ブログ更新をサボくらかってる間に、
烏賀陽弘道(うがや・ひろみち)さんからメールが。なんでも『
サイゾー』から
オリコンについての電話取材を受けたのでコメントしたところが、当のオリコンから、なんと5000万円もの賠償金を支払えという民事訴訟を起こされてしまったんだとか。
記事が載ったのは『サイゾー』の今年4月号(ということはあの雑誌の場合2月中旬の発売か?)で、同誌編集部あてに訴状が送られてきたのは今月13日。しかも掲載元の『サイゾー』は何故か訴えられておらず、烏賀陽さん一人に対して賠償金5000万円の訴訟を提起しているということで、応訴するために弁護士を雇うだけでも着手金が219万円もかかる(雑誌の版元は訴えられていないので基本的に部外者)という、恐るべき事態になっているらしい。
この背景には、烏賀陽さんが以前にも古巣の『AERA』でオリコンのデータへの疑義を呈する記事を書いて先方の不興を買っていたりしたこともあるらしい。とはいえ本人が執筆した記事に対して文句を言ってくるならともかく、別の書き手による記事に載った20行ほどの電話取材コメントについて、その書き手や編集部の責任はスルーのうえ直接本人に「5000万円支払え」と訴えてくるというのだから、まあ凄い話ではある。
私自身、他の業界においてオリコンと似たようなことをやっているビデオリサーチ(ここは電通の子会社だ)とか日本ABC協会とかについての批判記事を書いてきた人間だから、今回烏賀陽さんが遭遇したようなケースはあながち他人事とは言い切れない。そういえばオリコンについてもこれまでに何度か取材で訪ねていった覚えがあり、確か一昨年の夏には副社長へのインタビューもやっているのだ。だから今ここでこんなことを書いたら文句がくるかな(笑)。
ともあれ同業のライター仲間たちが数多く参加しているメーリングリスト(ML)などでは、さっそくこの件が話題となっている。ある意味で、かつてサラ金への批判報道に業を煮やした武富士が高額の損害賠償訴訟でライターを潰しに掛かったのと同じような話じゃないかというわけだ。
ライターの立場としては、自分の書いた記事に対して名誉毀損などの訴訟が起こされること自体は常に覚悟しなければならないと思う。しかし、自分が書いた記事について、自分は訴えられないのに、電話取材した相手の発言をもとにまとめたコメントについて、そのコメントの主だけが訴えられたなどということを、看過するわけにはいかない。そんなことを認めたら、この世の中において取材に応じたり、あるいは自らの責任においてメディアで発言しようなどと思う人間はいなくなってしまうだろう。
よって、この件に関しては私から強い憂慮の念を表明したうえで、以下に烏賀陽さんからのメールの文面を転載しておくことにする。
(以下、転載)
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みなさん 同じ文面を一斉にお送りする失礼をお許しください。
緊急事態が起きました。どうか、みなさんのお知恵、お力を貸してください。
記事にしてください。ブログに書いてください。ウエブサイトに載せてください。メールを転送してください。言いふらしてください。
05(ママ)年12月13日、月刊誌「サイゾー」編集部に損害賠償訴訟の訴状が送られてきました。
原告は、音楽ヒットチャートでは知らない人のない巨大独占企業「オリコン」。その企業が、烏賀陽弘道という一個人に対して、5000万円という巨額の損害賠償金を支払うよう求める民事訴訟を東京地裁に起こしたのです。
訴訟の対象になったのは、「サイゾー」06年4月号51ページの「ジャニーズは超VIP待遇!?事務所とオリコンの蜜月関係」という1ページの記事に掲載された烏賀陽のわずか20行ほどのコメントです。
これは、サイゾー編集部からの電話取材に対して、烏賀陽が話した内容を同編集部がまとめて文字化したものです(よって、内容は烏賀陽の原義とはかなり隔たっていますが、そのへんはひとまず置きます)。よって、烏賀陽が能動的に寄稿したものでも、執筆したものでもありません。
その中で、烏賀陽はオリコンのヒットチャートのあり方についていくつかの疑問を提示しています。ここにコメントしたことは、烏賀陽の取材経験でも、音楽業界内の複数のソースから何度も出た話で、特に目新しい話や驚くような話はひとつもありません。
