もう昨日になっちゃったけど、8月3日付の朝日新聞朝刊オピニオン欄「私の視点」に、このところ本ブログでも何度か紹介している飯田進さん(神奈川県児童医療福祉財団理事長:元海軍ニューギニア民政府資源調査隊員)が「靖国参拝 歴史の暗部見据えて議論を」というタイトルで寄稿されていますので、是非お読みください。それにしても、紙面の見開き反対側がワシントンのアーリントン国立墓地についてのルポだというのも上手い組み合わせだね。
で、一昨日(2日)は午後から、その飯田さんについての映像取材を目下一緒にやっている若尾恭之さんからのお誘いで、都内市ヶ谷にある
防衛庁施設(通称「市ヶ谷台」)を見学。構内の「市ヶ谷記念館」に残る旧陸軍士官学校大講堂――あの東京裁判の法廷として使われた場所だ――をいずれ撮影したいと考えた若尾さんが、ロケハンがてらあらかじめ現場を見に行きたいと言い出したのだ。私のほかに、アワプラで顔なじみの大学生・後藤由耶くんも参加。
さて、割と多くの人はここで「防衛庁の中なんかへそんな簡単に入れるの?」と思うことだろうが、実は防衛庁は一般市民向けの市ヶ谷台見学ツアーというのを毎日(土日祝日を除く)午前・午後の2回開催しているのだ(詳細は
こちら)。私も若尾さんから聞くまではそんなのがあるとは全然知らなかったのだが、その若尾さんも少し前に都営新宿線の車内吊り広告で見て初めて知ったんだとか。
1時過ぎに若尾さんと正門前で待ち合わせ。ほどなく、なんと国分寺から自転車でやって来たという後藤くんも到着。
写真のように、靖国通りに面した正門周辺の佇まいは何ともいかめしい。門をくぐるや、そこら中に立つ警備スタッフが警戒の目線を向けてくる。
とはいえ、一般見学客に威圧感を与えたくないということなんだろうか、受付での手続きは実に簡単なものだし(少なくとも私が取材で訪ねる日テレとか朝日新聞とか電通とか講談社とかの大手マスコミに比べたら全然ユルユルだった)、警備員もみな民間警備会社のスタッフらしく、制服姿の防衛庁職員や迷彩服姿の自衛隊員が立っているわけでもない。
受付裏のスペースで見学コースの開始を待つうち、ハンドマイクを手にした女性ガイドさんがやってきて出発。後で聞いたらこの人も防衛庁職員ではなく、民間からの派遣とのことだった。「はとバスのガイドさんみたいですね〜」と言ったら「よく言われますー」と笑っていた。
この日のツアー参加者は我々3人のほかに初老の御夫婦、そして夏休みに入ったせいか子ども4人を連れたお母さんが2人の計11名。多い日は団体客などで100人を超えることもあり、ガイドさんも案内するのが大変だそうだ。
まず最初は正門前から見学者用エスカレーターで一つ高台にある儀杖広場へ。かつてはここに白亜の旧1号館が建っており、三島由紀夫がそこのバルコニーから演説をぶったシーンはあまりにも有名だ。6年前に防衛庁が六本木から移転してきた際に建てられたヘリポート付き新庁舎が跡地にそびえたつ。折りしも白い制服姿の隊員たちが何やら整列のうえ訓練中。その向こうには市ヶ谷台のメルクマールともいうべき巨大な通信塔(高さ約175m)が。「あの通信塔は今じゃ光ファイバーにすっかり役目を奪られちゃって使われてないって噂は本当ですか?」と余計な質問をしようとして、やめる。
歩きながら結構バシバシ写真を撮りまくる。写真撮影は原則OKなのだ(ただし統合幕僚監部などが入る庁舎A棟のロビーを通る時はさすがに不可。また展示物へのフラッシュ撮影は禁止)。予想通り、ソリッドな外観を持つ重厚なビル群が立ち並ぶが、非番なのか昼休みなのか職員がジョギングしていたり、グラウンド脇の木陰のベンチでは涼を求めて一息つく人たちの姿も。市ヶ谷駅前から高台を一つ上がったところにもう一つ街があったという感じだ。
