今月のニュース記事を先行掲示します!!
今月のテーマは「アルパインクライミングの順序」です。
かなり難しいテーマですが、ご要望がありましたので、以下のようにまとめてみました。諸先輩皆さん のご意見を集積させてみましたのでご参考にしてください。
まずは本だと思います。そして憧れ。
私の経験上の話ですが、とにかく私の時代は雑誌と本でした。情報の90%以上はそこから得ていまし
た。まず教本を総なめにして、トポを一通り揃える。その中で一番簡単なものをピックアップしてそこか ら計画を立てていく、そんな感じです。そこで写真などは重要ですね、そそられる写真をみて妄想するこ とが最初のクライミングだと思います。
私が山を始めた頃は千葉にいて、アルパインの登竜門といえば谷川岳と相場が決まっていました。そこ には初心者は、烏帽子岩南陵、衝立岩中央陵とまた相場が決まっていて、アプローチも長く、悪いところ が多く、錫杖よりもアルパイン要素が強く、非常にいい本ちゃんエリアでした。しかし晴天率も低く、名 古屋エリアからは非常に遠くお勧めできません。谷川という山は、関東の労山の伝統的岩場で、日帰り可 能なアルパインという特殊な事情から大変発展した岩場です。あくまで劔、穂高に行けない事情があった からです。
では、この東海地方においてはどうか?東海山岳会は伝統的に本当の雪と岩の殿堂、穂高、劔を登り込 んできた歴史があります。もちろん日帰りは無理ですし、アプローチは長い。だからこそ岩登りの技術だ けではない総合的な知識、経験を積むことができます。北尾根や源次郎、八つ峰IV峰など、自力で行くこ とができるルートも多くあります。
そんなに休みが取れない、やることがいっぱいある、おっしゃる通りですが、今、いろんな意味で時代 の変化の只中にあり、働き方を変える時代が来ています。かつては、山をやるために定職に付かない事も 止む無しという時代でした。こそこそ隠れるように山登りをすることが現実でした。しかし今、モーレツ に働くことよりは、多面的な人間が必要になってきました。労働者の価値観が変わったのです。そう、 堂々と休みをとって山に行く時代になったのです。
しかしながら、ベテラン衆は家庭を持ったり、体力が落ちたりして、北アに通い込むことは難しい人が 多いです。そこで、錫杖というエリアをうまく使えるといいと思います。日帰り可能でアプローチも近 く、難易度も豊富なので、連れて行ってもらい易いです。
まず何をもって一人前と言えるのか?
まず大前提として、基本的なことが体に染み付いていることです。お互いに何も言わないでも次の行動 に流れるように移っていくぐらいの感じができていて、岩場にいることが普通の感じまで持っていく必要 があります。それは言わずと知れた御在所などでのトレーニングです。
そうしてから山に向かうのですが、ここで身につけるのは単にテクニックや知識だけではありません。 「自己完結できる」ということが最大の要素だと思います。つまり、無事に下山できる判断と行動を取れ るようになるということです。
これは言葉で言うと一言ですが、大変習得することに量と時間をかけないと難しいと思います。具体的 には、「行ってみたらどうあがいてもホールドがなくいけない。しかしスリングで立ち込めば次のガバに 届きそう。」とか、「残置をすれば降りて来れるから突っこんでみるか」と言う判断ができるかです。こ れはフリークライミングでも培われるもので、こう言う意味でも人工登攀は出来るようになっておかなけ ればいけません。
また、ルート自体の難易度や、目標設定に非常に有効なのが、自分の知っている人(特に会の先輩な ど)が登っている場合、その人と比較して自分に登れるかどうかを判断することです。例えば経験はある けどフリーの実力は自分と変わらない場合、「あの人が登っているから技術的にはなんとかなるだろう、 だから話を聞いて危険要素を教えてもらおう」とか、「あとはこういった経験を積めば行けるかもしれな い」などの判断につながります。
そして、これらのことを身につけるのに非常に有効なのが、「リーダーをやること」です。これはやっ てみればすぐわかるがやってみないと永遠にわからない人間の特性です。どんな山行であれ、全責任が両 肩にのしかかる感覚を是非体験して、それによる自分の言動、判断の変化、そして、大きな成長を体感し て、どんどんリーダーをしてもらいたいと思います。当然リーダーが出来なければ一人前にはなれません。
順序としては?
難しいところですが、以下の感じじゃないでしょうか?
御在所、名張などでマルチ、クラック技術、カム技術の習得⇄自力で穂高、劔などで簡単な岩場を経験;自 力、連れて行ってもらうのを交えて小川山、城山などのマルチフリー、錫杖などアルパイン⇄自力で錫杖 のクラシックルートがこなせるようになる。これがある意味、会教育での最終目標でしょう。
ここまで来るのに最短でも3年以上はかかると思われます。とにかく回数が大事で、矢印の次の段階に 入るためには数をこなす必要があります。それは、前出したことが理由で、単純にこれを経験したからい いよとか、これが出来るようになればいいとこか簡単な話ではないからです。量は大事です。
また、順序立てること以上に大事なのは、それぞれの段階を行き来して実力を把握し、挑戦もしつつ謙 虚でもあることでしょう。
具体的なルートは?
とにかく最初の目標は穂高、劔となります。その中でも一番登りやすいのは、劔、源次郎尾根、八ツ峰 VI峰フェース;穂高前穂北尾根、滝谷ドーム周辺等です。どちらも合宿で何度も行ってますので、情報は 豊富です。
小川山、屋根岩二峰三峰、城山、南壁など、ここらへんも情報豊富で、登りやすいです。
そして、錫杖ですが、アプローチも短い最高の岩場です。しかしながら、錫杖は最新の哲学が入った岩 場なので、ハーケンがほぼありません。その為、カムの習熟度を完璧にする必要がり、リードをするには ある程度経験を積んでからになります。とにかく先輩を引っ張り出して連れて行ってもらいましょう。
皆さんご存知、初めていくなら左方カンテ、自分より弱い人を連れていくなら左方カンテ。1ルンゼも 超快適、3ルンゼも登りやすいようです(私は行ってない)。
そして、一人前へ登竜門として「注文の多い料理店」という、素晴らしいルートをお勧めします。高度 感抜群な上、はっきりV級と言えるムーブが出てきます。懸垂下降もしやすく左方カンテと近いので、継続 で登ったり、いろんな意味で非常にいい位置づけになるルートだと思います。
焦らず、数年間は地固めをしよう!
ここまで読んでいただいて、流れとしてはわかっていただいたと思いますが、文章にするとこんな量で すが、実はこれをこなすのには大変な時間と労力が必要です。
こことここを登っておけばハイオッケイですと言うような簡単な話では無いのです。結局文章には出来 ないことだらけで、それを補うものは経験、それを証明することは回数(時間)としか言いようがないの です。
この、超効率化されつつある世の中には合わない考え方かもしれませんが、人間の技術が多少進歩した ところで、相手にする自然が大きくなればなるほどそういったものは無効化されてしまうと思います。そ ういったことを身をもって経験していいって、独り立ちしたクライマーになっていくのだと思います。
そういった謙虚な姿勢で登山に望めば、事故は最低限の抑えることができると信じていますし、それ が東海山岳会の伝統的な考え方だと私は思います。
次回には、順番にこだわらず、いろんなことも書いてみたいと思います。