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この訴訟には、いくつか露骨なまでの特徴があります。
(1)記事を掲載した「サイゾー」および発行元「インフォバーン」を訴訟対象にしていないこと。つまり烏賀陽個人だけを狙い撃ちしている。烏賀陽は前述の弁護士費用、訴訟準備などをすべて一人で負担しなければならないことになります。これではフリー記者としての活動を停止し、訴訟対策に専念しなくてはなりません。みなさん、ワタクシは生活費は一体どうやって稼げばよいのでしょう(笑)。
(2)この5000万円という金額は、応訴するために弁護士を雇うだけでも着手金が219万円かかるというおそるべき額です(そんな貯金あるわけないですがな=笑)。裁判で負ければ、烏賀陽はジャーナリストとしての信用を失い、職業的生命を抹殺されてしまうばかりか、賠償金を払えず、社会的生命をも抹殺されかねない恐れがあります。
どこかで聞いた覚えはありませんか? そう。これは、ジャーナリストの批判を封じるための恫喝を目的とした、消費者金融・武富士がかつて行ったのと同じ手法の、恫喝訴訟と言えるでしょう(武富士訴訟ではジャーナリスト側が勝訴し、逆に武富士を訴えて勝っています)。
http://www.kinyobi.co.jp/takefuji
(3)しかも、訴状をどうひっくり返して読んでも、なぜ5000万円の損害を受けたのかと
いう計算の合理的根拠はまったくどこにも書いてありません。ずさん、というより、相手が払えない(そしてビビる)高額であればそれでいいという額をテキトーに選んだ印象を受けます。
(3)烏賀陽は一貫して「レコード会社の宣伝・営業担当者にはオリコンの数字を操作しようとする良からぬ輩もいる=オリコンは被害者である」という立場を取っているし、文意からもそれは明らかなのに、なぜかオリコンはそれを無視し(あるいは理解できず)烏賀陽の記事が自社の信用を損なったと主張していること。
(4)裁判の証拠書類として、烏賀陽が「アエラ」03年2月3日号に書いたオリコンの記事が添付されていました。
http://ugaya.com/private/music_jpopcolumn18.html
これはオリコンのデータとPOSデータ(サウンドスキャン社)のデータが乖離しているのはなぜか?という疑問を提示したものです。この記事も当時オリコンの小池恒右社長の憤激を買いました(社長直々にお怒りの電話を頂戴しました)ので、烏賀陽がオリコンの「好ましからざる人物」にリストアップされていたことは間違いありません(取材拒否も数回あり)。
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みなさん。ぼくはずぼらなので「運動」とか「闘争」とか「たたかい」とかとは縁遠い人間ですが、この訴訟はいくらなんでもひどすぎる。あまりに露骨な言論妨害だ。言論・表現の自由という基本的人権、フリーランス記者を小馬鹿にしている。
もしこの種の恫喝訴訟がまかり通るようになれば、フリー記者には(いや、あるいは社員記者もできなくなるかも)企業批判はまったくできなくなります。そんな時代が来てほしいですか?ぼくはいやです。
これが言論の自由への冒涜でなくて何でしょう。これは体を張ってでも阻止せねばなりません。
というわけで、みなさん。長々とすみません。お忙しいところ本当に恐縮ですが、どうかお知恵とお力を貸してください。
どうか無視しないでください。助けてください。ぼくも2,3日前まではこんな話は(けしからんことに)他人事だと思っていたのです。でも、こんな恐ろしいことが、いつ、どこでみなさんの上に厄災として降りかかるかわからない時代になってきたようです。
長文失礼しました。ご静聴に感謝します。
烏賀陽
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(以上、転載終了)

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