そしてお目当ての「記念館」へ。前述の旧一号館が取り壊された際、歴史あるバルコニーや大講堂などの一部を、通信塔わきの場所に移築したものだ。
ここでは講堂内に置かれた展示物の見学のほか、市ヶ谷台のこれまでの歴史を解説したビデオの上映が行われる。15分程度のものだが、東京裁判についてのくだりになると、やはりというか説明が細かくなり、途中でいったんガイドさんがビデオを止め「みなさまが現在座っておられますあたりが被告席のあった場所で――」などと解説する。一方で、三島由紀夫事件については新聞記事(バルコニーで演説中の三島の写真入り)が数秒間映し出されたのみ。
ただまあ、防衛庁としてもさすがに過度な脚色や自己主張をするわけにもいかないってことなのか、全体的には過去の史実についての淡々とした解説に終始。その代わりか、ビデオもガイドさんの説明もとにかくディティールへの解説に力が入っており、「この床の30p角のナラ材は旧1号館時代から使われてた7200枚のうち、ゆがみのでた399枚以外は順番もそのまま移設のうえ並べました」とか「この玉座(ステージ中央の天皇専用席)への階段は、陛下が足を降ろされた際、御足に上手くフィットするよう、段のこの部分を膨らませて(あるいは凹ませて)作ってあります」とか何とか……まあ「ようそこまでやるわい」と聞きながら感心したものであった。三島由紀夫が突入時に柱に斬りつけた刀傷も教えてもらったが、うっかりフラッシュをオフにしたまま撮ったためにピンぼけ(泣)。
その後は厚生棟に移り、小さなホールで再びビデオ上映(今度はイラクPKOにおける自衛隊の活動を紹介)、陸・海・空各自衛隊についての簡単な展示などを見たところで実質的にツアーは終了。目を引いたことに、厚生棟の1階にあったコーヒースタンドはスターバックスだった(笑)。別にそこまでアメリカに魂を売り渡したのかとか何とか目くじらを立てるものでもないけど(マクドナルドの入った生協のお店だって特に珍しくもなかろうし)、なんか可笑しかったな。
――とまあ、全体的にはほとんどテーマパーク気分というか、実に気楽なノリで緊張感を覚えることもなく、結構楽しみながら見てきてしまった次第だ。基本的に市ヶ谷台は背広組中心の場所ということでセキュリティにもそんなに気を遣う必要がないのだろうし、防衛庁や自衛隊としても、とにかく対外向けイメージの向上に努めたいというのは本音なんだろう。ちなみに上の写真の「防衛庁を省に」と訴える小冊子のQ&Aには「防衛施設庁の不祥事にきちんと対応していますか?」という質問&回答も入っていた(笑)。
ともあれ、市ヶ谷台にはいずれまた若尾さんの撮影にくっついて行く機会があるかもしれないけど、あそこは二回行ってもそこそこ退屈しないのではないかと思います。ただ、これを機に今度は横田とか厚木とかの見学にも行ってみたいなという気もしてきたのだけど、ああいうところの見学はいろいろとまた大変なのかもしれないですね。
……と、そういえばいきなり思い出したけど、名古屋に住んでいた小学生の頃、近所の子供会の主催行事で、守山自衛隊の見学に行ったことがあったな。ヘルメット被った隊員さんに戦車や戦闘機の脇でいろいろ説明してもらったような微かな記憶しかないのだけれど、今度自衛隊を訪ねるとしたらその時以来だな。しかし、ああいう見学ツアー(何しろ父兄同伴だった)って今やったら結構ややこしい問題になっちゃうんだろうな……。

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