歯科技工士の金子さんのように、外からは気付いてもらえないような問題に日々苦悩しながら、それでも懸命に仕事に励んでいる人たちが、今はあらゆる業界のそこらじゅうにいるんだろうな……と、何だか切なくなってくる。
――と、今回もいろいろと思うことがたくさんあっただけて、書き出すとまた長くなる。他の三つの作品についての紹介および感想も含めて、続きは次回に。
(「
岩本太郎のメディアの夢の島」と同時掲載)

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