先日
坂本衛さんに会った際、「最近ブログの内容が武闘派になってないか?」との御忠告が。
なるほど、そうかもしれない。もういい齢なんだから、ここは少し血気に走る自分を諌めたほうが良さそうだ。と、いうわけで今回からしばらくは「武闘派」を止め、大人しく「
民族派」に転向することにします――つーか、先週末は何というか結構凄絶だったのですよ、行き先の降り幅が。
まず22日(金)だが、ブラジル戦があった早朝は、いかにも大人しい日本民族らしく、ぐっすり寝てた。前夜の帰宅が1時を過ぎていたのと、午前中には仕事で外出しなければならなかったために無理はよしたのだ。
9時頃に起きてスコアをチェックしたら1-4。ん、でも先制して前半はイーブンで折り返したんだ。それなりにやるこたやってる。あーたらこーたらの批判や分析がさっそく始まっているようですけど、門外漢の私としては素直に「うん、ごくろうさん」と言いたいと思います。尻馬に乗って分かったようなこと言いたかねーよ。
10時半頃に放懇事務局『
GALAC』編集部へ。8月号(7月6日発売)の校正作業だが、本来なら昨日で校了のはずだった。ところが恐ろしいことに未だ入稿されざる原稿が1本。この日の朝一番で入るというので、私もそれに会わせて顔を出したのだが、恐ろしいことにその時点でも原稿は未着。しかも電話連絡がついた筆者は「ブラジル戦を見てたんで」とヌケヌケと言う(苦笑)。
結局、昼過ぎになってやっと全ての入稿が完了。怒りの久野明さん(放懇事務局サッカー担当部長)は失意で帰国の代表&サポーターたちと入れ違いに来週からドイツへ。この道ウン十年という久野さんにとってのW杯は、むしろ今から始まる。
夕方7時頃に帰宅し、珍しく仮眠。というのも、この日は深夜から朴哲鉉さん(パク・チョルヒョン=映画『
共謀罪、その後』監督)からのお誘いで、新大久保の韓国料理屋で「韓国vsスイス」戦を在日のサポーターたちと共に観戦することになっていたのだ。「
共謀罪に反対する表現者たちの会」からは他に三宅勝久さんと清水直子さんが参加。
深夜の新大久保駅前は赤く染まっていた。同じく赤いジャージをまといビデオ撮影しながら表れた朴さんに、私は「昨日のブラジル戦の時間は寝てました」。清水さんは「知り合いもいないチームを応援しなきゃいけないんですか?」。
「日本代表が何で勝てないかわかりましたよ……」と、朴さんが溜息をつきながら言う。「サッカーの勝ち負けの八割は愛国心ですよ!」
実は朴さんは「
オーマイニュース」に時折サッカー解説記事を書いたりするほどのサッカー好きで、韓国での兵役時代には隊内のサッカーチームでレギュラーをはったりしたこともあるそうだ。今回のW杯では日本代表の試合もしっかりチェックしていて「ジーコは僕の中でもずっと神様だったんですが、今回のことで完全に消えましたよ」と熱弁をふるう。クロアチア戦を見ていた都内のサッカーバーでは柳沢がゴール前で決定的なシュートを外した瞬間、テレビに向かってビール瓶だかグラスを投げつけて逮捕される奴が出たそうだが、「日本人はもっと怒んなきゃいけない。愛国心が足りない!」と力説。
しかし日本人が韓国人から「愛国心が足りない」と説教されるというのも妙なもんだな。もっとも、その後に案内されて入った店で韓国語チャンネルの番組なんぞを見ていると、まあ確かにそうだよなと思わないでもなかった。前回W杯の主会場だったソウル・スタジアムでは客席を埋め尽くした大観衆の前で、韓国のアイドル歌手やら芸人たちがキックオフの3時間以上前から歌えや踊れの大騒ぎ(朴さんは「テレビ局がやらせてるんです。四年前はあんなことはなかった」と憤然としていたが)。もちろん店の内外でも、デッカイ大極旗を背負ったお兄さんや、角を生やしたお姉さん、深夜だと言うのに子供たちも結構大勢いてテンション上がりまくりなのであった。当然、周りから聞こえてくるのは韓国語が9割。う〜む、ここは絶対日本じゃないよ。だって、今ここにいる俺らからしてが「非国民」扱いだし(笑)。
さて、そんな国賊や非国民の巣窟のような「表現者たちの会」メンバーを、愛国者バリバリモードの朴さんが何故にそういう場に誘ったのかというと、どういうわけかこれが上記の「オーマイニュース」関連だったりする。
というのも、何と! あの「オーマイニュース」代表の呉連鎬(オ・ヨンホ)氏が海の向こうで俺の噂を聞きつけて――んなわけねえだろ(冗談!)――いや、今度創刊する日本版の件で目下東京に滞在しており、今日はここ新大久保まで母国チームの応援にやってくるので、これを期に我々「表現者たちの会」の面々と引き合わせたいと朴さんが言い出したのだ。
前にも書いたが、雑誌の市場規模が日本に比べて貧弱な韓国では、我々のような「フリーライター」という業態がそもそも存立し得ないのだそうだ。そのぶん「オーマイニュース」のような「市民記者」という有り様が広く社会に浸透し、盧武鉉政権が生まれるに至る世論の形成に大きな影響を与えたとも言われる。ではその「オーマイ」が日本ではたしてどこまでやれるのか? ということで、
先日朴さんが我々について書いた記事を読んだ呉連鎬氏が、話を聞きたいと考えたらしい。
で、一時間ほど遅れてやってきた呉さんを交え、キックオフまでみんなで語り合う。昼間顔を出した『GALAC』からは「ぜひ取材の交渉をしてきて!」と頼まれていたので、見本誌を渡しつつ、俄か通訳係になった朴さんを通じてインタビューの依頼を伝える。見本誌をぱらぱらめくりながら呉さんがにこやかに何事かを言う。
「『嫌だ』って言ってますね」と朴さんが訳す。
「かははははは!」と思わず私は笑う。
(画面一番左が呉連鎬さん)
そんなこんなで二時間ほどあれこれ話し合った(が、当然試合が始まれば応援一色だ。
「
テーハンミング!(どどんどどんどん!)」「
フレー・フレー・イ・チョンス!!」
という日本でも御馴染みの応援に会わせて、朴さんも呉さんも声をはりあげる。というかほとんどテレビに向かって怒鳴りまくっている。
しかしスイスは強かった。素人の私が見ても、選手一人一人の体力的な優位やパス回し、ゲーム運びの優位がわかるような気がした。ただ、後半に2点目を取られた場面は明らかにオフサイドだったと私も思ったんだけど……。盛り上がっていた店内、さかんに大声をはりあげていた朴さんたちも、あの2点目以降はすっかり大人しくなってしまった。
「うん、また四年後があります!」と朴さんは言った
「うん、四年後には本大会で日本が韓国を倒す」と私は言った
「かははははは!」と朴さんが笑う。
タイムアップの笛が鳴った途端、赤いサポーターたちはむしろ「これでさっぱりした」といった感じでそそくさと店を出て行った。ぐずぐず残ってブーたれる人もおらず、むしろ「やられちゃったなあ」という感じで苦笑しあったり、仲間同士でにこやかに記念撮影のうえ駅までなごやかに帰っていく人々もいたり。このへんは日本人と似てるところと違うところが交差しあっていて何だか面白い。
季節はちょうど夏至を少し回った頃。試合が終わって外に出る頃にはもう朝陽がかなり高いところに上っていた。それにしても、久々に朝陽が黄色く見えたぜ(苦笑)。

0